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新しい護衛
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右脛の痣も、もうほとんどなくなった。
ユリウスがここに来るようになり、一体何日経つんだろう。
こんな生活を続けていると、時が過ぎていく感覚が麻痺してくる。
確実に年を重ねているはずなのに、毎日何も変わらない。
変わっているのかもしれないが、一体何と比較して変わっているのか、比較するものすら何もない。
窓の外はどしゃぶりだ。
こんな憂鬱な気持ちになるのは雨のせいだ。
それでも、こんなどしゃぶりの日はざまあみろと想う。
俺以外もみんな、きっと家の中に閉じ込められているだろうから。
積み重なった本を読む気も、ちらばった部品で何かを作る気にも、今日はなれない。
ただ降り続く雨を眺めるだけだ。
何にもしないで、こうしていても誰からも何も咎められることはない。
部屋の隅に控えるユリウスは、いつもように控えるだけ。
自分から何か話し掛けてくるようなことはない。
可哀想な王子を演じることにも失敗したし、外に出たいと言っても、できかねますと、それで終わり。
ある意味ルドルフよりもずっと手強かった。
「なあ、なんで護衛なんか引き受けたんだ?」
外をぼんやり眺めたままユリウスに尋ねる。
「それは…」
上司のルドルフに頼まれたから断れなかったんだろう。
そんなこと俺に言える訳ないか。
自分で尋ねておきながら、少し凹む。
ユリウスは言い淀んだままだ。
「海。」
「…?」
「お前、海をみたことがあるか?」
「…海、ですか?」
「うん。海。」
「ええ。実家は山に囲まれていますが、少し行けば海がありましたので。」
え、本当に?羨ましい。思わずユリウスを振り返る。
ユリウスはいつどんなときでも、しゃんとしたまま姿勢を崩すことはない。
黒みがかった茶色の短髪に、茶色の瞳、切長で一重の目はすっとしている。
よくよく見れば、端正な顔立ちかもしれない。
「俺も行きたい。見てみたい。なあ、だめ?」
少しだけ、猫撫で声で頼んでみる。
「それは、できかねます。」
「ちっ」
結局全然だめだ。
「ルドルフはもう少しっていつも言っていたけど、本当にいつかここを出て、海を見られると思うか?」
「…きっと見ることができます。必ず。」
そうは言われても、そんな気全然しないけどな。
することもないので、その日はずっと雨を見て過ごした。
「よし!今日は中庭に行こう!」
久しぶりの晴れだ。
右脛もすっかり元通り。
ここのところずっと部屋にばかりいたので、外に出たくて堪らない。
ユリウスも了承してくれた。
身体を動かしたくてうずうずする。
バルコニーに出て待ち構えると、すでに何人かの母様たちが中庭でお茶会を開いているようだ。
俺に気がつき、皆んな手を振っている。
「ノア様、どうかごゆっくり!」
先に中庭におりたユリウスがバルコニーに白梯子を立てかけてくれたので、急いで降りようとして嗜められた。
あの扉からは出られない。
唯一出られる中庭も、こうしてバルコニーに梯子を立てかけてもらえないとおりることができない。
徹底されているのだ。
ユリウスは心配そうに見上げているが、もう何年もこうしてきたんだから、俺にとっては慣れたものだ。
なんなく降り立った中庭では、四人の母様たちが和やかにお茶を楽しんでいる。
穏やかな日差しの元、それぞれが思い思いに色鮮やかな衣裳を纏って華やかな雰囲気だ。
最近鬱鬱としていたせいか、段々と気も晴れてくる。
「久しぶりだのう、ノア。」
「ノアもこちらへいらっしゃい。」
「髪が伸びてきたわね。」
「変わった菓子があるぞ。」
四人が一斉に話し掛けてくる。
「他の母様たちは?」
「陛下のお渡りがあってな、皆寝込んでおるわ。」
答えてくれたのは、正妃の一妃だ。
「父さんが来ると、なんでみんな寝込んでしまうんだ?」
「やあね、ノアはまだ知らなくてもいいことよ。ふふふ。」
少し頬をそめて答えてくれたのは、ニ妃。
三妃と四妃は間に座れと、ユリウスに椅子を用意させている。
「母さんは?」
「またいつもの所であろう。」
「そうかあ、会いたかったのにな。」
なかなか母さんには会えない。とても忙しい人らしい。
母さんは俺の産みの母親で、それ以外の母様たちはルドルフが護衛兼世話役になるまで、代わる代わる俺を育ててくれた育ての母親だ。
母様と呼べと言われたのが、いつ誰にだったのか思い出せないけど、もうずっとみんなのことを母様と呼んでいる。
ユリウスがここに来るようになり、一体何日経つんだろう。
