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【第10章】決定的な手紙
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王宮の空気が、どこかざわついているように感じました。
春の陽光は柔らかく差し込んでいるのに、胸の奥には薄い霧がかかったような重さが残っています。
(……ルシアンさまと、うまく話せてない)
彼は優しく微笑んでくださいますが、その笑みはどこか遠く、触れれば壊れてしまいそうな儚さを帯びています。
わたしは、離宮の書斎で机に向かいながら、胸の奥に沈む不安を抱え続けていました。
そんな時――。
「アリアさま。お手紙が届いております」
侍女が恭しく差し出した封筒を見て、わたしは首を傾げました。
「……差出人は?」
「ルシアン・クロードさま、と」
「え……?」
胸が跳ねました。
(ルシアンさまが……手紙を?)
わたしは急いで封を切りました。
けれど、読み進めるうちに、胸が冷たくなっていきました。
『――英雄アリアは金になる。
しばらくは利用してやるつもりだ。
あの女は俺の顔に夢中で、何も疑わない』
手が震えました。
「……そんな、はず……ありません」
声が震え、視界が滲みました。
(ルシアンさまが……こんなことを言うはずがないわよ)
そう思いたいのに、文字は確かに彼の筆跡に似ていました。
胸の奥が、ずきりと痛みます。
「アリアさま……?」
侍女が心配そうに声をかけてきましたが、わたしは首を振りました。
「大丈夫……です。少し、外の空気を吸ってきます」
手紙を握りしめたまま、わたしは離宮を出ました。
---
中庭の噴水のそばで、わたしは深呼吸を繰り返しました。
けれど、胸の痛みは消えません。
(……どうして、こんな手紙が)
その時――。
「アリアさま。お探ししておりました」
静かな声が背後から響きました。
振り返ると、金髪の青年――エリオット・クロードさまが立っておられました。
整った顔立ちに、冷静な微笑み。
その瞳は、まるでわたしの心の揺れを見透かすように鋭く光っています。
「……エリオットさま」
「兄上からの手紙を、お読みになったようですね」
その言葉に、胸が跳ねました。
「これは……本当に、ルシアンさまが?」
「ええ。兄上は昔からそうなのです。
甘い言葉で女性を惑わせ、利用できるだけ利用して……飽きたら捨てる」
「そんな……」
「あなたも、例外ではありませんよ」
エリオットさまは、静かに、しかし確実にわたしの心を追い詰めてきました。
「兄上は、あなたの“英雄”という立場を利用しているだけです。
あなたが兄上の顔に夢中なのを、よく理解しているのでしょう」
「…………」
胸が痛くて、息が詰まりそうでした。
(……わたしが、彼を傷つけている?
わたしが、彼を追い詰めているの?)
そんな思いが、胸の奥に広がっていきます。
「アリアさま。あなたは……もっとふさわしい方がいるはずです」
その言葉は、まるで氷の刃のように鋭く胸に刺さりました。
わたしは、手紙を握りしめたまま、俯きました。
「……わたしは……どうすれば……」
「兄上とは、距離を置かれるべきです。
あなたのためにも、兄上のためにも」
エリオットさまの声は静かで、冷たく、そして――妙に説得力がありました。
(……距離を置く?
わたしが……ルシアンさまから?)
胸が苦しくて、呼吸が浅くなります。
その時――。
「アリアさま!」
聞き慣れた声が響きました。
振り返ると、ルシアンさまが駆け寄ってこられました。
その表情は、わたしを見つけた安堵と、何かを恐れるような影が混じっていました。
「アリアさま……探しました。
どうして、そんなに辛そうな顔を……?」
「…………」
わたしは、手紙を胸に抱いたまま、言葉を失いました。
ルシアンさまは、わたしの手に触れようとしましたが――。
「アリアさま。兄上とは……距離を置かれたほうがよろしいでしょう」
エリオットさまの静かな声が、空気を切り裂きました。
ルシアンさまの表情が、苦しげに歪みました。
「エリオット……何を言っている!」
「事実を申し上げているだけです」
わたしは、二人の間で揺れながら、胸の奥に広がる痛みに耐えていました。
春の陽光は柔らかく差し込んでいるのに、胸の奥には薄い霧がかかったような重さが残っています。
(……ルシアンさまと、うまく話せてない)
彼は優しく微笑んでくださいますが、その笑みはどこか遠く、触れれば壊れてしまいそうな儚さを帯びています。
わたしは、離宮の書斎で机に向かいながら、胸の奥に沈む不安を抱え続けていました。
そんな時――。
「アリアさま。お手紙が届いております」
侍女が恭しく差し出した封筒を見て、わたしは首を傾げました。
「……差出人は?」
「ルシアン・クロードさま、と」
「え……?」
胸が跳ねました。
(ルシアンさまが……手紙を?)
