【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(36)「お互いにもっと近づいて」

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カイゼルがアリシアの手を取った後、二人は言葉を交わさずにしばらく歩き続けた。

初めて触れたカイゼルの手は思ったよりも温かく、アリシアの胸は高鳴っていた。

彼女はちらりと隣のカイゼルを見上げる。

口をへの字に結びながら、何か考え込んでいる様子の彼が、やっぱり少し可愛く見えた。

「……。」

アリシアは一瞬迷ったが、やっぱりこの沈黙を破りたい。

思い切って話しかけることにした。 
 
「ねえ、カイゼル様。」

アリシアはそっと声をかける。

声はちょっとだけ震えていたけれど、それが彼女自身でも面白く感じられた。

カイゼルは短く「なんだ?」と答える。

少しぎこちないその声色に、アリシアの胸がくすぐられる。

なんだかんだで、カイゼル様も緊張しているんじゃないかと思うと、彼の反応がいっそう楽しくなってくる。

「このままずっと手をつないだまま歩いてたら、どこにたどり着くのかしら?」

アリシアはわざとおどけたように言いながら、カイゼルを見上げた。

カイゼルは一瞬、足を止めた。

まるで真剣に考え込むかのように眉をひそめて、「お前が放さなければ、どこまでも行くさ」とぼそりと返す。

その言葉にアリシアは目を輝かせて、少し意地悪そうな笑みを浮かべる。

「ふふ、じゃあこのままずっとつないでいてもいい?」  

その冗談めいた言葉に、カイゼルは赤面した。

明らかに焦りの色を帯びた顔で、彼はあからさまにそっぽを向く。

「お前なあ、そういうこと言うなよ。」

「でも、カイゼル様の手、思ったより温かいんだもの。」

アリシアは無邪気に言いながら、その手を少しだけ握り直した。

その仕草にカイゼルはビクリと反応する。

どこかぎこちない様子で、目を逸らしつつも彼女の手をしっかり握り返すのだった。

「お前、ほんとに……」

カイゼルが何か言いかけて、また黙る。

その言葉の続きが気になるけれど、彼が何を考えているのかを想像するのも楽しい。

アリシアは歩調を合わせながら、わざと何も聞かずにニコニコしていた。


やがて、庭の中心にある小さな噴水の前にたどり着いた。

水が陽の光を受けてキラキラと輝き、その静かな音が耳に心地よい。

二人の足音だけが響いていた庭は、この噴水の音とともに、さらに二人きりの世界のように感じられる。

アリシアがふと足を止めると、カイゼルもその場で立ち止まった。

「どうした?」と少し不安げな表情を浮かべる。

「ただ、この場所がすごく綺麗だなって思って。」

アリシアはそう言いながら、噴水の水をじっと見つめた。カイゼルもその視線を追って、無言で頷く。

「ねえ、カイゼル様って、こうやって庭をゆっくり散歩したりすることってあるの?」

アリシアはふいに問いかけた。

カイゼルは少し考え込むように眉を寄せると、「いや、ほとんどないな。暇があったら訓練場にいるし、こんなにのんびりしたのは……久しぶりかもしれない」と正直に答えた。

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、今日は特別な日ですね。」

アリシアが意味深な笑みを浮かべてそう言うと、カイゼルは少しだけ顔を赤らめる。

「お前と特別って、何の話だ。」

彼はそっぽを向いて言い返したが、その声にはどこか照れくさそうな響きがあった。

「だって、私と手をつないで歩いてるんだもん。こんなこと、きっと今まで誰ともしてないでしょ?」

アリシアは無邪気に言い放った。

「……誰ともしてないけど、それを堂々と言うやつがどこにいるんだ。」

カイゼルは恥ずかしさを隠すように咳払いをするが、その耳は真っ赤だった。

二人は再び歩き始めた。

今度はアリシアが少しだけカイゼルの方に寄り添いながら歩く。

距離が縮まるたび、アリシアは胸が高鳴り、自然と笑みがこぼれた。

やがてアリシアは、小さな声でつぶやいた。

「ねえ、カイゼル様。これからもたまに一緒に散歩してくれますか?」

カイゼルは少し驚いた顔をしたが、やがて真剣な目で彼女を見つめて頷く。

「気が向いたらな。」

その言葉にアリシアは満足そうに微笑んだ。

二人の手はまだしっかりとつながれたままで、静かな庭の中、確かに何かが始まっているような気がした。
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