モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

04 橘女史とサングリア(2)

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「弟さんは、どこで出会ったの。彼女と」
 橘の問いに、俺は笑った。
「聞いても参考になんねぇぞ」
「そ、そういう訳じゃないわよ」
 橘が唇を尖らせる。
「大学時代のサークル仲間だって。一途な弟は、彼女を忘れられなかったそうだ」
 俺の答えに、橘が目を丸くした。
「同じ人に育てられて、何でそんなに人間関係の築き方が違うの」
「そりゃあ性格が違うからだろ」
 俺があっさり答えるが、橘は首を傾げる。納得行かないようだ。
「神崎と顔立ちが違うとか?」
 そんなに気になることか。
 呆れながら首を振った。
「いや、似てるな。顔つきは違うけど」
 橘はふぅんと言って、グラスを傾けた。
「写真とかないの?」
 問われてスマホを取りだし、しばらく画面に触れて答えた。
「成人のときと、こないだの母の日のはある」
「飛びすぎ。でも見せて」
 画面をタップして写真を表示すると、橘が覗き込んで来た。
 成人の写真は弓道をしているもの。段持ちの新成人は京都の三十三間堂での行事に参加できるらしく、そのときのものだ。
 母の日の写真は、家族での集合写真。姉が子連れで帰省したので撮ったが、甥は優しい弟に懐いてその膝上に座っている。
 写真はいずれも奈良に住む姉が撮って送ってくれたものだった。
「なんか、不思議」
 俺の顔と写真の中の弟を見比べながら、橘は興味深そうに言った。
「神崎から毒気を抜いたらこうなるのかな」
「失礼なやつ」
 俺が口を尖らせると、橘は笑う。
「あ、間違った。神崎から、毒気と煩悩を抜いて、硬派にしたらこうなるのかな」
「おいこら。好き勝手言いやがって」
 俺はスマホを取り上げた。橘は笑いながらありがとう、と言い、深々と嘆息する。
「でも、そんなに素敵な弟がいるなら、紹介してもらえばよかった」
「お前、年下は無理とか言ってただろ。だいたい、大学時代からの想い人だぞ。敵わないよ」
 俺の答えに、橘はうーんと考えてからぼやいた。
「そっかぁ。確かに、顔が神崎で中身が硬派だったら、ドンピシャでタイプだわ。会ってたら忘れられなかったかもしれないし、会わなくて正解だね」
 ……ん?
 今の台詞はつまり……
「俺の顔がタイプってこと?」
 俺が問うと、橘は当然のように言った。
「あれ、言ったことなかったっけ。最初会ったときからそう思ってたよ。でも中身がチャラいから、観賞用」
 俺はふぅんと言ってハイボールの残りを飲み干し、カウンターの前に置いて声をかけた。
「ウィスキーのロックを、ダブルで」
「飲むねえ」
 橘が嬉しそうに言う。俺ほどではないにしろ彼女も飲む方だ。
 俺は机に肘をつくと、にやりと笑って言った。
「だって今日、お前の奢りだろ」
「何でよ」
 橘が怪訝そうに眉を寄せる。俺は差し出された新しいグラスに口づけながら言った。
「何だか知らねぇが、たまってんだろ。俺の顔見ながら飯食って気を晴らそうってんなら、相応の対価は払っていいんじゃねぇの」
 橘は一瞬の間の後、決心したようにサングリアを飲み干した。
 カウンターに向かって赤ワインを頼むと、俺の目をまっすぐ見て言う。
「分かった。それなら今日はとことんつき合ってもらうから」
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