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第17章 義妹の断罪
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王都の朝は、前夜の嵐が嘘のように静まり返っていました。
あの祝宴で全てが明らかになってから、まだ一晩しか経っていません。
けれど宮廷の空気は一変していて、噂とため息が廊下を満たしていました。
「王妃セリーナ殿下、公の場で尋問を――」
侍従の声が響くたびに、人々は沈黙します。
その波の中で、わたしはただ祈るように胸の前で手を組んでいました。
(これで終わる。けれど、本当に終わるのかな)
セリーナへの怒りも悲しみも、形を失って胸の奥で混じり合っていました。
人を傷つけた者としての罪と、同じ時間を過ごした妹としての記憶。
どちらも消えることはありません。
玉座の間の扉が開き、ライナルト様がわたしに小さく頷きました。
「始まるぞ。……準備はいいか」
「はい」
長い息を吐き、足を前に出しました。
銀の広間には、王と宰相、そして多くの貴族たち。
その中央で、セリーナは拘束こそ解かれていましたが、青ざめた表情で立っていました。
~~~~~~~~~~
「セリーナ・ヴァリィ公爵家令嬢。貴女の行いについて、弁明はありますか」
宰相の問いに、彼女は小さく唇を震わせました。
かつて誰よりも自信と華を纏っていたその顔が、今は影に覆われています。
「……何も、弁明などありません。ただ……わたくしは、愛されなかった。それだけです」
その声は、思いのほか弱く聞こえました。
いつものような虚勢はどこにもなく、ひとりの少女の心の叫びにしか聞こえませんでした。
「父にも、王にも、殿下にも……わたくしは、最後まで“誰かの代わり”でした。
姉さまの影に怯えながら、生きてきたんです」
「セリーナ……」
思わず彼女の名を呼んでしまいました。
彼女がわたしを見ました。その瞳には涙の光さえ宿っていました。
「あなたを傷つけたのに、今さらこんなことを言う資格はないけれど……
本当は羨ましかったの。いつも笑って、誰からも愛されて……わたしにはできなかった」
言葉を聞くうちに、心の奥で何かがほどけていきました。
ずっと、憎しみだけで見ていたけれど――その奥にあったのは、わたしと同じ“寂しさ”だったのかもしれません。
ライナルト様が一歩、前に進み出て告げます。
「王太子殿下への毒の件、王家の名を傷つけた罪。
通常であれば最も重い刑だ。だが、陛下はお前を王籍から除籍し、遠地への追放とされた。
……これが、最後の慈悲だ」
セリーナは一度も顔を上げず、静かに頭を垂れました。
「……それで構いません。
あの人のそばにいたことが、わたしにとっての夢でした。
夢から覚めた今、もう何も怖くありません」
彼女の頬を涙が滑り落ち、床に落ちました。
その姿を見て、わたしは胸の奥が痛みました。
「セリーナ」
呼ばずにいられませんでした。
彼女は驚いたように顔を上げ、わたしを見つめます。
「わたし、もうあなたを憎んでいません。
昔のことも、全部。……あなたが笑ってくれた日々を、偽りだとは思わないから」
「姉さま……なぜ、そんな……」
「だって、25日に生まれた娘は運命を変えるんでしょう?
なら、わたしは“憎しみで終わる運命”だけは嫌なんです。
これからは、お互い違う場所で生き直しましょう」
セリーナはしばらく何かをこらえるように唇を噛み、そして小さく頷きました。
「……姉さまらしいお言葉ですわね。本当に……悔しいくらい」
その言葉とともに、彼女は静かに微笑みました。
その笑顔にはもう、あの夜会のような偽りの輝きはありませんでした。
「さようなら、アメリア姉さま。どうか……幸せに」
それだけ言うと、彼女は護衛に導かれて歩き出しました。
背中が扉の向こうに消えるまで、わたしは何も言えずに立ち尽くしていました。
~~~~~~~~~~
広間を出たあと、静かな回廊に出ると外から光が差し込んでいました。
ガラス窓から見える空は青く澄み、まるで新しい始まりを祝うようです。
ライナルト様がそっと隣に立ちました。
「……お前は優しすぎるな」
「いいえ。許したいと思っただけです。
憎しみばかり持っていたら、母の教えに背いてしまう気がして」
「そうか。……お前らしい」
彼が微笑む。その穏やかな目に、もう戦場の氷はありません。
かわりに、あたたかい陽だまりのような光が宿っていました。
「これからどうしますか?」と尋ねると、彼は少しだけ空を見上げました。
「王都の後始末を終えたら、もうここには残らん。
あの辺境で、お前の庭に春を見に行く」
その言葉に、胸の奥が甘く締めつけられました。
「――はい。その時は、いちばん綺麗な花を咲かせておきますね」