こんな生活を続けていると、時が過ぎていく感覚が麻痺してくる。
確実に年を重ねているはずなのに、毎日何も変わらない。
変わっているのかもしれないが、一体何と比較して変わっているのか、比較するものすら何もない。
窓の外はどしゃぶりだ。
こんな憂鬱な気持ちになるのは雨のせいだ。
それでも、こんなどしゃぶりの日はざまあみろと想う。
俺以外もみんな、きっと家の中に閉じ込められているだろうから。
積み重なった本を読む気も、ちらばった部品で何かを作る気にも、今日はなれない。
ただ降り続く雨を眺めるだけだ。
何にもしないで、こうしていても誰からも何も咎められることはない。
部屋の隅に控えるユリウスは、いつもように控えるだけ。
自分から何か話し掛けてくるようなことはない。
可哀想な王子を演じることにも失敗したし、外に出たいと言っても、できかねますと、それで終わり。
ある意味ルドルフよりもずっと手強かった。
「なあ、なんで護衛なんか引き受けたんだ?」
外をぼんやり眺めたままユリウスに尋ねる。
「それは…」
上司のルドルフに頼まれたから断れなかったんだろう。
そんなこと俺に言える訳ないか。
自分で尋ねておきながら、少し凹む。
ユリウスは言い淀んだままだ。
「海。」
「…?」
「お前、海をみたことがあるか?」
「…海、ですか?」
「うん。海。」
「ええ。実家は山に囲まれていますが、少し行けば海がありましたので。」
え、本当に?羨ましい。思わずユリウスを振り返る。
ユリウスはいつどんなときでも、しゃんとしたまま姿勢を崩すことはない。
黒みがかった茶色の短髪に、茶色の瞳、切長で一重の目はすっとしている。
よくよく見れば、端正な顔立ちかもしれない。
「俺も行きたい。見てみたい。なあ、だめ?」
少しだけ、猫撫で声で頼んでみる。
「それは、できかねます。」
「ちっ」
結局全然だめだ。
「ルドルフはもう少しっていつも言っていたけど、本当にいつかここを出て、海を見られると思うか?」
「…きっと見ることができます。必ず。」
そうは言われても、そんな気全然しないけどな。
することもないので、その日はずっと雨を見て過ごした。
「よし!今日は中庭に行こう!」
久しぶりの晴れだ。
右脛もすっかり元通り。
ここのところずっと部屋にばかりいたので、外に出たくて堪らない。
ユリウスも了承してくれた。
身体を動かしたくてうずうずする。
バルコニーに出て待ち構えると、すでに何人かの母様たちが中庭でお茶会を開いているようだ。
俺に気がつき、皆んな手を振っている。
「ノア様、どうかごゆっくり!」
先に中庭におりたユリウスがバルコニーに白梯子を立てかけてくれたので、急いで降りようとして嗜められた。
あの扉からは出られない。
唯一出られる中庭も、こうしてバルコニーに梯子を立てかけてもらえないとおりることができない。
徹底されているのだ。
ユリウスは心配そうに見上げているが、もう何年もこうしてきたんだから、俺にとっては慣れたものだ。
なんなく降り立った中庭では、四人の母様たちが和やかにお茶を楽しんでいる。
穏やかな日差しの元、それぞれが思い思いに色鮮やかな衣裳を纏って華やかな雰囲気だ。
最近鬱鬱としていたせいか、段々と気も晴れてくる。
「久しぶりだのう、ノア。」
「ノアもこちらへいらっしゃい。」
「髪が伸びてきたわね。」
「変わった菓子があるぞ。」
四人が一斉に話し掛けてくる。
「他の母様たちは?」
「陛下のお渡りがあってな、皆寝込んでおるわ。」
答えてくれたのは、正妃の一妃だ。
「父さんが来ると、なんでみんな寝込んでしまうんだ?」
「やあね、ノアはまだ知らなくてもいいことよ。ふふふ。」
少し頬をそめて答えてくれたのは、ニ妃。
三妃と四妃は間に座れと、ユリウスに椅子を用意させている。
「母さんは?」
「またいつもの所であろう。」
「そうかあ、会いたかったのにな。」
なかなか母さんには会えない。とても忙しい人らしい。
母さんは俺の産みの母親で、それ以外の母様たちはルドルフが護衛兼世話役になるまで、代わる代わる俺を育ててくれた育ての母親だ。
母様と呼べと言われたのが、いつ誰にだったのか思い出せないけど、もうずっとみんなのことを母様と呼んでいる。
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□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
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