【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい

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【第13章】 アリア、走る

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 王宮の空気は、いつもより冷たく感じられました。  
 春の陽光が差し込んでいるはずなのに、胸の奥には薄い霧がかかったような重さが残っています。

 エリオットさまの陰謀は暴かれ、ルシアンさまの名誉は回復されました。  
 けれど、肝心の彼は王宮に戻ってきません。

(……わたしは、彼に何も伝えられてない)

 わたしは、離宮の廊下を歩きながら、胸の奥に沈む痛みに耐えていました。  
 磨き上げられた床に映る自分の姿が、どこか頼りなく見えます。

「アリアさま……」

 侍女が心配そうに声をかけてきました。

「お顔色が優れません。少しお休みになっては……」

「……大丈夫です。ありがとう」

 そう答えながらも、胸の奥はざわついたままです。
(……大丈夫なはずがない)

 わたしは、そっと胸に手を当てました。

(ルシアンさま……どこにいらっしゃるの)

 その時でした。

「アリアさま!」

 慌てた声が廊下に響きました。  
 振り返ると、近衛騎士のひとりが駆け寄ってきます。

「ルシアン・クロードさまの居場所が……わかりました!」

 胸が跳ねました。

「……どこですか?」

「王都の……かつて働いていた店に、戻られたようで」

 その言葉を聞いた瞬間、わたしの足は自然と動いていました。

「馬車の準備を。すぐに向かいます」

「アリアさま!? おひとりで行かれるのは危険です!」

「大丈夫です。……行かなければならないの」

 わたしは、胸の奥に灯った決意を抱きしめるように、深く息を吸いました。

(わたしは……彼を失いたくない)

---

 王都の夜の街は、昼間とはまったく違う顔を見せていました。  
 煌びやかな灯り、行き交う人々の笑い声、甘い香りと酒の匂い。  
 その喧騒の中に、かつて“夜の帝王”と呼ばれたルシアンさまがいたのです。

 馬車を降りた瞬間、胸が強く締めつけられました。

(……ここに、ルシアンさまが)

 わたしは、深呼吸をしてから歩き出しました。  
 夜の街の喧騒が、まるでわたしの心を試すように押し寄せてきます。

 そして――。

 見覚えのある店の前に立った時、扉が開きました。

「……アリアさま?」

 黒髪の青年が、驚いたように目を見開いていました。

 ルシアン・クロードさま。

 その姿を見た瞬間、胸が熱くなりました。

「ルシアンさま……!」

 わたしは駆け寄り、彼の腕を掴みました。

 ルシアンさまは、驚いたようにわたしを見つめました。

「どうして……ここに?」

「……会いに来ました」

 声が震えました。

「ルシアンさま。わたしは……あなたに伝えたいことがあるのです」

 ルシアンさまは、わずかに目を伏せました。

「……アリアさま」

 わたしは、震える手で彼の腕を掴み直しました。

「ルシアンさま……わたしは、あなたを失いたくない」

 ルシアンさまの瞳が、大きく揺れました。

「……あなたの顔が好きです。  
 でも……それだけじゃない」

 胸の奥から、自然と涙が溢れました。

「あなたが笑うと嬉しい。  
 あなたが悲しむと胸が痛いし。  
 あなたが遠くへ行くと……苦しくて、息ができなくなる」

 ルシアンさまは、驚いたようにわたしを見つめていました。

 そして――。

 そっと、わたしの頬に触れました。

「……アリアさま。泣かないでください」

 その指先は、驚くほど優しくて。

 わたしは、彼の胸に飛び込みました。

「ルシアンさま……お願いです。  
 わたしを……置いていかないでください」

 ルシアンさまの腕が、ゆっくりとわたしを抱きしめました。
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