【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい

文字の大きさ
11 / 19

【第11章】 婚約破棄の噂

しおりを挟む
 王宮の朝は、いつも静かで、どこか張りつめた空気があります。  
 けれど、この数日はその静けさの奥に、妙なざわめきが潜んでいるように感じられました。

 侍女たちの足音が、いつもより落ち着きなく響き、  
 廊下を歩く貴族たちの視線が、わたしのほうへとちらりと向けられます。

(……何か、起きているの)

 胸の奥に、薄い霧のような不安が広がっていきます。

 そんな時――。

「アリアさま。……その、お耳に入れておくべきことがございます」

 控えめな声で、侍女のひとりが近づいてきました。  
 その表情は、どこか言いにくそうで、視線が揺れています。

「どうしたのですか?」

「……最近、社交界で妙な噂が広がっておりまして」

「噂……?」

 侍女は、ためらいがちに言葉を続けました。

「“アリアさまとルシアンさまの婚約が、破棄されるらしい”と……」

 胸が、どくんと跳ねました。

「……婚約、破棄……?」

「はい。……その、ルシアンさまが、アリアさまを避けておられると……」

 わたしは思わず息を呑みました。

(……避けられている?  
 そんなはず……)

 けれど、思い返せば――  
 ここ数日、ルシアンさまはわたしと目を合わせようとされませんでした。

 声をかけても、どこか遠くを見るような瞳で、

「大丈夫です、アリアさま」

 と、優しく微笑まれるだけ。

 その笑みは、触れれば壊れてしまいそうなほど儚くて。

(……わたしが、彼を追い詰めている?)

 胸の奥が、きゅうっと痛みました。

「アリアさま……?」

「……いえ。大丈夫です。ありがとう」

 わたしは侍女に微笑み返しましたが、心はまったく落ち着きませんでした。

---

 その日の午後、わたしは離宮の廊下を歩いていました。  
 春の陽光が差し込むはずの窓辺も、どこか冷たく感じられます。

(……ルシアンさまと、話をしなければ)

 そう思い、彼の部屋へ向かおうとしたその時――。

「アリアさま」

 静かな声が背後から響きました。

 振り返ると、金髪の青年――エリオット・クロードさまが立っておられました。  
 整った顔立ちに、冷静な微笑み。  
 その瞳は、まるでわたしの心の揺れを見透かすように鋭く光っています。

「……エリオットさま」

「兄上をお探しですか?」

「……はい。少し、お話がしたくて」

 エリオットさまは、わずかに目を細めました。

「兄上は……今、離宮にはおりませんよ」

「え……?」

「昨夜から、外出されています。  
 “しばらく戻らない”とだけ、言い残して」

 胸が、ずきりと痛みました。

(……戻らない?  
 どうして……)

 エリオットさまは、静かに言葉を続けました。

「兄上は……あなたに相応しくないと、ずっと悩んでいたようです。  
 あなたを傷つける前に、身を引こうとしているのでしょう」

「そんな……」

「アリアさま。兄上は、あなたを深く想っているのです。  
 だからこそ、あなたの前から姿を消そうとしている」

 その声音は、冷静で、どこか哀れみすら含んでいました。

(……ルシアンさまが、わたしを想って……離れる?)

 胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられました。

「アリアさま。あなたは……兄上を追わないほうがよろしいでしょう。  
 兄上のためにも、あなたのためにも」

 エリオットさまの言葉は、静かで、鋭く、そして――  
 わたしの心を深く揺さぶりました。

(……追わないほうが、いい?  
 でも……あきらめたら……)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月
恋愛
 リリアは侯爵令嬢。オスカーとは、婚約予定。あくまでも予定で、まだ結んでいません。オスカーは何故かリリアにだけ、威圧的な態度を取るらしい。嫌で仕方がないので、オスカーの兄とプレ婚約期のやり直し。 今が幸せなので、あなたのことは助けてあげられません。   ※ご都合主義満載 ※細かい部分はサラッと流してください。

私の何がいけないんですか?

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王太子ヨナスの幼馴染兼女官であるエラは、結婚を焦り、夜会通いに明け暮れる十八歳。けれど、社交界デビューをして二年、ヨナス以外の誰も、エラをダンスへと誘ってくれない。 「私の何がいけないの?」  嘆く彼女に、ヨナスが「好きだ」と想いを告白。密かに彼を想っていたエラは舞い上がり、将来への期待に胸を膨らませる。  けれどその翌日、無情にもヨナスと公爵令嬢クラウディアの婚約が発表されてしまう。  傷心のエラ。そんな時、彼女は美しき青年ハンネスと出会う。ハンネスはエラをダンスへと誘い、優しく励ましてくれる。 (一体彼は何者なんだろう?)  素性も分からない、一度踊っただけの彼を想うエラ。そんなエラに、ヨナスが迫り――――? ※短期集中連載。10話程度、2~3万字で完結予定です。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

駆け落ちした愚兄の来訪~厚顔無恥のクズを叩き潰します~

haru.
恋愛
五年前、結婚式当日に侍女と駆け落ちしたお兄様のせいで我が家は醜聞付きの貧乏伯爵家へと落ちぶれた。 他家へ嫁入り予定だった妹のジュリエッタは突然、跡継ぎに任命され婿候補とのお見合いや厳しい領主教育を受ける日々を送る事になった。 そしてお父様の死という悲しい出来事を乗り越えて、ジュリエッタは伯爵家を立て直した。 全ては此処からという時に、とうの昔に縁を切った筈の愚兄が何事もなかったかのように突然帰って来た。それも三歳になる甥を引き連れて…… 本編23話 + 番外編2話完結済み。 毎日1話ずつ更新します。

処理中です...