【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル

文字の大きさ
5 / 6

秋 おろかな結末

しおりを挟む
 扉の外が騒がしいと気付いたのは、眠りから醒めようとうつらうつらしている時だった。

 頬が痛い、そういえばロドリーゴに殴られたのだったなと考えている時、ドンドンという騒がしい音が聞こえたかと思うと父が部屋に飛び込んできた。

「チェーザレ、お前・・・!」

 父はそれだけ言うとチェーザレの顔をじっと見つめ顔を歪ませた。

「ロドリーゴに殴られたのか。アイツが殴っていなければ俺が殴っていた。俺が殴っていたらそんなもんではすまなかっただろうよ。」

そう言って父は握っていた拳を見つめた。

「王家にはお前を北の修道院に送ると連絡した。それがカーミヤ家としての王家へのケジメだ。」

父は再びチェーザレの顔を見て眉を下げると言いにくそうにそう呟いた。

「何故です!」

チェーザレは納得がいかず思わず叫んだ。

「何故か?我が息子はここまで愚かだったのか。お前、どこまで知っている?」

父は憔悴しているようだった。チェーザレの部屋にある緑の別珍べっちんのソファに腰掛け天井を見上げた。

「どこまでとは?」

チェーザレは聞かれている意味がわからずにそう返答した。

「エリザベッタの罪についてはどこまで知っているのだ。」

そう呟いた父は塩をかけられた青菜のようにしょぼくれ、疲れている様子だった。こんな時だが、チェーザレは父も歳をとったなとどこか他人事のように考えていた。

「お前とクラリーチェ殿下との結婚の意味は知っていたか?」

父の言葉にチェーザレは何も返せなかった。

「なぜ知ろうとしなかった?いや、こんな言葉はもう意味がないな。どうせ、お前はもう北の修道院に行くまで誰とも会えないのだ。最後に教えといてやろう。エリザベッタは我が家の名を使い国家転覆を企んでいたんだ。」

「まさか!うちは中央から距離を置いているではないですか」

「あぁ、お前はそこからわかっていなかったのか。うちが中央から距離を置いているのは母上を女王に推す勢力がいるからだよ。母上にはその気がないがね。だから我が家は母上が王家から降嫁されたのと同時に中央から距離を取っている。でも、未だに母上を女王にと言う声は根強い。エリザベッタはカーミヤ家の名の下にその勢力とつながり、今の王家を転覆させようとしていたのだ。おおよそ、ダバシ国の思想に感化された連中だろうがな。」

「そんな・・・」

とチェーザレはつぶやく。ダバシ国はたしか50年ほど前に男女関係なく優秀な者を王にすると法改正をしたはずである。
そうして女王となったマリア=タニア女王が女傑として評価されたのをきっかけに周辺国でも男女関係なく優秀な者を王位につけるべきではという論争が広がった、ということはチェーザレも知っている。
コラーク国はまだ男性しか王位も爵位も継ぐことができない。それは建国時の神話に基づく思想であり、コラーク国ではその考えは揺るぎないものなのだとチェーザレは思っていた。

「女王論争を今、再燃されては困るのだ。」

父はそう言った。今、王家に男児は一人しかいない。その上に6人の王女が居る。しかも5歳の王子は少し発達が遅めだとの噂がある。
確かに女王論争は今の王家としては避けたい話なのだろう。

「王はこの事件が裁判となり多くの貴族が女王論争を思い出すことを国は望まなかった。だから彼女は公式に裁かれず北の修道院に送られた。コメッゴーマ伯爵家は爵位を取りあげられたし、そのほかにもいくつかの家が取り潰された。そんな大きな動きがあったのだから貴族連中はみんな公には裁けない何かがあったのだと察している。最も、彼らから仲間にならないかと誘われた貴族も居る訳だから、そこから何があったかはどうしても漏れてしまうさ。つまり、事件から2年近くもたった今となっては何があったかは貴族ならみんな知ってるさ」

チェーザレは信じられない思いでその言葉を聞いた。

「そんな・・・」

「信じられないか?」

「ではクラリーチェとの結婚は・・・」

「クラリーチェだろ?クラリーチェ様は本当に我が家に瑕疵がない事を調べるためと、クラリーチェ様自身が女王になるおつもりはないという事を対外的に示すために降嫁されたんだ。時間をかけて話が貴族中に知れ渡ることはわかっていたからな。」

「我儘では?」

「我儘?」

「クラリーチェ・・・様・・・が俺を好きで、その、」

そこまで言った時、父は「はっ」と鼻で笑ってチェーザレの言葉を遮った。

「百歩譲ってそうだったとしても、クラリーチェ様を蔑ろにして良い理由にはならん。我々は何の罪もない王女に瑕疵をつけたのだ。カーミヤ家はクラリーチェ様が王家に戻られる際にサンノー湖からタミーケ山脈までの小麦地帯をクラリーチェ様にお譲りした。」

「サンノー湖からタミーケ山脈まで・・・」

それはカーミヤ公爵家の領地のほとんどを占めている。

「父上・・・」

チェーザレは父を見た。
父が自分を見る目は冷たく、まるで虫でも見るかのような表情だった。

その目を見た時、チェーザレはやっと自分が起こしたことの大きさに気付き、反射的に「申し訳ありませんでした」と口にしていた。

「お前が俺に謝ったところで土地も爵位も帰ってこんわ」

そう言って父は部屋を出て行った。
それがチェーザレが父を見た最後の姿だった。



チェーザレが北の修道院に送られた時、エリザベッタは既に亡くなっていた。

チェーザレはその後、自分の愚かさを反省し、北の修道院に居たにしては長く、と言っても三十の歳を迎える前年に亡くなった。

チェーザレは修道院で木工細工の技能を習得し、幾つもの小箱を作った。
その作品は彼の死後、高い評価を受け世に出回った。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

知らぬが花

鳥柄ささみ
恋愛
「ライラ・アーデ嬢。申し訳ないが、キミとの婚約は破棄させてもらう」 もう何度目かわからないやりとりにライラはショックを受けるも、その場では大人しく受け入れる。 これでもう婚約破棄と婚約解消あわせて十回目。 ライラは自分に非があるのではと自分を責めるも、「お義姉様は何も悪くありません。相手の見る目がないのです」と義弟であるディークハルトにいつも慰められ、支えられていた。 いつもライラに親身になって肯定し、そばにいてくれるディークハルト。 けれど、ある日突然ディークハルトの訃報が入ってくる。 大切な義弟を失い、泣き崩れて塞ぎ込むライラ。 そんなライラがやっと立ち直ってきて一年後、とある人物から縁談の話がやってくるのだった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

処理中です...