「期待している」
二人で見上げた空に、鳥の群れが飛んでいきました。
あの祝宴で全てが明らかになってから、まだ一晩しか経っていません。
けれど宮廷の空気は一変していて、噂とため息が廊下を満たしていました。
「王妃セリーナ殿下、公の場で尋問を――」
侍従の声が響くたびに、人々は沈黙します。
その波の中で、わたしはただ祈るように胸の前で手を組んでいました。
(これで終わる。けれど、本当に終わるのかな)
セリーナへの怒りも悲しみも、形を失って胸の奥で混じり合っていました。
人を傷つけた者としての罪と、同じ時間を過ごした妹としての記憶。
どちらも消えることはありません。
玉座の間の扉が開き、ライナルト様がわたしに小さく頷きました。
「始まるぞ。……準備はいいか」
「はい」
長い息を吐き、足を前に出しました。
銀の広間には、王と宰相、そして多くの貴族たち。
その中央で、セリーナは拘束こそ解かれていましたが、青ざめた表情で立っていました。
~~~~~~~~~~
「セリーナ・ヴァリィ公爵家令嬢。貴女の行いについて、弁明はありますか」
宰相の問いに、彼女は小さく唇を震わせました。
かつて誰よりも自信と華を纏っていたその顔が、今は影に覆われています。
「……何も、弁明などありません。ただ……わたくしは、愛されなかった。それだけです」
その声は、思いのほか弱く聞こえました。
いつものような虚勢はどこにもなく、ひとりの少女の心の叫びにしか聞こえませんでした。
「父にも、王にも、殿下にも……わたくしは、最後まで“誰かの代わり”でした。
姉さまの影に怯えながら、生きてきたんです」
「セリーナ……」
思わず彼女の名を呼んでしまいました。
彼女がわたしを見ました。その瞳には涙の光さえ宿っていました。
「あなたを傷つけたのに、今さらこんなことを言う資格はないけれど……
本当は羨ましかったの。いつも笑って、誰からも愛されて……わたしにはできなかった」
言葉を聞くうちに、心の奥で何かがほどけていきました。
ずっと、憎しみだけで見ていたけれど――その奥にあったのは、わたしと同じ“寂しさ”だったのかもしれません。
ライナルト様が一歩、前に進み出て告げます。
「王太子殿下への毒の件、王家の名を傷つけた罪。
通常であれば最も重い刑だ。だが、陛下はお前を王籍から除籍し、遠地への追放とされた。
……これが、最後の慈悲だ」
セリーナは一度も顔を上げず、静かに頭を垂れました。
「……それで構いません。
あの人のそばにいたことが、わたしにとっての夢でした。
夢から覚めた今、もう何も怖くありません」
彼女の頬を涙が滑り落ち、床に落ちました。
その姿を見て、わたしは胸の奥が痛みました。
「セリーナ」
呼ばずにいられませんでした。
彼女は驚いたように顔を上げ、わたしを見つめます。
「わたし、もうあなたを憎んでいません。
昔のことも、全部。……あなたが笑ってくれた日々を、偽りだとは思わないから」
「姉さま……なぜ、そんな……」
「だって、25日に生まれた娘は運命を変えるんでしょう?
なら、わたしは“憎しみで終わる運命”だけは嫌なんです。
これからは、お互い違う場所で生き直しましょう」
セリーナはしばらく何かをこらえるように唇を噛み、そして小さく頷きました。
「……姉さまらしいお言葉ですわね。本当に……悔しいくらい」
その言葉とともに、彼女は静かに微笑みました。
その笑顔にはもう、あの夜会のような偽りの輝きはありませんでした。
「さようなら、アメリア姉さま。どうか……幸せに」
それだけ言うと、彼女は護衛に導かれて歩き出しました。
背中が扉の向こうに消えるまで、わたしは何も言えずに立ち尽くしていました。
~~~~~~~~~~
広間を出たあと、静かな回廊に出ると外から光が差し込んでいました。
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ライナルト様がそっと隣に立ちました。
「……お前は優しすぎるな」
「いいえ。許したいと思っただけです。
憎しみばかり持っていたら、母の教えに背いてしまう気がして」
「そうか。……お前らしい」
彼が微笑む。その穏やかな目に、もう戦場の氷はありません。
かわりに、あたたかい陽だまりのような光が宿っていました。
「これからどうしますか?」と尋ねると、彼は少しだけ空を見上げました。
「王都の後始末を終えたら、もうここには残らん。
あの辺境で、お前の庭に春を見に行く」
その言葉に、胸の奥が甘く締めつけられました。
「――はい。その時は、いちばん綺麗な花を咲かせておきますね」
「期待している」
二人で見上げた空に、鳥の群れが飛んでいきました。
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