4 / 18
(4)新たな日々
しおりを挟む
セリーヌは、辺境の伯爵城での新生活を迎えた。
城というよりも、古い石造りの砦で、外壁には苔がびっしりと生え、隙間風が冷たい空気を忍び込ませていた。
何度か息を吐くと、その白い息がすぐに冷えた空間に溶け込んでいく。
部屋の窓は薄暗く曇り、日の光すら十分に差し込まない。
「私の人生もこの城と同じね…修復不可能。」
セリーヌは自嘲気味に笑みを浮かべ、そう呟かずにはいられなかった。
だが、そんな彼女の暗い心に一筋の光が差し込んだのは、思いがけないラウルの不器用な優しさだった。
初日の朝、セリーヌは疲れ果てた心を抱えながら、恐る恐る食堂へと向かった。
大きな木製の扉を開けると、そこにはすでにラウルが座っていた。
古い長テーブルの中央に一人、肩幅の広い背中を少し縮めるようにして椅子に座る彼の姿は、どこか頼りないようにも見えた。
セリーヌが姿を現すと、ラウルはぎこちなく立ち上がり、慌てたように微笑んだ。
その笑顔は、まるで久しぶりに微笑むことを思い出した人のようで、少し硬く、どこか不器用だった。
「おはよう、セリーヌ嬢。いや…セリーヌ。」
ラウルは彼女の名前を呼び直すと、ためらいがちな声で続けた。
「昨夜はよく眠れたかい?」
セリーヌは少しだけ目を伏せながら答えた。
「はい…まあ、風が少し気になりましたけど。」
その言葉を聞くと、ラウルは驚いたように目を見開き、次の瞬間には立ち上がって大声を上げた。
「それは申し訳ない!すぐに職人を呼んで修繕させる!」
「い、いえ、それほどでも…」
セリーヌは慌てて手を振り、恐縮したように答えた。
ラウルはその言葉に少し動きを止めたが、それでも納得した様子ではなく、彼の大きな体が不安げに揺れていた。
セリーヌは、そんな彼のぎこちない動きに、思わず苦笑してしまった。
大柄な姿とは裏腹に、彼の行動にはどこか幼さがあり、憎めないものがあった。
やがて朝食が運ばれてくると、セリーヌはさらに驚いた。
テーブルに並べられたのは、湯気を立てる野菜のスープ、黒パン、そして固めのチーズという簡素なものだった。
それらの質素な食事は、以前の侯爵家の豪華な食卓とは比べものにならない。
彼女は一瞬言葉を失い、しかし、すぐにスープに手を伸ばした。
スプーンで一口すくい、慎重に口に運ぶ。
素朴な味わいが広がり、予想外の温かさが体に染み渡った。
その瞬間、彼女の疲れた心が少しだけ和らいだ気がした。
「ここの料理は君の家のものよりずっと簡素だろう。」
ラウルが穏やかな声で言った。
「けど、私たちは地元の農民たちと同じものを食べる主義なんだ。」
その言葉には、彼自身の考えに対する誇りが感じられた。
セリーヌはしばらく彼を見つめてから、静かに頷き、スープをもう一口飲んだ。
その温かさは、彼の言葉と同じく、どこか不思議な安心感を与えるものだった。
「…温かいですね。このスープ。」
思わず漏れた彼女の言葉に、ラウルは少し照れたように笑った。
「このスープは農民たちの間で作られる伝統的なものなんだ。決して豪華ではないけど、みんなが力をつけるためのものだよ。」
セリーヌはその言葉を噛み締めるように聞きながら、もう一度スープをすする。
質素だが心のこもった味が、彼の言葉と相まって、少しだけ心に温かい灯をともしてくれた。
城というよりも、古い石造りの砦で、外壁には苔がびっしりと生え、隙間風が冷たい空気を忍び込ませていた。
何度か息を吐くと、その白い息がすぐに冷えた空間に溶け込んでいく。
部屋の窓は薄暗く曇り、日の光すら十分に差し込まない。
「私の人生もこの城と同じね…修復不可能。」
セリーヌは自嘲気味に笑みを浮かべ、そう呟かずにはいられなかった。
だが、そんな彼女の暗い心に一筋の光が差し込んだのは、思いがけないラウルの不器用な優しさだった。
初日の朝、セリーヌは疲れ果てた心を抱えながら、恐る恐る食堂へと向かった。
大きな木製の扉を開けると、そこにはすでにラウルが座っていた。
古い長テーブルの中央に一人、肩幅の広い背中を少し縮めるようにして椅子に座る彼の姿は、どこか頼りないようにも見えた。
セリーヌが姿を現すと、ラウルはぎこちなく立ち上がり、慌てたように微笑んだ。
その笑顔は、まるで久しぶりに微笑むことを思い出した人のようで、少し硬く、どこか不器用だった。
「おはよう、セリーヌ嬢。いや…セリーヌ。」
ラウルは彼女の名前を呼び直すと、ためらいがちな声で続けた。
「昨夜はよく眠れたかい?」
セリーヌは少しだけ目を伏せながら答えた。
「はい…まあ、風が少し気になりましたけど。」
その言葉を聞くと、ラウルは驚いたように目を見開き、次の瞬間には立ち上がって大声を上げた。
「それは申し訳ない!すぐに職人を呼んで修繕させる!」
「い、いえ、それほどでも…」
セリーヌは慌てて手を振り、恐縮したように答えた。
ラウルはその言葉に少し動きを止めたが、それでも納得した様子ではなく、彼の大きな体が不安げに揺れていた。
セリーヌは、そんな彼のぎこちない動きに、思わず苦笑してしまった。
大柄な姿とは裏腹に、彼の行動にはどこか幼さがあり、憎めないものがあった。
やがて朝食が運ばれてくると、セリーヌはさらに驚いた。
