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八頁 愛国のナスタチウム
120話 白を染めるは曼珠沙華
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一週間の滞在から延びてさらに一週間が過ぎた。この一週間は本当にこき使われました! 人使い荒すぎて何度サボろうかと思ったことか……。でも同室のアウルや我が国の第二王子様が許してくれません。わかってるけどな!
祭りの最中もずっと動き回って、時にはミコサマとセイジョサマのお手伝いもして、空いた時間にアウルにとって祭り会場で針の筵になっていたりと忙しい時間を過ごしていたらあっという間に明日が帰国日でございます。
そして現在は予定が延びたことでこちらも延期になった交流会の日。思いがけず神子が誕生するという慶事があったことでこの交流会でも清楚な衣装に身を包んだクラルテが大勢の生徒に囲まれているのを壁の花になって眺めている。なんだったら俺はこのままフェードアウトしたいのですが……
「あ! アクナイトさん!」
パタパタとこっちに駆けてくるクラルテ。ほんとお気楽なものだ。一緒にアウルもやってきたし。
つーか、何気にクラルテと会話するの久しぶりじゃね? 一週間以上は口を聞いてなかった気がする。まあ俺としてはそれで万歳なんだけど。他の生徒たちと行動することもあったけど俺は基本的にアウルと一緒だったからどっちみち破滅フラグは回避されていないんだけどな!
「なんかお久しぶりですね。僕ずっと忙しくてお祭りも全然見られなくて……。アウルとアクナイトさんはどうでした? お祭り見れました?」
「ああ。シュヴァリエも結構楽しんでいたし俺も珍しいものが見られたから満足だ」
そう言って意味深にこちらへ視線を向けてくるアウルを一睨みするも軽く肩をすくめるだけで悪びれる様子はなし。……お前、ほんと最近キャラ変わってません?
「あ、そうだ。僕このままツヴィトーク王国へ戻っていいことになったんです。この国にはすでに聖女様がいますから。本来はこの国にいるのが筋なんでしょうけどツヴィトーク王国も精霊神様を信仰しているから同じ場所にいるよりもそっちで活動するほうが信仰を高めるという意味でもいいんだそうで」
……へえ? どう考えても政治的意図が込められた采配な気がするけどツヴィトークに利があるのは確かだし聖女と神子がいるというだけで国家の価値が上がり他国への牽制もできる。これで攻略対象者たちがさらにクラルテの傍に着くことが確定したな。悪役令息断罪イベントまで秒読みになってきているし……いっそ変なことになる前にさっさと家を出てどこかの田舎で一人暮らしするっていうのも一つの手段だと思うけど……いかんせん趣味にも金はかかる。それに公爵家だけあってその財力は非常に魅力的なんだよ。それに今更この世界の平民として生きていくというのははっきり言って無理だ。ただでさえ現代文明で生きてきた人間で公爵家での生活ですら不便と感じてしまう部分はあるのにそれより下の生活水準で暮らせと言われても一週間持たないと思う。そんなこと言おうものなら一般市民から暴行を受けそうだから言わないけどな。ほんと転生したり転移したりして普通に暮らしている主人公たちのことを尊敬するわ。娯楽も少ないしライフラインも全然整っていない。心の底からどうやって暮らしているんだろうって思っている。
……何の話をしてるんだっけ? ああ、クラルテの立場についてだ。
「エヴェイユから聞いたのは、学園を卒業したら王都にある大聖堂でお仕事することになるそうで……学生の間もお休みの日はそっちで過ごすことになるそうです」
「そうか。頑張れよ」
「うん! ……ところでアーダの王太子様はどこ行かれたんでしょう?」
「ああ、そういえば挨拶だけして、少し目を離した隙にいなくなったな。まあ彼も何かと忙しいんだろう。心配することはないさ」
「そうかな? ……そうだよね。あ、そうだ、あっちにすごく美味しいお肉があったんだ! 一緒に食べに行きませんか?」
「君もずっとこんなところに突っ立っていないで少しは皆の輪に入れ。ほら行くぞ」
「! おい!」
本当に最近こんなのばかりだな。……それにしてもアストラがどこに行ったか、ねえ? 俺は知っているけどこいつらが知る必要はないだろ。なぜなら奴は今頃——
……いや、考えても無駄だ。俺には関係ない。
♦♦♦♦♦♦♦
——一方その頃。
