『偽物』と追放された真の聖女ですが、辺境の冷徹公爵に拾われて溺愛されています。ちなみに私を捨てた国は禁術の呪いで滅びかけているようです。

ささい

文字の大きさ
2 / 4

第二話:誰かの役に立ちたい

しおりを挟む
翌朝、エミリシアは一台の粗末な馬車に乗せられた。
持たされたのは、わずかな私物と、これまでの給金を切り詰めて貯めた小銭だけ。だが、国門をくぐり、澱んだ王都の空気が遠ざかるにつれ、彼女の心は不思議なほど軽くなっていった。

「あんな歪な光が聖女の力だなんて……。あの国は、自分たちで破滅への鍵を開けてしまったわ」

エミリシアは自らの額にある聖印に触れる。
先代聖女ルチアーナがかつて「この子は本物ですよ」と祝福してくれた、あの日の温もりだけが今の彼女を支えていた。
馬車に揺られること十五日。
たどり着いたミューレンベルクは深い森と険しい山々に囲まれた、文字通りの最果てだった。
だが、そこには王都のような虚飾も、悪意に満ちた視線もない。

村の入り口で馬車を降ろされたエミリシアは、まず領主への挨拶に向かうことにした。
老婆に教えられた通り、村の北側にある石造りの屋敷を訪ねると、そこでは一人の男が黙々と薪を割っていた。
漆黒の髪を短く整え、彫刻のように整った横顔。瞳は深い海のような青灰色。
質素なシャツの袖を捲り上げた腕には、無駄のない筋肉が躍動している。

「あの……失礼いたします。この村に移住してまいりました、エミリシアと申します」

男が斧を止め、ゆっくりと顔を上げた。その鋭い視線がエミリシアを射抜く。

「エミリシア……。王都から追放されたという、例の『偽聖女』か」

その言葉にエミリシアが身を固くした瞬間、男は斧を傍らに置き、意外なほど穏やかな動作で汗を拭った。

「俺はこの地の領主、レオフィリス・ミューレンベルクだ。事情は聞いている。だが、王都の連中が何を言おうと、俺の領地では関係ない。ここでは『今、何をするか』だけが価値を決める」

レオフィリスは一歩、エミリシアに歩み寄った。
その圧倒的な存在感に気圧されそうになるが、不思議と恐怖は感じない。むしろ、彼からは清涼な水のような、心地よい魔力の波動が伝わってきた。

「エミリシア、君に一つだけ聞く。君はこの村で、何をしたい?」

「……誰かの役に立ちたいです。私は祈ることしかできません。それでも、この村の人々が健やかに過ごせるよう、力を尽くしたい」

エミリシアの真っ直ぐな瞳を受け、レオフィリスの口元がわずかに綻んだように見えた。

「……いい答えだ。ならば、教会の手伝いを頼もう。住む場所もそこにある」

レオフィリスはエミリシアの手を取り、その手の甲に恭しく唇を落とした。

「歓迎しよう、エミリシア。ミューレンベルクは、君のような美しい心根の働き手を拒まない」

不意の接触と熱い体温。エミリシアの頬が一気に赤く染まる。
王都では誰からも触れられず、忌み嫌われていた自分が大切に扱われている。

「あ、あの、レオフィリス様……?」

「さあ、案内しよう。君の新しい生活の始まりだ」

レオフィリスの力強い手に見守られ、エミリシアは新たな一歩を踏み出した。
この時、彼女はまだ知らなかった。
自分を捨てた王都が、リディエッタの「禁術」によって急速に腐敗し、滅びの坂を転がり落ち始めていることを。
そして、目の前の冷徹と名高い領主が、実は自分に対して並々ならぬ執着を抱き始めていることを。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

追放された聖女ですが辺境領主と幸せになります。禁術で自滅した偽聖女と王太子の完治?無理ですね。

ささい
恋愛
十年間、奇跡を起こせなかった聖女エミリシアは、王太子に追放された。 辺境の村ミューレンベルクで静かに暮らし始めた彼女は、領主レオフィリスの優しさに触れ、心の平穏を取り戻していく。 ある日、村で疫病が発生。子供たちの命を救いたい一心で祈った時、ついに聖女の力が目覚めた。 その後、王都から助けを求める使者が現れる。 追放した王太子とその婚約者候補リディエッタが、禁術の反動で倒れたという。 エミリシアは命を救うため王都へ向かうが、二人の完治は不可能だった。 全てを終え、彼女はレオフィリスと共に愛する村へ帰る。 ◇ 命を見捨てなかった。浄化はした。治癒は。 ◇ ※他サイトにも投稿しております。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

「君の回復魔法は痛い」と追放されたので、国を浄化するのをやめました

希羽
恋愛
「君の回復魔法は痛いから」と婚約破棄され、国外追放された聖女エレナ。しかし彼女の魔法は、呪いを根こそぎ消滅させる最強の聖なる焼却だった。国を見限って辺境で薬草カフェを開くと、その技術に惚れ込んだ伝説の竜王やフェンリルが常連になり、悠々自適なスローライフが始まる。 一方、エレナを追放した王国はパニックに陥っていた。新しく迎えた聖女の魔法は、ただ痛みを麻痺させるだけの「痛み止め」に過ぎず、国中に蔓延する呪いを防ぐことができなかったのだ。 原因不明の奇病、腐り落ちる騎士の腕、そして復活する魔王の封印。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう遅い。 私の店は世界最強の竜王様が警備しているので、王家の使いだろうと門前払いです。 ※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...