【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(24)「カイゼルの秘密と宮廷の騒動」

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数日後の午後、アリシアはカイゼルと並んで宮廷内の廊下を歩いていた。

窓の外には穏やかな青空が広がり、庭園では小鳥たちがさえずっている。

贅沢で静かな時間――けれどアリシアにとって、その静けさはどこか落ち着かなかった。  

「うーん、なんか今日は静かすぎて、逆に不安になってくるわね。」  

アリシアはぼんやりと口に出したが、カイゼルはまるで聞き流すように、無表情で前を歩いている。

それがいつもの彼らしいとも言えるが、少しは反応してほしいと思わなくもない。  

「その不安は余が解消する。」  

突然の言葉に、アリシアは思わず彼の横顔を見上げた。

相変わらずの無表情に、つい肩をすくめてしまう。  

「解消って、どうやって?」  

カイゼルは一瞬アリシアに視線を向けたが、やはりその表情は変わらない。  

「適当なことを言う。」  

その堂々とした答えに、アリシアは驚きと呆れが入り混じった表情になった。  

「それで解消できるの?」  

「もちろんだ。」  

カイゼルは何の迷いもなく断言した。

その真剣な態度に、アリシアは思わず吹き出してしまった。  

「本当、陛下っておかしい人ですね。でも、そういうの、嫌いじゃないかも。」  

アリシアが微笑むと、カイゼルは短く「ふん」と鼻を鳴らし、再び歩き始めた。

その背中を追いながら、彼女の心は少しだけ軽くなったような気がした。

適当なことでも、気分が変わるものだ。  

二人がそんな軽い会話を交わしながら廊下を進んでいると、突然遠くから甲高い叫び声が響いてきた。  

「キャーッ!」  

アリシアは驚いて足を止め、周囲を見回した。

音のする方に目を向けると、皇宮の制服を着た料理人が慌てふためきながらこちらに走ってくるのが見えた。

顔は青ざめ、涙目になっている。  

「何があったの?」  

アリシアは駆け寄る料理人に声をかけたが、彼は混乱のあまりうまく言葉にできないようだった。  

「……厨房で……大変なことが……」  

断片的に出てくる言葉からして、ただ事ではなさそうだ。

カイゼルはその場に立ち止まり、冷静に眉をひそめると、そのまま騒ぎの方向へ足を向けた。  

「陛下、行くんですか?」  

アリシアが慌てて後を追うと、カイゼルは軽く頷いただけで何も言わなかった。  

廊下を進むと、厨房付近に近づくにつれて喧騒が増していくのがわかった。

大柄な料理人たちが集まり、何かを取り押さえようとしている。

中には焦りからか、皿を落として割ってしまう者もいるようだった。  

「料理人が……暴れているの?」  

アリシアは目を丸くしながら、カイゼルに問いかけたが、彼は答えずにそのまま厨房の中に踏み込んだ。

その堂々とした姿に、周囲の騒ぎも一瞬だけ静まり返る。  

「何が起きている。」  

カイゼルの低く響く声に、その場にいた料理長が慌てて頭を下げながら説明を始めた。  

「申し訳ありません、陛下!新入りの者が貴重な調味料を使いすぎてしまい、それを巡って口論になってしまいまして……」  

奥を見やると、若い料理人が真っ赤な顔で先輩らしき人物に詰め寄っているのが見えた。

周囲の料理人たちも慌てて仲裁に入ろうとしているが、状況は収まる気配がない。  

「余が収める。」  

カイゼルは淡々とそう言うと、何事もなかったかのように奥へと歩みを進めた。

その威厳ある姿に、周囲の料理人たちは自然と道を開ける。  

「え……どうするんですか?」  

アリシアは一瞬驚いたが、その背中を追いながらも、どこか彼の行動に期待している自分に気づいた。  

カイゼルが若い料理人の前で立ち止まると、周囲はさらに静まり返った。

彼はただ一言、「争いをやめよ」と静かに言っただけだった。  

その言葉には、誰も逆らえない重みがあったのか、それともカイゼルの冷ややかな視線が効いたのか。

若い料理人は何かを言いかけて止まり、先輩も気まずそうに目をそらした。  

「次に争うときは、余の前で跪くことになる。それでもよいのなら続けるがよい。」  

その言葉に、料理人たちは一斉に首を横に振り、慌てて頭を下げた。  

数分後、厨房の騒ぎはすっかり収まり、カイゼルは何事もなかったかのようにアリシアの方へ戻ってきた。  

「……どうやって収めたんですか?」  

アリシアが不思議そうに尋ねると、カイゼルはさらりと答えた。  

「余の前で争う者はいない。それだけだ。」  

その言葉にアリシアは思わず吹き出してしまった。  

「陛下、本当に不器用ですね。でも……ちょっとカッコいいかも。」  

アリシアの笑顔を見て、カイゼルは何も言わずに歩き出す。

ただその後ろ姿に、どこか満足そうな雰囲気が漂っている気がした。
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