誰も知らない神殿の地下深く、薄暗い牢獄に満ちるのは裏切り者の濃く鮮やかな血飛沫とむせ返るほどの命の香り。その中心にアストラ・ディ・アーダはいた。錫杖を濡らす深紅を振り払い白い神官服を染め上げながら。
「……この状況、アクナイト公子は気づいているかもしれませんねぇ。無駄に勘の鋭い人のようですし。……そうは思いませんか? 聖騎士団長?」
たった今牢獄にいた裏切り者たちを皆殺しにした錫杖によって静かに頬を斬られているのはアストラの協力者であったはずの聖騎士団長である。
「なぜヴェント伯爵子息が私を襲うことを知っていたのか、なぜわざわざ奴らにヴェント伯爵子息を始末させたのか。そのためには奴らの仲間が身近にいることを把握していなくてはなりませんからね」
クスリと笑う姿は酷く誑惑的で美しいはずなのに、しかし彼を染め上げる深紅と纏う香りは裏切り者に恐怖を与えるには十分すぎた。
「さて、最期に一つ質問です。エヴェイユからここへの道中に貴方のお仲間から襲撃を受けたと聞きましたが……その目的を教えていただけますか?」
突如アストラから放たれたのは並みの暗殺者ならば失神しかねないほどの殺気だった。アストラは王族であり、同時に国家に仇為す存在を排除する暗殺部隊を率いる暗部の長である。そんな彼に目を付けられるということがどういうことなのか、それは目の前に広がる凄惨な光景が証明していた。そしてその錫杖から逃れる術は——ない。
その一切を理解した聖騎士団長は果たして襲撃の目的のすべてを話した。その全容を聞いてアストラの目がこれ以上ないほど冷たくなる。
「なぜそんなことを」
男は答えない。その無言の応えを持ってこれ以上得られるものはないと判断したアストラは静かに錫杖を振り上げ——
「情報をありがとうございます。それではごきげんよう」
降ろされた錫杖によって裏切り者の男は永遠の沈黙へ堕ちたのだった。
そうして、あたりに広がるのは裏切り者の亡骸と血が滴る音のみ。
「全く退屈させませんね——アクナイト公子は」
♦♦♦♦♦♦♦
交流会で生徒たちの輪に強引に引きずり込まれた途端、息つく間もなく話しかけられ、さすがに疲れた俺は誰にも見つからないようにそっと会場を抜け出して泉の傍まで来ていた。別にここ立ち入り禁止じゃないしな。
「あ゛ぁ~疲れた」
貴族らしからぬ声を出しながら大の字に寝そべる。いや~落ち着くわ。視界に広がるのは満天の星空。天の川が美しく見える。やっぱ星空って綺麗だよな……。前世でこんなに綺麗に星空が見えることって滅多になかったからなぁ。こうして呑気に星空観察をしている間もシュヴァリエの破滅フラグは立ったままなんだけど、こういう景色を見ているとそういうの考えるのが馬鹿らしくなってくるから不思議だよな。
「断罪イベントまで時間がないってのにな……」
しばらくぼんやりと星空を眺めていると突然ガサリという音が聞こえて体を起こし音のした方を見た直後ひょっこりと顔を出したのは——フェイバースパイダーの子どもだった……って、はああぁぁぁっっっ!!!?????
「お前っ! どうやってここまでって、おわっ……!」
目を輝かせてポテポテ歩いてきたと思ったら思い切り俺に飛びついてきた。というか八本の足に挟まれた。ちょっ! 普通のクモよりもはるかに巨体なんだから加減してくれ。あと挟むな。俺の体はユーフォーキャッチャーの景品じゃねえ。そんな俺の心境などいざ知らず俺の体にしがみついてふわふわの頭をすりすり。ものすごく癒しなんだが、誰かに見つかったら騒ぎどころじゃないぞ。ほんとどうやってここまで来たんだよお前。
「人に見つかったらまずいだろう。わざわざ私に会いに来たのか?」
「ギュイ♪」
いいお返事をしてさらにすりすり。ああ可愛いな。思わずその体を撫でると嬉しそうにクルクルと鳴く子グモ。しかし突然ぴたりと止まって俺から飛び降りたと思ったらさっきまでとは打って変わった低く威嚇するような声を出す。嫌な予感がして俺は咄嗟に子グモを掴んで子グモが睨んだ茂みとは反対の茂みへ放り投げた。直後、姿を現したのはつい先日俺たちを襲撃した連中のお仲間と思しき奴ら。間髪容れずに襲い掛かってきて何とか躱すも多勢に無勢。躱しきれずに態勢を崩した瞬間、羽交い絞めにされて完全に動けなくなった。……こいつらいったいどういうつもりだ。痛いほどに締め上げられて顔をしかめた俺の耳に聞こえてきたのは悪い意味でよく知っている声。
「やっと捕まえましたわよ——シュヴァリエお兄様?」
