あなたの家族にしてください

秋月真鳥

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25.ティエリーとサイモンの誕生日

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 ティエリーの言動にサイモンは動揺させられることが多かった。
 同居してから初めてのヒートのときに、中で出してほしかったと言われて言葉に詰まってしまった。
 あのときサイモンの方も理性がギリギリで避妊具を付けるのが間に合わなくなりそうだったのに、そんなことを言われるとますます我慢ができなくなる。
 抱いてほしいとベッドで待っていたときには、シャワーで洗浄してボディソープで準備をしたと言われて目を剥いた。ティエリーが受け入れてくれたときのために、オメガでもヒート期間以外はほとんど濡れない男性もいるので、体に害のない口に入れても平気なローションを買って用意していたが、それを先にティエリーに伝えてバスルームにも置いておけばよかったと反省した。

 ボディソープではなくローションを使うことを教えて、洗浄は見せなくていいから準備は任せてほしいと言えば、ティエリーは大人しく頷く。
 その後で抱き合ったが、ティエリーの体に溺れてフェロモンに誘われて、際限なく貪ってしまいそうになったので、サイモンは回数を決めてきっちりとやめた。行為をやめてバスルームにティエリーを連れて行って、体を流して、バスタブに溜めたお湯の中に二人で浸かる。
 大柄な男性二人が入るには狭かったが、サイモンがティエリーの脚の間に入れば何とか二人でも浸かることができた。
 顔中に口付けを振らせて、まだ続けたい気持ちはあったが、明日があるので我慢して、サイモンはティエリーとシーツを変えて清潔になったベッドで休んだ。

 休みの日にはティエリーとパン屋にも行った。
 オメガの従業員も募集しているというパン屋でティエリーは若い女性の店主に気に入られたようだった。サイモンとしてはその女性の店主がアルファだったので思うところがないわけではないが、番のいるティエリーは他のアルファにフェロモンを漏らさないし、ティエリーを信じようと思って背中を押した。
 働きながら資格を取ってもらうという店主に、ティエリーはオメガでも資格が取れるのかと驚いていたが、当然できるのだと伝えるとぜひ資格を取りたいと意気込んでいた。

 ティエリーの世界が広がっていくことに関して、サイモンは喜ばしいことだと思っていた。

 新しい携帯端末については、サイモンが覗けないようにしようと考えていたのに、ティエリーの方から申し出があった。

「サイモンが見守っていてくれる方が安心です。これまで通りにしてください」
「ストーカーだと引かない?」
「サイモンはストーカーではなくて、わたしの夫で番でしょう?」

 アルファ特有の独占欲もティエリーは心を広く受け入れてくれるようだった。
 新しい携帯端末も自動的にサイモンの作ったサーバーにデータがバックアップされるように設定して、パスワードもティエリーと一緒に決めた。メッセージアプリのパスワードすら、ティエリーはサイモンと共有して構わないようだった。

 ヒートが近くなるとティエリーはサイモンにくっつきたがるようになる。
 ソファでティエリーの脚の間に座って、背中から抱き締められている図は、アルファとオメガ逆なのではないかとも思うが、ティエリーがサイモンの肩口に顔を埋めてフェロモンを吸い込んで幸せそうにしているのでいいことにした。

「サイモンの香り、下腹部が疼きます。サイモンに満たされたい」

 少しずつティエリーのフェロモンが濃くなって、サイモンを求めるようになると、サイモンも番休暇を取ってティエリーと過ごすことにした。
 避妊具の薄い皮膜一枚。
 それを隔てないだけで、ティエリーにとっても、サイモンにとっても、ヒート期間はあまりに素晴らしくて、理性が飛びそうだった。
 ティエリーの中にたっぷりと出して、ティエリーもそれを受け止めて、行為に溺れるだけの濃厚な三日間を過ごした後は、食事を摂ったり、シャワーを浴びたり、余裕が出て来て、行為は変わらず激しかったが、多少は人間らしい生活を四日間過ごす。
 二人で過ごした二回目のヒートで、ティエリーは妊娠しなかった。

 気落ちするティエリーにサイモンはその腰を抱いて、頬に啄むような口付けをしながら慰める。

「急ぐことはないよ。ティエリーもまだ若いんだから」
「わたしはもう二十五なんですよ? 誕生日は分からないけど、もう二十六になってるかもしれない」

 不安そうなティエリーにサイモンは伝えていなかったことがあったのを思い出した。

「ティエリーは二月生まれ。おれと出会ったのが四月で、今が十月だから、誕生日まではまだ四か月あるよ」
「わたしの誕生日が分かるのですか?」
「ティエリーが育った施設の記録に残ってた。ティエリーはおよそ二か月間隔でヒートが来てるから、誕生日までにあと二回はヒートがあると思う」
「そうなんですね。サイモンの誕生日は?」
「おれは十二月。クリスマス近くだから、毎年クリスマスと一緒に祝われてたんだよな。それがちょっと嫌だった」