わたしは急いで封を切りました。
けれど、読み進めるうちに、胸が冷たくなっていきました。
『――英雄アリアは金になる。
しばらくは利用してやるつもりだ。
あの女は俺の顔に夢中で、何も疑わない』
手が震えました。
「……そんな、はず……ありません」
声が震え、視界が滲みました。
(ルシアンさまが……こんなことを言うはずがないわよ)
そう思いたいのに、文字は確かに彼の筆跡に似ていました。
胸の奥が、ずきりと痛みます。
「アリアさま……?」
侍女が心配そうに声をかけてきましたが、わたしは首を振りました。
「大丈夫……です。少し、外の空気を吸ってきます」
手紙を握りしめたまま、わたしは離宮を出ました。
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中庭の噴水のそばで、わたしは深呼吸を繰り返しました。
けれど、胸の痛みは消えません。
(……どうして、こんな手紙が)
その時――。
「アリアさま。お探ししておりました」
静かな声が背後から響きました。
振り返ると、金髪の青年――エリオット・クロードさまが立っておられました。
整った顔立ちに、冷静な微笑み。
その瞳は、まるでわたしの心の揺れを見透かすように鋭く光っています。
「……エリオットさま」
「兄上からの手紙を、お読みになったようですね」
その言葉に、胸が跳ねました。
「これは……本当に、ルシアンさまが?」
「ええ。兄上は昔からそうなのです。
甘い言葉で女性を惑わせ、利用できるだけ利用して……飽きたら捨てる」
「そんな……」
「あなたも、例外ではありませんよ」
エリオットさまは、静かに、しかし確実にわたしの心を追い詰めてきました。
「兄上は、あなたの“英雄”という立場を利用しているだけです。
あなたが兄上の顔に夢中なのを、よく理解しているのでしょう」
「…………」
胸が痛くて、息が詰まりそうでした。
(……わたしが、彼を傷つけている?
わたしが、彼を追い詰めているの?)
そんな思いが、胸の奥に広がっていきます。
「アリアさま。あなたは……もっとふさわしい方がいるはずです」
その言葉は、まるで氷の刃のように鋭く胸に刺さりました。
わたしは、手紙を握りしめたまま、俯きました。
「……わたしは……どうすれば……」
「兄上とは、距離を置かれるべきです。
あなたのためにも、兄上のためにも」
エリオットさまの声は静かで、冷たく、そして――妙に説得力がありました。
(……距離を置く?
わたしが……ルシアンさまから?)
胸が苦しくて、呼吸が浅くなります。
その時――。
「アリアさま!」
聞き慣れた声が響きました。
振り返ると、ルシアンさまが駆け寄ってこられました。
その表情は、わたしを見つけた安堵と、何かを恐れるような影が混じっていました。
「アリアさま……探しました。
どうして、そんなに辛そうな顔を……?」
「…………」
わたしは、手紙を胸に抱いたまま、言葉を失いました。
ルシアンさまは、わたしの手に触れようとしましたが――。
「アリアさま。兄上とは……距離を置かれたほうがよろしいでしょう」
エリオットさまの静かな声が、空気を切り裂きました。
ルシアンさまの表情が、苦しげに歪みました。
「エリオット……何を言っている!」
「事実を申し上げているだけです」
わたしは、二人の間で揺れながら、胸の奥に広がる痛みに耐えていました。
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