な、んで…………ここ、に……いやがる。直後、首筋にちくりとした刺激が走り、俺は完全に意識を失った。
支えきれずに地面に倒れこんだシュヴァリエの体を抱きしめたその人物は歓喜と狂気の混じった声でうっとりと囁く。
「もう逃がしませんわ。貴方を手にしていいのはこのアラグリアだけでしてよ——」
祭りの最中もずっと動き回って、時にはミコサマとセイジョサマのお手伝いもして、空いた時間にアウルにとって祭り会場で針の筵になっていたりと忙しい時間を過ごしていたらあっという間に明日が帰国日でございます。
そして現在は予定が延びたことでこちらも延期になった交流会の日。思いがけず神子が誕生するという慶事があったことでこの交流会でも清楚な衣装に身を包んだクラルテが大勢の生徒に囲まれているのを壁の花になって眺めている。なんだったら俺はこのままフェードアウトしたいのですが……
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パタパタとこっちに駆けてくるクラルテ。ほんとお気楽なものだ。一緒にアウルもやってきたし。
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「ああ。シュヴァリエも結構楽しんでいたし俺も珍しいものが見られたから満足だ」
そう言って意味深にこちらへ視線を向けてくるアウルを一睨みするも軽く肩をすくめるだけで悪びれる様子はなし。……お前、ほんと最近キャラ変わってません?
「あ、そうだ。僕このままツヴィトーク王国へ戻っていいことになったんです。この国にはすでに聖女様がいますから。本来はこの国にいるのが筋なんでしょうけどツヴィトーク王国も精霊神様を信仰しているから同じ場所にいるよりもそっちで活動するほうが信仰を高めるという意味でもいいんだそうで」
……へえ? どう考えても政治的意図が込められた采配な気がするけどツヴィトークに利があるのは確かだし聖女と神子がいるというだけで国家の価値が上がり他国への牽制もできる。これで攻略対象者たちがさらにクラルテの傍に着くことが確定したな。悪役令息断罪イベントまで秒読みになってきているし……いっそ変なことになる前にさっさと家を出てどこかの田舎で一人暮らしするっていうのも一つの手段だと思うけど……いかんせん趣味にも金はかかる。それに公爵家だけあってその財力は非常に魅力的なんだよ。それに今更この世界の平民として生きていくというのははっきり言って無理だ。ただでさえ現代文明で生きてきた人間で公爵家での生活ですら不便と感じてしまう部分はあるのにそれより下の生活水準で暮らせと言われても一週間持たないと思う。そんなこと言おうものなら一般市民から暴行を受けそうだから言わないけどな。ほんと転生したり転移したりして普通に暮らしている主人公たちのことを尊敬するわ。娯楽も少ないしライフラインも全然整っていない。心の底からどうやって暮らしているんだろうって思っている。
……何の話をしてるんだっけ? ああ、クラルテの立場についてだ。
「エヴェイユから聞いたのは、学園を卒業したら王都にある大聖堂でお仕事することになるそうで……学生の間もお休みの日はそっちで過ごすことになるそうです」
「そうか。頑張れよ」
「うん! ……ところでアーダの王太子様はどこ行かれたんでしょう?」
「ああ、そういえば挨拶だけして、少し目を離した隙にいなくなったな。まあ彼も何かと忙しいんだろう。心配することはないさ」
「そうかな? ……そうだよね。あ、そうだ、あっちにすごく美味しいお肉があったんだ! 一緒に食べに行きませんか?」
「君もずっとこんなところに突っ立っていないで少しは皆の輪に入れ。ほら行くぞ」
「! おい!」
本当に最近こんなのばかりだな。……それにしてもアストラがどこに行ったか、ねえ? 俺は知っているけどこいつらが知る必要はないだろ。なぜなら奴は今頃——
……いや、考えても無駄だ。俺には関係ない。
♦♦♦♦♦♦♦
——一方その頃。
誰も知らない神殿の地下深く、薄暗い牢獄に満ちるのは裏切り者の濃く鮮やかな血飛沫とむせ返るほどの命の香り。その中心にアストラ・ディ・アーダはいた。錫杖を濡らす深紅を振り払い白い神官服を染め上げながら。
「……この状況、アクナイト公子は気づいているかもしれませんねぇ。無駄に勘の鋭い人のようですし。……そうは思いませんか? 聖騎士団長?」
たった今牢獄にいた裏切り者たちを皆殺しにした錫杖によって静かに頬を斬られているのはアストラの協力者であったはずの聖騎士団長である。
