【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(35)「二人だけの時間」

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その翌日、アリシアは驚きの言葉を耳にした。カイゼルが、自ら「庭での散歩に付き合う」と言い出したのだ。

「今日は少しだけ、一緒に歩こう。」
  
その言葉に、アリシアは目を丸くした。

「ほ、本当に?」  

カイゼルはそっけなく答えた。

「別にお前のためじゃない。ただ、暇だからだ。」  

いつものように冷たい口調だったが、アリシアには少しぎこちなさを感じた。  

「ふふ、でも嬉しい!カイゼル様が散歩に付き合ってくれるなんて、珍しいじゃないですか!」

アリシアは笑顔を浮かべて小走りに近づくと、思わず彼の肩に軽く触れた。  

その瞬間、カイゼルはわずかに動揺し、ほんの一瞬だけ足を止めた。

「お前、いきなり触るな。」  

照れ隠しのように眉をひそめる彼を見て、アリシアはくすくすと笑った。

「だって、嬉しかったんだもの。こういう優しい一面もあるんですね!」  

「優しいわけじゃない。お前が迷子にならないように見てるだけだ。」

カイゼルは歩き出しながら、わざとらしく冷たい言葉を投げたが、その頬は少し赤みを帯びていた。  

アリシアはそんな彼をからかうように、わざとカイゼルの少し前を歩きながら振り返った。

「迷子になるのは、カイゼル様のほうじゃない?」  

「俺が?」

カイゼルは驚いたように目を細める。

「お前は何を言っている?」  

「だって、私を守るつもりなら、もっと近くで歩かないと。」

アリシアはふざけた調子で答えると、カイゼルはため息をつきながら彼女の隣に並んだ。  

「お前、本当に調子に乗るのが得意だな。」  

「だって、調子に乗れるのもカイゼル様のおかげですよ?」

アリシアは悪戯っぽく笑いながら言った。

その笑顔が妙に輝いて見えたのか、カイゼルは一瞬だけ彼女の顔を見つめたが、すぐに視線を外した。  

庭の小道には、夜露を受けた花々がしっとりと輝き、月明かりが二人の影を静かに揺らしていた。

風は穏やかで心地よく、アリシアは時折そっとカイゼルの横顔をうかがった。  

「カイゼル様、こうやって一緒に歩くのっていいですね。」

アリシアがふとつぶやく。  

「どういう意味だ?」

カイゼルは少し警戒したように彼女を見る。  

「んー、なんて言うか…こうしてると、ちょっと普通の人たちみたいに感じるの。特別な立場とか忘れて、ただの二人として歩いてるみたいで。」  

カイゼルはしばらく黙っていたが、やがて小さく呟いた。

「お前と普通…か。」  

アリシアは彼の言葉を聞いて、そっと微笑んだ。

「はい。私はそういうの、好きなんです。」  

その後、二人は静かに歩き続けた。

言葉は少なかったが、どこか温かい空気が流れていた。  

やがてアリシアがふざけた調子で言った。

「ねえ、次は手をつないで歩こうよ。」  

「は?」

カイゼルは驚きの声を上げ、足を止めた。

「お前は何を言い出すんだ?」  

「だって、こうやって歩いてるだけでも楽しいけど、もっと仲良くしたいじゃない?」

アリシアは無邪気な笑顔で言う。  

「お前、本当にどこまで調子に乗るつもりだ…!」

カイゼルは額に手をやり、困惑したようにため息をついたが、少しだけ顔が赤い。  

「ほら、手を出してみて?」

アリシアは手を差し出しながら、じっと彼を見つめた。

その瞳には悪意の欠片もなく、純粋な期待が込められていた。  

カイゼルはしばらく迷ったようだったが、やがて観念したように小さくため息をつき、そっとアリシアの手を取った。

その手は少し冷たかったが、しっかりとした力強さを感じた。  

「……少しだけだ。」  

「わあ、ありがとう!」

アリシアは嬉しそうに笑い、握られた手にぎゅっと力を込めた。  

カイゼルは恥ずかしそうに顔を背けながら呟いた。

「こんなこと、これっきりだ。」  

「じゃあ次はもっと特別なお願いをするね!」

アリシアは冗談めかして言った。  

カイゼルは苦笑いを浮かべたが、どこか楽しそうでもあった。

「お前には本当に敵わないな。」  

その夜、二人の距離はほんの少し縮まった。

そして、それを感じているのはアリシアだけではなかった。

カイゼルの中でも、アリシアといる時間が以前よりも居心地よくなっていることに気づき始めていた。  
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