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(1)運命の婚姻
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リュネリア王国の片隅にある、時代の流れに取り残されたような小さな王宮。
その薄暗い廊下の一室では、ひとりの若い女性が鏡の前で奮闘していた。
第3王女アリシア。
古びた壁にかけられた鏡に映るのは、肩まで伸びた癖っ毛と、少しばかり頑固そうな眉。
そして何より、着ているドレスのウエスト部分を必死に引っ張る姿だ。
「これが『最も見られても恥ずかしくないドレス』ですって?」
アリシアは鏡越しに自分へ文句を言う。
「どう見ても十年前の私じゃないと入らないでしょ、これ!」
ドレスのリボンを思いきり引っ張った瞬間、布地から「ピキッ」という音がした。
アリシアは動きを止め、恐る恐る音の出どころを確認する。
どうやらミシン目が限界を迎えたらしい。
「……お直しが必要ってレベルじゃないわね、これ。」
そんな彼女の様子を冷たい視線で見守っていたのは、侍女長のエマだ。
年季の入ったエプロンドレスに身を包み、アリシアの愚痴に耳を貸す様子は微塵もない。
手に持っている薄紫色のドレスをアリシアに押しつけると、ため息混じりに一言。
「第3王女殿下、人質に見えないほど豪華な衣装を着るわけにはいきません。控えめで、ひっそりと、そう、影のように見えるのが役目でございます。」
アリシアはドレスを受け取りながら、眉間にしわを寄せた。
「影って!私はもうちょっとこう、せめて木陰くらいの存在感がほしいんだけど?」
エマは鼻で笑いながら、肩部分の刺繍が色褪せた薄紫のドレスを丁寧に広げてみせる。
刺繍は風化してほとんど原型を留めておらず、全体的にしおれた花のような印象だった。
「これ、どこからどう見ても地味じゃない?ていうか、日の目を見たのっていつよ?」
「そんなことをおっしゃる余裕がおありなら、さっさとお召しくださいませ。殿下が人質として嫁ぐ最後の一日です。」
「人質、人質って!」
アリシアは唇を尖らせた。
「もっと言い方ってものがあるでしょう?せめて外交の架け橋とか!」
「殿下、現実を受け入れることは、王女としての成長でございます。」
エマの冷静すぎる返答に、アリシアはうなだれた。彼女に言い返すのは大抵無駄だということを、長年の経験で知っているからだ。
「まあ、いいわ。どうせ向こうに行ったら、私なんか誰も見ないでしょ?」
「その通りでございます。」
さらに冷淡なエマの追い打ちが、アリシアの胸にグサリと突き刺さる。
渋々ドレスに袖を通したアリシアは、窮屈なウエストに少し身をよじらせた。
体に合わない衣装をなんとか着こなそうとする自分の姿が鏡に映り、思わず苦笑いが漏れる。
「影のように、ね……。どうせ誰も期待してないんだから、もう少し自由に生きられたらいいのに。」
心の奥でぽつりとつぶやいたその瞬間、侍女長の声が部屋に響いた。
「殿下、ご準備が整いましたら、お見送りの者たちが控えております。」
「はいはい、行けばいいんでしょ。」
アリシアは渋々とした態度を見せながらも、心の中では妙な感覚が渦巻いていた。
この先に待つ運命がどのようなものか、彼女にはまだわからない。
ただ、これ以上落ちるところはないだろうと、自分に言い聞かせるしかなかった。
そうして歩き出したアリシアの背中に、エマの小さなつぶやきが追いかけた。
「影のようでありながら、いつの日か光を照らす存在となるかもしれませんね。」
アリシアは聞こえなかったふりをして、薄暗い廊下を静かに進んでいった。
その薄暗い廊下の一室では、ひとりの若い女性が鏡の前で奮闘していた。
第3王女アリシア。
古びた壁にかけられた鏡に映るのは、肩まで伸びた癖っ毛と、少しばかり頑固そうな眉。
そして何より、着ているドレスのウエスト部分を必死に引っ張る姿だ。
「これが『最も見られても恥ずかしくないドレス』ですって?」
アリシアは鏡越しに自分へ文句を言う。
「どう見ても十年前の私じゃないと入らないでしょ、これ!」
ドレスのリボンを思いきり引っ張った瞬間、布地から「ピキッ」という音がした。
アリシアは動きを止め、恐る恐る音の出どころを確認する。
どうやらミシン目が限界を迎えたらしい。
「……お直しが必要ってレベルじゃないわね、これ。」
そんな彼女の様子を冷たい視線で見守っていたのは、侍女長のエマだ。
年季の入ったエプロンドレスに身を包み、アリシアの愚痴に耳を貸す様子は微塵もない。
手に持っている薄紫色のドレスをアリシアに押しつけると、ため息混じりに一言。
「第3王女殿下、人質に見えないほど豪華な衣装を着るわけにはいきません。控えめで、ひっそりと、そう、影のように見えるのが役目でございます。」
アリシアはドレスを受け取りながら、眉間にしわを寄せた。
「影って!私はもうちょっとこう、せめて木陰くらいの存在感がほしいんだけど?」
エマは鼻で笑いながら、肩部分の刺繍が色褪せた薄紫のドレスを丁寧に広げてみせる。
刺繍は風化してほとんど原型を留めておらず、全体的にしおれた花のような印象だった。
「これ、どこからどう見ても地味じゃない?ていうか、日の目を見たのっていつよ?」
「そんなことをおっしゃる余裕がおありなら、さっさとお召しくださいませ。殿下が人質として嫁ぐ最後の一日です。」
「人質、人質って!」
アリシアは唇を尖らせた。
「もっと言い方ってものがあるでしょう?せめて外交の架け橋とか!」
「殿下、現実を受け入れることは、王女としての成長でございます。」
エマの冷静すぎる返答に、アリシアはうなだれた。彼女に言い返すのは大抵無駄だということを、長年の経験で知っているからだ。
「まあ、いいわ。どうせ向こうに行ったら、私なんか誰も見ないでしょ?」
「その通りでございます。」
さらに冷淡なエマの追い打ちが、アリシアの胸にグサリと突き刺さる。
渋々ドレスに袖を通したアリシアは、窮屈なウエストに少し身をよじらせた。
体に合わない衣装をなんとか着こなそうとする自分の姿が鏡に映り、思わず苦笑いが漏れる。
「影のように、ね……。どうせ誰も期待してないんだから、もう少し自由に生きられたらいいのに。」
心の奥でぽつりとつぶやいたその瞬間、侍女長の声が部屋に響いた。
「殿下、ご準備が整いましたら、お見送りの者たちが控えております。」
「はいはい、行けばいいんでしょ。」
アリシアは渋々とした態度を見せながらも、心の中では妙な感覚が渦巻いていた。
この先に待つ運命がどのようなものか、彼女にはまだわからない。
ただ、これ以上落ちるところはないだろうと、自分に言い聞かせるしかなかった。
そうして歩き出したアリシアの背中に、エマの小さなつぶやきが追いかけた。
「影のようでありながら、いつの日か光を照らす存在となるかもしれませんね。」
アリシアは聞こえなかったふりをして、薄暗い廊下を静かに進んでいった。
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