「なぜヴェント伯爵子息が私を襲うことを知っていたのか、なぜわざわざ奴らにヴェント伯爵子息を始末させたのか。そのためには奴らの仲間が身近にいることを把握していなくてはなりませんからね」
クスリと笑う姿は酷く誑惑的で美しいはずなのに、しかし彼を染め上げる深紅と纏う香りは裏切り者に恐怖を与えるには十分すぎた。
「さて、最期に一つ質問です。エヴェイユからここへの道中に貴方のお仲間から襲撃を受けたと聞きましたが……その目的を教えていただけますか?」
突如アストラから放たれたのは並みの暗殺者ならば失神しかねないほどの殺気だった。アストラは王族であり、同時に国家に仇為す存在を排除する暗殺部隊を率いる暗部の長である。そんな彼に目を付けられるということがどういうことなのか、それは目の前に広がる凄惨な光景が証明していた。そしてその錫杖から逃れる術は——ない。
その一切を理解した聖騎士団長は果たして襲撃の目的のすべてを話した。その全容を聞いてアストラの目がこれ以上ないほど冷たくなる。
「なぜそんなことを」
男は答えない。その無言の応えを持ってこれ以上得られるものはないと判断したアストラは静かに錫杖を振り上げ——
「情報をありがとうございます。それではごきげんよう」
降ろされた錫杖によって裏切り者の男は永遠の沈黙へ堕ちたのだった。
そうして、あたりに広がるのは裏切り者の亡骸と血が滴る音のみ。
「全く退屈させませんね——アクナイト公子は」
♦♦♦♦♦♦♦
交流会で生徒たちの輪に強引に引きずり込まれた途端、息つく間もなく話しかけられ、さすがに疲れた俺は誰にも見つからないようにそっと会場を抜け出して泉の傍まで来ていた。別にここ立ち入り禁止じゃないしな。
「あ゛ぁ~疲れた」
貴族らしからぬ声を出しながら大の字に寝そべる。いや~落ち着くわ。視界に広がるのは満天の星空。天の川が美しく見える。やっぱ星空って綺麗だよな……。前世でこんなに綺麗に星空が見えることって滅多になかったからなぁ。こうして呑気に星空観察をしている間もシュヴァリエの破滅フラグは立ったままなんだけど、こういう景色を見ているとそういうの考えるのが馬鹿らしくなってくるから不思議だよな。
「断罪イベントまで時間がないってのにな……」
しばらくぼんやりと星空を眺めていると突然ガサリという音が聞こえて体を起こし音のした方を見た直後ひょっこりと顔を出したのは——フェイバースパイダーの子どもだった……って、はああぁぁぁっっっ!!!?????
「お前っ! どうやってここまでって、おわっ……!」
目を輝かせてポテポテ歩いてきたと思ったら思い切り俺に飛びついてきた。というか八本の足に挟まれた。ちょっ! 普通のクモよりもはるかに巨体なんだから加減してくれ。あと挟むな。俺の体はユーフォーキャッチャーの景品じゃねえ。そんな俺の心境などいざ知らず俺の体にしがみついてふわふわの頭をすりすり。ものすごく癒しなんだが、誰かに見つかったら騒ぎどころじゃないぞ。ほんとどうやってここまで来たんだよお前。
「人に見つかったらまずいだろう。わざわざ私に会いに来たのか?」
「ギュイ♪」
いいお返事をしてさらにすりすり。ああ可愛いな。思わずその体を撫でると嬉しそうにクルクルと鳴く子グモ。しかし突然ぴたりと止まって俺から飛び降りたと思ったらさっきまでとは打って変わった低く威嚇するような声を出す。嫌な予感がして俺は咄嗟に子グモを掴んで子グモが睨んだ茂みとは反対の茂みへ放り投げた。直後、姿を現したのはつい先日俺たちを襲撃した連中のお仲間と思しき奴ら。間髪容れずに襲い掛かってきて何とか躱すも多勢に無勢。躱しきれずに態勢を崩した瞬間、羽交い絞めにされて完全に動けなくなった。……こいつらいったいどういうつもりだ。痛いほどに締め上げられて顔をしかめた俺の耳に聞こえてきたのは悪い意味でよく知っている声。
「やっと捕まえましたわよ——シュヴァリエお兄様?」
な、んで…………ここ、に……いやがる。直後、首筋にちくりとした刺激が走り、俺は完全に意識を失った。
支えきれずに地面に倒れこんだシュヴァリエの体を抱きしめたその人物は歓喜と狂気の混じった声でうっとりと囁く。
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批判・中傷コメントはお控えください。
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