 誕生日を聞かれたのでティエリーの誕生日もサイモンの誕生日も答えると、ティエリーはそわそわとしている。

「サイモンの誕生日までにお給料が少ししか貯まりません」
「誕生日プレゼントをくれる予定だったの?」
「誕生日にはプレゼントを贈るものではないのですか?」

 ティエリーの常識は本で読んだものが多いので、四角四面になってしまうところがあるが、サイモンの誕生日を知ったからにはプレゼントを贈らなければいけないと考えてくれたようだ。

「それなら、誕生日におれの頼みを叶えてくれる?」
「はい。なんでも」
「なんでもとか、内容も聞かずに簡単に答えちゃダメだよ」
「サイモンの言うことならなんでも叶えたいんです」

 健気で可愛いことを言うこの番を、サイモンは抱き締めて、口付けて、ベッドに連れ込みたい気分になったが、ぐっと我慢した。

「結婚式の衣装を作りに行こう。おれもティエリーも規格外に大きいから、特注品の方がしっくりくるだろう。既製品だと選択肢がないかもしれない」
「結婚式を挙げるんですか? もう婚姻届けは出していますよ?」
「ティエリーが落ち着いたら結婚式は挙げたいと思っていた。おれの両親と、レイモンと、レミとイポリートとジルベルトに参加してもらって」
「あの……わたしからもお願いしていいですか?」
「いいよ」
「サイモンも、内容を聞かずにいいって言うじゃないですか」

 ティエリーが無茶なことを言うわけがないので、サイモンも内容を聞かずに了承してしまうが、それはティエリーを信頼しているからに他ならなかった。

「あの国境の町のパン屋のお二人を結婚式に招待したいんです」
「それはいいね。ティエリーを大事にしてくれていたみたいだし、ぜひ招待しよう」

 ティエリーにも結婚式に招待したいひとがいたことにサイモンは嬉しくなる。

「今の店長と従業員の仲のいいひとたちもいいですか?」
「もちろん。小さな会場しか借りないつもりだったけど、何人くらいになるかな?」
「店長と厨房の三人を呼びたいので、国境の町のパン屋のお二人も合わせて、六人くらいでしょうか」
「おれの方も六人だな。十二人なら、それほど大きな会場でなくてもよさそうだな」

 どの会場を予約するか考えつつ、サイモンはティエリーの手を取った。ティエリーはサイモンよりも大柄なので手も大きい。

「結婚指輪も買おう」
「わたし、パン屋の仕事があるので付けられません」
「おれも仕事中は付けられないから、首から下げておくよ。チェーンも買おう」

 結婚式の衣装を注文して、結婚指輪も買って、チェーンも買って、結婚式の会場も予約する。結婚式のことを考えていると、ティエリーがおずおずと聞いてくる。

「わたしばかり幸せな気がします。これがサイモンの誕生日お祝いでいいのでしょうか」
「おれも最高に幸せだよ。おれの誕生日に衣装を注文して、ティエリーの誕生日に結婚式を挙げよう。それなら、お互いの誕生日お祝いになるだろう?」
「わたしの誕生日が結婚記念日になるんですか。嬉しいです」

 胸を押さえて感動しているティエリーをサイモンは抱き寄せる。口付けると、ティエリーからも口付けが返ってきた。

「ティエリーが妊娠したときには、両親に報告に行こうね」
「はい。初めての孫ですからね」
「それだけじゃないんだ。ティエリーは気付かなかった?」
「なににですか?」

 何の疑問も抱いていない様子のティエリーにサイモンは苦笑しながら、耳元で囁いた。

「おれの両親、男性の方がオメガで母、女性の方がアルファで父なんだ」
「え!?」

 番になっているのでティエリーは他人のフェロモンを感じ取ることができない。サイモンの両親も番なのでフェロモンを漏らすことはない。それなので分からなかったようだが、サイモンにとっては男性の方が母で、女性の方が父だった。

「全然気付かなかったです。わたし、第二性には鈍いみたいです。女性の方がサイモンのお母様で、男性の方がお父様だと思っていました」
「逆なんだよ。だから、ティエリーは妊娠したらおれの母に男性のオメガの妊娠がどういうものか聞けばいい。協力もしてくれると思うよ」

 全く気付いていなかった様子のティエリーに、周囲もあまり気付いていない自分の両親のことを告げられて、サイモンは安堵していた。

「ティエリーのパン屋の店長がアルファだってことも気付いてない?」
「あ、それは、ちょっとだけそうかなって思ってました。確信はなかったし、第二性のことを聞くのは失礼にあたるので確認していませんが」

 店長がアルファであるということはなんとなく気付いていたようだった。

「募集要項を見たら、オメガは番がいるもののみと書かれていたから、そうだろうとは思ったけど、顔を見たらすぐに分かったな」

 アルファ同士は牽制しあうので、お互いにすぐに分かってしまう。
 特にサイモンはティエリーに威嚇のフェロモンを強くつけているのでアルファだということはティエリーのそばにいればすぐに分かってしまう。

「店長がアルファでも、わたしには関係ありません」
「そうだよね」
「わたしにとって、アルファは、サイモン一人だけなので」

 ティエリーにとってサイモンは唯一のアルファになれている。
 そのことがサイモンは嬉しくてたまらなかった。
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