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第一章 ちかづく
05 橘彩乃と赤ワイン
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「女ってだけで馬鹿にされるのに、仕事できたらできたで引かれるし。もーホント嫌んなる」
「社内にそんな奴いるのか?」
橘の愚痴は呆気なくヒートアップし、俺は適当に相槌を打ち続けていた。
「社内にいなくたって、取引先がそうとは限らないでしょ」
俺の問いに、橘は言って深々と嘆息した。
「本社がアメリカの外資系ならそういう差別も少ないと思ったんだけど、結局いるのが日本なんだから仕方ないのよね。気づくの遅すぎたわー」
確かに、それもそうだ。
俺は2杯目のウィスキーを飲みながら思う。
「じゃ、他の国に転勤希望出したら」
「行けって言われれば行くけど」
橘も赤ワインを舐めながら答えた。
「一度目の海外転勤、ハズレ引いたからあんまりいい思い出なくてね」
我が社では、特段事情がなければ20代の内に海外勤務を経験することになっている。俺の場合はそれがアメリカのボストンだったのだ。
「どこ行ったんだっけ」
「イギリス、ロンドン」
橘は思い出したくもないというように嘆息しながら首を振った。
「すっごい、保守的なお局がいてね。アジア人で女でしょ。イギリス英語に徹底して直されて、2年間いびられ通し」
俺は苦笑した。
「よく堪えたな」
「だって、泣き言言ったら負けたみたいで悔しいじゃない」
橘が当然のように言うので、思わず笑った。
「やっぱり似てるわ」
「誰に?」
「さっき話した、弟のフィアンセ」
俺はウィスキーグラスを揺らした。氷がグラスとぶつかり音を立てる。
「あら。気が合うかしら。こんなアラサー独身女だけど」
「合うんじゃない。紹介しようか?」
俺は冗談半分言ってから思い出した。
「そういや、彼女言ってたよ。公務員は給料が低いから、自分が家事を担当して、妻に稼いで貰いたいと思う男がちょいちょいいるって。狙い目じゃねぇの」
橘が笑った。
「あら。いいわねぇ。合コンでも企画してくれるの?」
「俺が?まさか」
俺はまたグラスを傾ける。
「企画なんてするわけねぇだろ。呼ばれりゃ行くけど 」
橘はちっと舌打ちすると、吐き捨てるように言った。
「使えないやつ。心疲れた同期に優しさのかけらもないのね」
「どういたしまして。心疲れたって、お前なら勝手に立ち直ってんだろ」
そうでなくて2年間、慣れない場所でいびりに堪えられる訳がない。
そう思いながらウィスキーを飲み干した俺は、空いたグラスを揺らして見せながら言った。
「3杯目のウィスキー、行っていいの?」
「この、ザル」
橘は酒で赤らんだ顔を苦々しそうに歪めた。
「……あと1杯ね」
俺はよっしゃと笑ってカウンターに声をかけた。
「社内にそんな奴いるのか?」
橘の愚痴は呆気なくヒートアップし、俺は適当に相槌を打ち続けていた。
「社内にいなくたって、取引先がそうとは限らないでしょ」
俺の問いに、橘は言って深々と嘆息した。
「本社がアメリカの外資系ならそういう差別も少ないと思ったんだけど、結局いるのが日本なんだから仕方ないのよね。気づくの遅すぎたわー」
確かに、それもそうだ。
俺は2杯目のウィスキーを飲みながら思う。
「じゃ、他の国に転勤希望出したら」
「行けって言われれば行くけど」
橘も赤ワインを舐めながら答えた。
「一度目の海外転勤、ハズレ引いたからあんまりいい思い出なくてね」
我が社では、特段事情がなければ20代の内に海外勤務を経験することになっている。俺の場合はそれがアメリカのボストンだったのだ。
「どこ行ったんだっけ」
「イギリス、ロンドン」
橘は思い出したくもないというように嘆息しながら首を振った。
「すっごい、保守的なお局がいてね。アジア人で女でしょ。イギリス英語に徹底して直されて、2年間いびられ通し」
俺は苦笑した。
「よく堪えたな」
「だって、泣き言言ったら負けたみたいで悔しいじゃない」
橘が当然のように言うので、思わず笑った。
「やっぱり似てるわ」
「誰に?」
「さっき話した、弟のフィアンセ」
俺はウィスキーグラスを揺らした。氷がグラスとぶつかり音を立てる。
「あら。気が合うかしら。こんなアラサー独身女だけど」
「合うんじゃない。紹介しようか?」
俺は冗談半分言ってから思い出した。
「そういや、彼女言ってたよ。公務員は給料が低いから、自分が家事を担当して、妻に稼いで貰いたいと思う男がちょいちょいいるって。狙い目じゃねぇの」
橘が笑った。
「あら。いいわねぇ。合コンでも企画してくれるの?」
「俺が?まさか」
俺はまたグラスを傾ける。
「企画なんてするわけねぇだろ。呼ばれりゃ行くけど 」
橘はちっと舌打ちすると、吐き捨てるように言った。
「使えないやつ。心疲れた同期に優しさのかけらもないのね」
「どういたしまして。心疲れたって、お前なら勝手に立ち直ってんだろ」
そうでなくて2年間、慣れない場所でいびりに堪えられる訳がない。
そう思いながらウィスキーを飲み干した俺は、空いたグラスを揺らして見せながら言った。
「3杯目のウィスキー、行っていいの?」
「この、ザル」
橘は酒で赤らんだ顔を苦々しそうに歪めた。
「……あと1杯ね」
俺はよっしゃと笑ってカウンターに声をかけた。
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