テーブルに並べられたのは、湯気を立てる野菜のスープ、黒パン、そして固めのチーズという簡素なものだった。
それらの質素な食事は、以前の侯爵家の豪華な食卓とは比べものにならない。
彼女は一瞬言葉を失い、しかし、すぐにスープに手を伸ばした。
スプーンで一口すくい、慎重に口に運ぶ。
素朴な味わいが広がり、予想外の温かさが体に染み渡った。
その瞬間、彼女の疲れた心が少しだけ和らいだ気がした。
「ここの料理は君の家のものよりずっと簡素だろう。」
ラウルが穏やかな声で言った。
「けど、私たちは地元の農民たちと同じものを食べる主義なんだ。」
その言葉には、彼自身の考えに対する誇りが感じられた。
セリーヌはしばらく彼を見つめてから、静かに頷き、スープをもう一口飲んだ。
その温かさは、彼の言葉と同じく、どこか不思議な安心感を与えるものだった。
「…温かいですね。このスープ。」
思わず漏れた彼女の言葉に、ラウルは少し照れたように笑った。
「このスープは農民たちの間で作られる伝統的なものなんだ。決して豪華ではないけど、みんなが力をつけるためのものだよ。」
セリーヌはその言葉を噛み締めるように聞きながら、もう一度スープをすする。
質素だが心のこもった味が、彼の言葉と相まって、少しだけ心に温かい灯をともしてくれた。
79
あなたにおすすめの小説
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
冷徹王子に捨てられた令嬢、今ではその兄王に溺愛されています
ゆっこ
恋愛
――「お前のような女に、俺の隣は似合わない」
その言葉を最後に、婚約者であった第二王子レオンハルト殿下は私を冷たく突き放した。
私、クラリス・エルデンは侯爵家の令嬢として、幼い頃から王子の婚約者として育てられた。
しかし、ある日突然彼は平民出の侍女に恋をしたと言い出し、私を「冷酷で打算的な女」だと罵ったのだ。
涙も出なかった。
あまりに理不尽で、あまりに一方的で、怒りも悲しみも通り越して、ただ虚しさだけが残った。
偽りの婚約者は、幼馴染の仮面を脱いだら甘くて執着深い
由香
恋愛
家の借金を理由に政略結婚を迫られる伯爵令嬢エリシアは、幼馴染のノアに「婚約者のふり」を頼む。
だが無邪気な年下と思っていた彼は、実は腹黒で一途な天才。
“偽装婚約”は甘さと執着に満ち、本物より本物らしくなっていく。
政敵との対立、同居生活、すれ違う想い——
そして二人はついに、嘘だったはずの婚約を本物に変えていく。
偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日
紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。
「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。
しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。
それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。
最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。
全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。
【完結】いつも微笑んでいる侯爵様とニコリともしない伯爵令嬢のお話
まりぃべる
恋愛
アルフォンシーナ=ソルディーニは、滅多に笑わない。何故ってそれは、あるトラウマがあるから。
外見は怖いけれど、いつも微笑みを絶やさない侯爵令息は社交界で女性達から人気がある。
アルフォンシーナはその侯爵令息と話す機会があり、そしていつの間にかトラウマが解消されて昔のように可愛く笑う事が出来るようになり、溺愛されつつ結婚する事となりました。そんな二人のお話。
☆現実世界とは異なる世界です。似たような表現、名前、地名、などはあるかと思いますが、現実世界とは異なります。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ている単語をなんとなくの世界観で造る場合があります。
☆設定は緩い世界です。言葉遣いも、緩いです。そのように楽しんでいただけると嬉しいです。
☆話は最後まで出来上がっていますので、随時更新していきます。全31話です。
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました
柚木ゆず
恋愛
王太子ジルベールの一目惚れにより婚約者にされてしまった、下級貴族の令嬢アンリエット。しかし彼女は孤児院で育った養女という理由で婚約を破棄され、更にはその際にジルベールの恨みを買ってしまう。
理不尽に怒り狂い、アンリエットを秘密裏に殺そうとするジルベール。だが彼は――アンリエットでさえも、知らなかった。
放蕩息子として有名なアンリエットの義兄シャルルは、完璧超人だったということに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる