皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

文字の大きさ
10 / 41

しおりを挟む
屋敷の空気を変える

メイドたちを集めたのは、朝だった。

場所は中庭。回廊に囲まれ、どこへも逃げられない空間。朝露の残る石畳の上で、ざわつく声が渦を巻く。不安。侮り。そして、まだ自分たちが“上”だと思っている視線。私は、その中央に立った。背筋を伸ばし、何も持たない両手を下げたまま。

「――集まってもらったのは、他でもありません」

声は大きくない。けれど、不思議と全員に届いた。

「今日から、屋敷の実務は私が管轄します」

ざわり、と空気が揺れる。

「当主代理、オリビア・ヴェルトリナス・ハーベルトです」

一瞬の沈黙。

……そして。

「は?」

誰かが、笑った。

「何様のつもりよ」
「聖女でもないくせに」

嘲る声が、二つ三つ重なる。私は、その一人を見た。

「今の発言」

指を、軽く鳴らす。

「解雇」

女の顔から、血の気が引いた。

「え……?」

「公爵令嬢への暴言」
「理由としては、十分です」

執事が一歩前に出る。

「連れて行け」

二人の使用人が女の腕を掴み、そのまま引きずっていく。悲鳴が上がり、ざわめきは恐怖に変わった。

「次」

私は、視線を巡らせる。

震えている者。
睨み返す者。

「――えりー?」

名を呼ばれたメイドが、びくりと肩を震わせた。

「覚えてる?」

一歩、距離を詰める。

「熱い湯を“うっかり”かけたわよね」
「階段で、背中を押したことも」

彼女が口を開きかける。

「ち、違――」

「公爵令嬢への暴行」

私は、淡々と被せた。

「牢屋行き」

即断。

「は、はぁ!?」

「連行」

抵抗の声は、すぐに消えた。

私は、続ける。

「次」

「次」

「次」

名前を呼ばれた者は、
誰一人、反論できなかった。

記録はある。
証言もある。

――すべて、把握済み。

そのとき。

「何をしているの!」

甲高い声が、中庭に響いた。

義母だった。

豪奢なドレス。
過剰な宝飾。

その姿は、貴族というより、
“成り上がりを誇示する人間”そのものだった。彼女は元々、男爵家の出身だ。若くして夫を亡くし、未亡人となった後、巧みな社交と計算で父に近づき、この屋敷に入り込んだ。金の使い方は派手だが、人の繋ぎ方は浅い。

――だからこそ、ここまで来られた。

「あなたごときが!」
「使用人に何を――」

言葉の途中で。

――バシン。

乾いた音が、中庭に響いた。私の手が、義母の頬を打っていた。空気が、完全に凍りつく。義母は、呆然と私を見た。

「……今のは」

私は、冷たく告げる。

「当主代理への暴言です」

一歩、前に出る。

「もう一度言ったら」
「次は、王家案件になります」

義母の口が、開いたまま閉じない。私は、静かに続けた。

「お義母様」
「あなたは、金の使い方しか知らない」

「社交で家の価値を上げたこともない」
「人脈を残したこともない」

「成り上がったこと自体は否定しません」
「でも――」

視線を、真正面から合わせる。

「誇りが、ない」

義母が、唇を噛む。

「……調子に乗るのもいい加減にしなさい」

震える声。

「偶然よ」
「あなたが力を持っているなんて、誰も――」

私は、ため息をついた。

(ああ、これはもう)

警告は、十分だった。

「お義母様」

声は低く、穏やか。

「これ以上は、越えてはいけない線です」

右手を、ゆっくりと掲げる。空気が、張り詰めた。掌の上に、澄んだ水が集まり始める。

雫が重なり、流れを持ち、やがて――

人一人を包めるほどの、巨大な水の球体へと形を変えた。内側では、一定のリズムで水が巡り、静かな渦を描いている。

(回して、流して、余分なものを落とす)

イメージは、完璧。

「汚れは、水で清めるものです」

私は、淡々と言った。

「貴族社会の基本でしょう?」

義母が、後ずさる。

「……や、やめ――」

水の球体が、するりと前へ滑る。義母の身体は、そのまま水の中へ引き込まれた。

「きゃあああああっ!!」

叫び声は、水に遮られ、くぐもる。球体の内側で、水流が加速する。

回転。
循環。
分離。

宝石も、化粧も、張り付いた虚栄も。すべてが、削ぎ落とされていく。やがて、渦が収まり――ぽん、と音を立てて、義母が床に放り出された。

髪は整い、化粧は消え、衣服だけが、不自然なほど清潔。私は、小さく祝詞を添える。

「乾燥」

温かな風が一瞬吹き、水気が消えた。床にへたり込み、声も出せず震える義母。私は、しゃがみ込み、視線を合わせる。

「綺麗になりましたね」

優しい声で。

「これが、最後の警告です」

立ち上がる。

「次は、屋敷の外で行います」
「王家の前で」

義母は、必死に首を振った。もう、逆らう言葉は出てこない。私は、周囲を見渡す。
メイドたちは、誰一人、顔を上げない。

それでいい。

私は、解散を告げる前に、一人だけ視線を留めた。中庭の端。人影に紛れるように立つ、小柄なメイド。

「……マリア」

名を呼ばれて、彼女はびくりと肩を跳ねさせた。マリアは、卑怯なタイプではない。
熱湯をかけることも、階段で突き飛ばすこともなかった。

ただ――笑っただけ。無視しただけ。
困っているときに、見て見ぬふりをしただけ。

小さな意地悪。
小心者の選択。

「あなたは、どう思っていたの?」

静かに問う。マリアは、唇を噛みしめ、やがて、震える声で答えた。

「……逆らえませんでした」
「怖くて……」

私は、少し首を傾げた。

「正直ね」

一拍。

「あなたは、首にしません」

周囲が、ざわつく。

マリアが、目を見開いた。

「その代わり」

私は、はっきり告げる。

「今日から、あなたは私の専属です」

「逃げ場はありません」
「命令は絶対」
「裏切れば、その時点で終わり」

マリアの顔が、青ざめる。けれど。

「……はい」

彼女は、逃げなかった。私は、満足そうに頷く。

「小さな意地悪しかできなかった人間は」
「小さな仕事から、ちゃんと覚えなさい」

「生き残りたければ、役に立つこと」

それだけを告げ、私は視線を外した。それでいい。


「解散」

短く告げる。

「持ち場に戻りなさい」
「この屋敷は、今日から清浄です」

誰も、逆らわなかった。働いたわ。だらけたい。

「……ふぅ」

(掃除、完了)

あとは――王家か、神殿か。

次に動くのは、どちらかしら。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

好きだった幼馴染みに再会→婚約者を捨ててプロポーズした侯爵令息

星森
恋愛
侯爵家の令息エドモンドは、幼い頃に結婚を誓い合った幼馴染コレットへの執着を捨てられずにいた。 しかし再会した彼女は自分を避け、公爵令息アランと親しくする姿ばかりが目に入る。 嫉妬と焦燥に駆られたエドモンドは、ついに“ある計画”に手を染めてしまう。 偶然を装った救出劇、強引な求愛、婚約破棄── すべてはコレットを取り戻すためだった。 そして2人は……? ⚠️本作はAIが生成した文章を一部に使っています。

母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない

春風由実
恋愛
「何故お前が生きた?」 それは怪我をして長く眠っていたエルリカが、目覚めた直後に父親である公爵から掛けられた言葉だった。 「お前こそが、女神の元に行くべきだった!」 父親から強い口調で詰られたエルリカ。 普通の令嬢は、ここで泣くか、その後立ち直れなくなるという。 けれどエルリカは違った。 「あなたこそ、何をのうのうと元気にしているのですか?」 そうしてこの日父娘は、それぞれに絶縁を宣言した。 以来、母方の祖父母に引き取られ、侯爵領で過ごしてきたエルリカ。 ところが公爵は、いつまでもエルリカを除籍する手続きを実行しなかった。 おかげで名ばかりの公爵令嬢のまま、エルリカが王都へと戻る日がやって来てしまう──。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから

有賀冬馬
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。 雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。 彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。 ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...