【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい

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【第12章】 英雄の逆襲

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 王宮の朝は、いつもより静かでした。  
 けれど、その静けさは決して穏やかなものではなく、  
 まるで嵐の前の張りつめた空気のように、肌にひりつく緊張を含んでいました。

(……ルシアンさまが、夜の街へ戻られた)

 その噂を聞いた時、胸の奥が冷たく沈みました。  
 わたしが彼を追い詰めてしまったのではないか――  
 そんな思いが、胸の奥で重くのしかかっています。

 けれど、今は立ち止まっている場合ではありません。

 わたしは、離宮の書斎で机に広げた魔術式を見つめました。  
 淡い光を放つ魔法陣は、わたしの魔力に呼応して静かに脈打っています。

 これは、真実を暴くための魔術。  
 対象の“残留魔力”を辿り、偽造された文書や魔術痕跡を洗い出すものです。

「アリアさま……本当に、おひとりでなさるのですか?」

 侍女が心配そうに声をかけてきました。

「大丈夫です。これは……わたしがやらなければならないことです」

 わたしは静かに答え、魔術式に手をかざしました。

 淡い光が広がり、空気が震えます。  
 手紙に残された魔力の痕跡が、糸のように浮かび上がりました。

(……やはり)

 その魔力は、ルシアンさまのものではありませんでした。  
 もっと冷たく、鋭く、計算された魔力。

(……あなたですね)

 胸の奥に、静かな怒りが灯りました。

---

 その日の午後、わたしは国王陛下の謁見の間へ向かいました。  
 高い天井、磨き上げられた大理石の床、  
 そして、重厚な扉の向こうに広がる荘厳な空気。

 扉が開かれると、陛下と、側近たちが並んでおられました。  
 その中には――エリオットさまの姿もあります。

 彼は、いつもの冷静な微笑みを浮かべていました。

「アリア・フェルディナンド。何用か」

 国王陛下の声は、厳しくも穏やかでした。

「陛下。ルシアン・クロードさまに関する“噂”について、  
 ご報告したいことがございます」

 わたしは深く一礼し、魔術式を展開しました。

 淡い光が謁見の間に広がり、空気が震えます。

「これは……?」

「真実を暴く魔術でございます。  
 偽造された文書や魔力の痕跡を、すべて明らかにいたします」

 エリオットさまの瞳が、わずかに揺れました。

 わたしは、手紙を魔術陣の中心に置きました。

 光が走り、文字が浮かび上がります。

『――英雄アリアは金になる。  
 しばらくは利用してやるつもりだ』

 側近たちがざわめきました。

「これが……兄上の……?」

 エリオットさまが、わざとらしく眉をひそめました。

 わたしは静かに首を振りました。

「いいえ。これは、ルシアンさまの筆跡を“模倣した”偽造文書です」

「な……!」

 エリオットさまの表情が、わずかに崩れました。

 わたしは続けました。

「そして、この文書に残された魔力は――  
 ルシアンさまのものではありません」

 魔術陣が、残留魔力の“主”を示す光を放ちます。

 その光は――エリオットさまの足元へと伸びていきました。

「……っ!」

 エリオットさまの顔色が、さっと青ざめました。

「エリオット・クロード。  
 これはどういうことだ」

 国王陛下の声が、謁見の間に響き渡りました。

 エリオットさまは、唇を震わせながら言葉を探していました。

「わ、私は……兄上のためを思って……!」

「兄上のため?  
 それが、偽造文書を作り、噂を流し、  
 アリアさまとルシアンを引き裂く理由になるのか」

 陛下の声は、怒りを抑えた低い響きでした。

 エリオットさまは、ついに言葉を失いました。

(……終わりです、エリオットさま)

 わたしは静かに目を閉じました。

---

 こうして、エリオットさまの陰謀は暴かれました。  
 彼はその場で拘束され、身分の剥奪と遠方への追放が命じられました。

 そして――。

「アリア・フェルディナンド。  
 よくぞ真実を明らかにしてくれた」

 国王陛下は、わたしに向かって深くうなずかれました。

「ルシアンの名誉は、これで回復される」

 胸の奥が、じんわりと温かくなりました。

 けれど――。

(あなたは今、どこに……)

 胸の奥に残る痛みは、まだ消えません。
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