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第一話:奪うものではなく捧げるもの
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王都の空気は、今朝に限って刺すように冷たかった。
聖女エミリシアが呼び出されたのは、朝日が石造りの王城を照らし始めたばかりの刻限である。
「聖女エミリシア様、王太子殿下がお呼びです。直ちに謁見の間へ」
使者の声には、かつての敬意など微塵も含まれていなかった。事務的で、どこか獲物を追い詰めるような冷酷な響き。エミリシアは胸に広がる嫌な予感を抑え、質素な修道服の裾を握りしめた。
この一年、婚約者でもある王太子ユーベルトの態度は豹変していた。かつては「君の祈りがこの国を救う」と優しく微笑んでくれた彼だったが、今ではその視線に憎悪すら混じっている。その原因は明白だった。半年前に教会を訪れた侯爵令嬢、リディエッタ・フォン・エーデルシュタインの存在だ。
重厚な扉が開かれ、エミリシアが謁見の間へと足を踏み入れる。そこには既に、扇を手にほくそ笑む貴族たちが列をなしていた。まるで、これから始まる見世物を心待ちにしているかのように。
玉座の傍らには、黄金の髪をなびかせたリディエッタが、勝ち誇った顔でユーベルトに寄り添っている。
「エミリシア、貴様との婚約を破棄し、聖女の称号を剥奪する!」
ユーベルトの怒号が広間に響き渡った。エミリシアは冷たい大理石の床に跪き、静かに顔を上げた。
「……殿下、理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「白々しい! 貴様はこの十年間、一度として奇跡を見せなかった。病人一人すら癒せず、枯れた大地に雨を降らせることもできない。貴様は『無能』の一言に尽きる!」
ユーベルトが指し示した先で、リディエッタが可憐に微笑む。
「殿下、あまりエミリシア様を責めないであげてください。聖女の才能は天賦のものですもの。持たざる者がどれほど努力しても、それは叶わぬ夢……。ですが、ご安心ください。これからは私が、真の聖女として皆様をお守りいたしますわ」
リディエッタが優雅に腕を掲げる。その手首には銀色に妖しく光る三連のブレスレットが巻かれていた。
彼女が短く呪文を唱えると、瞬時に眩い金色の光が広間を埋め尽くした。
「おお、なんと素晴らしい!」
「これこそが真の奇跡だ!」
貴族たちが歓喜の声を上げる。しかし、エミリシアはその光を見て、背筋に凍り付くような違和感を覚えた。
(この光……命の温もりが全くない。まるですり潰した宝石の破片を撒き散らしたような、無機質な拒絶の輝きだわ)
エミリシアには分かっていた。自分の額にある白い聖印が、その光に反応して激しく疼いている。本物の聖女の力は、周囲の生命を活性化させる。だがリディエッタの光は周囲の魔力を強引に吸い上げ、形を変えて放出しているに過ぎない。
「殿下、お待ちください。リディエッタ様のその力は……」
「黙れ、偽物め! これ以上の弁明は罪を重ねるだけだ。貴様には王都追放を命じる。行き先は最果ての辺境、ミューレンベルクだ。二度とその薄汚い面を我々の前に見せるな!」
ユーベルトの冷酷な宣告に、広間は嘲笑の渦に包まれた。
エミリシアはゆっくりと立ち上がった。その瞳には絶望ではなく、ある種の見切りが宿っている。
「……承知いたしました。殿下、そしてリディエッタ様。私の祈りが必要ないとおっしゃるのなら、私は喜んでこの国を去りましょう。ですが、忘れないでください。聖なる力とは、奪うものではなく捧げるものだということを」
「負け惜しみを! さっさと連れて行け!」
衛兵たちに腕を掴まれ、エミリシアは引き立てられる。背後からは、リディエッタの高笑いと、彼女を称える盲目的な喝采がいつまでも響いていた。
聖女エミリシアが呼び出されたのは、朝日が石造りの王城を照らし始めたばかりの刻限である。
「聖女エミリシア様、王太子殿下がお呼びです。直ちに謁見の間へ」
使者の声には、かつての敬意など微塵も含まれていなかった。事務的で、どこか獲物を追い詰めるような冷酷な響き。エミリシアは胸に広がる嫌な予感を抑え、質素な修道服の裾を握りしめた。
この一年、婚約者でもある王太子ユーベルトの態度は豹変していた。かつては「君の祈りがこの国を救う」と優しく微笑んでくれた彼だったが、今ではその視線に憎悪すら混じっている。その原因は明白だった。半年前に教会を訪れた侯爵令嬢、リディエッタ・フォン・エーデルシュタインの存在だ。
重厚な扉が開かれ、エミリシアが謁見の間へと足を踏み入れる。そこには既に、扇を手にほくそ笑む貴族たちが列をなしていた。まるで、これから始まる見世物を心待ちにしているかのように。
玉座の傍らには、黄金の髪をなびかせたリディエッタが、勝ち誇った顔でユーベルトに寄り添っている。
「エミリシア、貴様との婚約を破棄し、聖女の称号を剥奪する!」
ユーベルトの怒号が広間に響き渡った。エミリシアは冷たい大理石の床に跪き、静かに顔を上げた。
「……殿下、理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「白々しい! 貴様はこの十年間、一度として奇跡を見せなかった。病人一人すら癒せず、枯れた大地に雨を降らせることもできない。貴様は『無能』の一言に尽きる!」
ユーベルトが指し示した先で、リディエッタが可憐に微笑む。
「殿下、あまりエミリシア様を責めないであげてください。聖女の才能は天賦のものですもの。持たざる者がどれほど努力しても、それは叶わぬ夢……。ですが、ご安心ください。これからは私が、真の聖女として皆様をお守りいたしますわ」
リディエッタが優雅に腕を掲げる。その手首には銀色に妖しく光る三連のブレスレットが巻かれていた。
彼女が短く呪文を唱えると、瞬時に眩い金色の光が広間を埋め尽くした。
「おお、なんと素晴らしい!」
「これこそが真の奇跡だ!」
貴族たちが歓喜の声を上げる。しかし、エミリシアはその光を見て、背筋に凍り付くような違和感を覚えた。
(この光……命の温もりが全くない。まるですり潰した宝石の破片を撒き散らしたような、無機質な拒絶の輝きだわ)
エミリシアには分かっていた。自分の額にある白い聖印が、その光に反応して激しく疼いている。本物の聖女の力は、周囲の生命を活性化させる。だがリディエッタの光は周囲の魔力を強引に吸い上げ、形を変えて放出しているに過ぎない。
「殿下、お待ちください。リディエッタ様のその力は……」
「黙れ、偽物め! これ以上の弁明は罪を重ねるだけだ。貴様には王都追放を命じる。行き先は最果ての辺境、ミューレンベルクだ。二度とその薄汚い面を我々の前に見せるな!」
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エミリシアはゆっくりと立ち上がった。その瞳には絶望ではなく、ある種の見切りが宿っている。
「……承知いたしました。殿下、そしてリディエッタ様。私の祈りが必要ないとおっしゃるのなら、私は喜んでこの国を去りましょう。ですが、忘れないでください。聖なる力とは、奪うものではなく捧げるものだということを」
「負け惜しみを! さっさと連れて行け!」
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