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間章
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間章
神殿という器
神殿は、丘の上に建っている。街を見下ろす位置にあり、どこからでも白い尖塔が見えた。それは、祈りのためではない。見下ろすためだ。神殿の奥、聖務官たちが集う円卓では、今日も静かな議論が交わされていた。
「……効果が、安定しません」
若い聖務官が、帳簿を閉じながら言う。
「祈りの後、一時的には改善しますが、三日と持たない症例が増えています」
「当然だ」
年嵩の聖務官が、淡々と答えた。
「聖女とは、祈りの形ではなく、結果によって判断される存在だ」
別の者が、言葉を継ぐ。
「だが、形式は整っています。儀式も祝詞も、過去の聖女の記録通りです」
「それで十分だ」
誰かが、そう断じた。
神殿にとって重要なのは、“奇跡が起きたかどうか”ではない。起きたと、人々が信じるかどうかだ。
「民は安心を欲している。完全な癒しなど、求めていない」
「むしろ、万能な存在は不安を生む」
「制御できぬ力ほど、恐ろしいものはないからな」
静かな笑いが、円卓を巡る。
かつて――本物の聖女がいた時代。
彼女は、神殿に縛られなかった。
祈らず、命じられず、ただ、在るだけで世界を整えた。それは、神殿にとってあまりにも危険な存在だった。
「……だから、彼女は“異端”とされた」
誰かが、ぽつりと言う。
「神殿に属さぬ聖女など、扱いきれない」
「だが、今の聖女は違う」
若い聖務官が、帳簿を見つめながら言った。
「神殿に従い、祈り、祝詞を唱え、決められた場に立つ」
「それでいい」
年嵩の聖務官は頷いた。
「聖女とは、神殿に“在るべき姿”で在ればいい」
「力の源など、問題ではない」
「……では、公爵家の長女は?」
一瞬、空気が止まる。
「離れにいる娘のことか」
「はい。あの娘が近くにいるときの方が、
症例が安定していたという報告が……」
「偶然だ」
即座に、遮られた。
「その娘は、何もしていない」
「祈りも、儀式も、一切行っていないではないか」
それが、答えだった。
神殿は、祈らぬ奇跡を認めない。
だから、祈る者を聖女と呼び、沈黙する者を切り捨てる。
「――聖女は、神殿で祈るものだ」
誰かが、確認するように言った。
誰も、否定しなかった。
その決定が、一人の少女を
“ただの役目を終えた存在”に変えた。
そして、偽りの聖女が、神殿の光の中に立つ。
本物の加護が、離れの小屋にあるとも知らずに。
神殿という器
神殿は、丘の上に建っている。街を見下ろす位置にあり、どこからでも白い尖塔が見えた。それは、祈りのためではない。見下ろすためだ。神殿の奥、聖務官たちが集う円卓では、今日も静かな議論が交わされていた。
「……効果が、安定しません」
若い聖務官が、帳簿を閉じながら言う。
「祈りの後、一時的には改善しますが、三日と持たない症例が増えています」
「当然だ」
年嵩の聖務官が、淡々と答えた。
「聖女とは、祈りの形ではなく、結果によって判断される存在だ」
別の者が、言葉を継ぐ。
「だが、形式は整っています。儀式も祝詞も、過去の聖女の記録通りです」
「それで十分だ」
誰かが、そう断じた。
神殿にとって重要なのは、“奇跡が起きたかどうか”ではない。起きたと、人々が信じるかどうかだ。
「民は安心を欲している。完全な癒しなど、求めていない」
「むしろ、万能な存在は不安を生む」
「制御できぬ力ほど、恐ろしいものはないからな」
静かな笑いが、円卓を巡る。
かつて――本物の聖女がいた時代。
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祈らず、命じられず、ただ、在るだけで世界を整えた。それは、神殿にとってあまりにも危険な存在だった。
「……だから、彼女は“異端”とされた」
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「神殿に属さぬ聖女など、扱いきれない」
「だが、今の聖女は違う」
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「神殿に従い、祈り、祝詞を唱え、決められた場に立つ」
「それでいい」
年嵩の聖務官は頷いた。
「聖女とは、神殿に“在るべき姿”で在ればいい」
「力の源など、問題ではない」
「……では、公爵家の長女は?」
一瞬、空気が止まる。
「離れにいる娘のことか」
「はい。あの娘が近くにいるときの方が、
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「偶然だ」
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だから、祈る者を聖女と呼び、沈黙する者を切り捨てる。
「――聖女は、神殿で祈るものだ」
誰かが、確認するように言った。
誰も、否定しなかった。
その決定が、一人の少女を
“ただの役目を終えた存在”に変えた。
そして、偽りの聖女が、神殿の光の中に立つ。
本物の加護が、離れの小屋にあるとも知らずに。
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