【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第18章 王と将軍の誓い

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 数日後、王都に朝の鐘が鳴り響きました。  
 薄曇りの空に差し込む光が、白い塔の頂を黄金に染めています。  
 街は静かで、まるで嵐の後の世界のようでした。

 セリーナが追放され、毒の騒動が収束してから、ようやく王宮にも落ち着きが戻ってきたようでした。  
 けれど、わたしの胸の中はまだ凪いでいません。

(今日が……最後の務め)

 鏡の前で髪を整え、淡い青のドレスの襟を直しました。  
 裾には領地の花を刺繍した模様――カーラさんと村の人たちが贈ってくれたものです。  
 このドレスで王前に立つことが、わたしにとっての“けじめ”でした。

「アメリア。行くぞ」

 扉の向こうから、いつもの低い声。  
 振り向くと、黒衣の軍装に身を包んだライナルト様が立っていました。  
 打って変わって彼の表情は穏やかで、どこか優しく微笑んでいます。

「緊張しているか?」
「少しだけ……でも、あなたがいてくだされば大丈夫です」

「言うようになったな」

 微笑まれただけで、心がすっと落ち着いていきました。  
 短い沈黙のあと、彼はわたしの手に触れ、指先を軽く握りました。

「王への謁見が終わったら、話がある。覚えておけ」
「……はい?」

 意味を問う間もなく、彼は静かに歩き出しました。  
 その背中を見ながら、胸の鼓動が少しずつ速くなるのを感じました。


~~~~~~~~~~


 謁見の間。  
 天井に描かれた暦の壁画の下で、わたしはひざまずきました。  
 高台の玉座には、歳を重ねた国王―アルフレッド陛下。  
 深い金の瞳が、静かにわたしを見つめています。

「アメリア・クライン――いや、セリシア王女の娘、アメリア・アルステリア」

 名前を呼ばれた途端、胸の奥が熱くなりました。  
 母の本当の姓。わたしが生涯知らずにいた“王家の名”。

「そなたの母セリシアは、己の信念のために宮廷を離れた。  
 だが彼女が残した心と記録は、この国の誇りであり、そなたがその証だ」

 王の声は低く、それでいてあたたかでした。  
 頭を下げながら、涙が頬を伝うのをこらえられませんでした。

「陛下、私は……王家に戻るつもりはありません。  
 ただ、母の名を汚さず、誰かのために生きていきたいのです」

 顔を上げると、陛下がやわらかく微笑まれました。

「その覚悟こそ、王家の血より尊い。……ならば、望むままに生きるがよい。  
 ただし、我が庇護の証として“王の娘”の名は授けておこう。  
 国のどこにいても、そなたはこの国に守られた者だ」

「……ありがとうございます。陛下」

 胸の奥に満ちていく光を、静かに感じました。  
 母が愛したこの国で――やっと、自分の居場所ができたのです。

 陛下が頷くと、ライナルト様が一歩前に出ました。

「陛下。もうひとつ申し上げたいことがあります」

「ほう? 将軍からとは珍しいな」

 その声に、わたしは思わず身を正しました。  
 ライナルト様は王の前で膝をつき、堂々と宣言しました。

「私は、アメリア殿を自分の妻に迎えたいと願っております」

 その言葉に、喉の奥から息が漏れました。  
 周囲の近侍たちが一斉にざわめき、その声が遠くに霞んでいく。

「妻、に……?」

 思わず彼を見つめると、彼の青い瞳が直線的にわたしを射抜いていました。  
 どこまでもまっすぐで、熱のこもった視線。

「彼女は私を救ってくれた。氷のように冷めきった心を、溶かしてくれた。  
 この国を再び立て直すのなら、彼女のような“春”がそばに必要です。  
 私の剣と生涯を持って、彼女を守ることをここに誓います」

「……ライナルト様」

 胸がいっぱいで言葉が出ませんでした。  
 目頭が熱くなり、視界の端が涙で滲んでいきます。

 王はしばし沈黙したあと、深く頷きました。

「なるほど。氷の将軍が、春を選ぶか。  
 よかろう。アメリア、そなたはどうだ」

 王の視線がわたしに向けられます。  
 鼓動がやかましいほど鳴り響き、胸の奥にひとつだけ確かな想いが残っていました。

「……はい。わたしも、ライナルト様と共にありたいと思います」

 その瞬間、王が笑みを浮かべました。

「よい。ならば、この祝福をもって、二人の未来を認めよう。  
 ――“暦の花嫁”は、運命を変える娘なり」

 大広間に風が吹き抜け、壁画の暦神の瞳がきらめきました。  
 それはまるで、母が笑っているような光。  
 涙が頬を伝い、わたしは頭を下げました。

「ありがとうございます、陛下」

 隣でライナルト様が静かに手を取ります。  
 その手を握り返した瞬間、あの日の寒い雪が遠くに溶けていく音がしました。


~~~~~~~~~~


 謁見を終えて外に出ると、冬の名残を運ぶ風が吹いていました。  
 空の端には柔らかな春の色。  
 庭園の花々が、早くも芽を覗かせています。

「……これで、やっと終わったんですね」
「いや。ここから始まるんだ、アメリア」

 ライナルト様がそう言って微笑みました。  
 その笑顔に、何度も見たはずの懐かしさがこもっていました。

「辺境に戻ったら、まずは花壇を作ろう。約束しただろう?」
「ええ。お花が咲いたら、いちばんに見せますね」

「その時までに式の準備も進めておこう」
「もう、先走りすぎです!」

 思わず笑ってしまい、彼も小さく息を吐いて笑いました。  
 空に舞う白い花びらが、二人の間にふわりと舞い降ります。

 わたしはその花弁を手のひらに載せ、小さく囁きました。

「25日は、やっぱり、運命の数字ですね」
「そうだな。俺が“妻を得る日”になるらしい」

 軽く照れながらも彼が笑う姿に、胸が温かくなりました。
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