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新しい護衛
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いつもなら2個で十分だけど、今日は腹ペコだったからな、もう一ついけそうだ。
苺ジャムは、たっぷり塗るに限る。
なんでルドルフは嫌がったんだろう?
「…ノア様、お顔にジャムが。」
たっぷりジャムを塗った3個目のパンを堪能していると、ユリウスに指摘された。
「…ん?ここ?とれた?」
「いえ。もっと右です。」
「右?…とれた?」
「いえ。もっと下です。」
「下?…とれた?」
「いえ。もう少し…」
めんどくさっ!わかんねえし。
「いいからもう、ん!」
お前が拭いてくれと、顔を突き出す。
「……」
「早く拭いてくれよ。」
「……では、失礼します。」
ユリウスが自分のナプキンでそっと拭いてくれる。
ああ、そこについていたのか。
「とれた?」
「はい。」
「なんだかお腹が満たされてきたな。お前、残り全部食べられる?」
「ええ。」
「俺はもう腹いっぱいだから。後は食べていいぞ。」
「かしこまりました。」
まだずいぶん残っているが、ユリウスは食べられるだろうか?
毎回結構な量が用意されるので、ルドルフでさえ食べきれない時があった。
ルドルフより線の細いユリウスは全部食べ切るなんてできないだろうな。
膨れたお腹を抱えながら、ユリウスを観察する。
食事の席でも背筋はぴんと伸び、所作の一つ一つに隙がない。
俺みたいに口元を汚すことなく、すいすいと綺麗に口に入れていく。
へえ、これは意外かも…
食べ終わった皿の一枚一枚も綺麗なものだ。
つい見惚れている間に、ユリウスは全て綺麗に平げてしまった。
「お前、すごいな…。全部食べたのか。」
「何もすごいことなんてございません。片付けて参りますので、ノア様は少しお休み下さい。」
さっと立ち上がり、ぱぱっと片付けてしまうとユリウスは部屋を出て行った。
さっきは腹が減りすぎて気がつかなかったが、あの重い扉をユリウスは片手でなんなく開いてしまう。
「…いや、ほんとにすごいぞ、ユリウス。」
平凡だなんて思ってごめんな。
俺は少しだけユリウスを見直した。
戻って来ると、薬を塗り直すから脚を出せと言う。
実際はもっと丁寧な言葉使いだ。
今日はちゃんとズボンを履いているから、捲り上げるのが面倒くさい。
なんで今日にかぎってズボンなんか履いているだよ、俺!
…あ、可哀想な王子を演じるんだった。
お腹が空きすぎたせいで、すっかり忘れていた。
もたもたしていると、ユリウスが丁寧に捲り上げてくれる。
「ノア様、触れることをお許し下さい。今から薬を。」
右脛は毒々しい赤紫色に変色している。ちょっと腫れただけだと思っていたのに、なんだか痛々しい。
一度綺麗に拭いて、それから薬を塗り直してくれるユリウスの手は、少し冷んやりとして気持ちがいい。
「なあ。」
「どうかなさいましたか?」
一度薬を塗る手を止め、ユリウスが顔を上げる。
「毎回さ、いちいち、いいから。」
「……それは、どう言った意味でしょう。」
「いちいちさ、俺に触れるたびに、許可をとろうとしたり、失礼しますとか、いいよ言わなくても。」
「そういう訳には…」
「俺がいいって言ってるんだから、いいじゃないか。どうせ二人しかいないんだし。」
「ですが…」
毎回毎回、めんど臭いじゃないか。
いいですか?いいよ!なんて。
さっきだって、顔が汚れていたんなら、さっと拭いてくれればいいのに。
嫌なら嫌って言うし。俺が嫌っていうことは、多分ないだろう。
ルドルフがいつの間にか合格としていた、唯一の護衛だ。
これからはほとんどの時間を、俺とユリウスの二人で過ごすことになるんだぞ。
「触れていいのはユリウスだけだ。これから先触れる分も、全部今のうちに許しとく。」
一瞬だけ、ユリウスがなんとも言えない複雑な顔をして、すぐにまた薬を塗り始めた。
全く表情を崩さないユリウスだが、崩した所でそれでも何を考えているのか全くわからない。
「…ノア様。」
顔を伏せたまま薬をぬりぬりしながら、ユリウスが呼びかけてくる。
「ん?」
「…そのようなことを、安易に仰ってはなりません。」
「なんで?」
「なんでもです。」
「ユリウスにしか言わないぞ。」
だって俺の護衛は、この先ユリウスだけだ。
「………承知しました。その時がくるまで、決して誰にも触れさせはしません。」
その時?
ユリウスの言葉には強い決意みたいなものを感じたが、気のせいか?
「…痛っ!」
薬を塗る手にぐっと力が込められる。
「おい、痛いじゃないか!」
「申し訳ありません。つい。」
つい?ついって、なんだ!
ユリウスは顔を伏せたままだから、一体今どんな顔をしているのか、俺には全くわからない。
苺ジャムは、たっぷり塗るに限る。
なんでルドルフは嫌がったんだろう?
「…ノア様、お顔にジャムが。」
たっぷりジャムを塗った3個目のパンを堪能していると、ユリウスに指摘された。
「…ん?ここ?とれた?」
「いえ。もっと右です。」
「右?…とれた?」
「いえ。もっと下です。」
「下?…とれた?」
「いえ。もう少し…」
めんどくさっ!わかんねえし。
「いいからもう、ん!」
お前が拭いてくれと、顔を突き出す。
「……」
「早く拭いてくれよ。」
「……では、失礼します。」
ユリウスが自分のナプキンでそっと拭いてくれる。
ああ、そこについていたのか。
「とれた?」
「はい。」
「なんだかお腹が満たされてきたな。お前、残り全部食べられる?」
「ええ。」
「俺はもう腹いっぱいだから。後は食べていいぞ。」
「かしこまりました。」
まだずいぶん残っているが、ユリウスは食べられるだろうか?
毎回結構な量が用意されるので、ルドルフでさえ食べきれない時があった。
ルドルフより線の細いユリウスは全部食べ切るなんてできないだろうな。
膨れたお腹を抱えながら、ユリウスを観察する。
食事の席でも背筋はぴんと伸び、所作の一つ一つに隙がない。
俺みたいに口元を汚すことなく、すいすいと綺麗に口に入れていく。
へえ、これは意外かも…
食べ終わった皿の一枚一枚も綺麗なものだ。
つい見惚れている間に、ユリウスは全て綺麗に平げてしまった。
「お前、すごいな…。全部食べたのか。」
「何もすごいことなんてございません。片付けて参りますので、ノア様は少しお休み下さい。」
さっと立ち上がり、ぱぱっと片付けてしまうとユリウスは部屋を出て行った。
さっきは腹が減りすぎて気がつかなかったが、あの重い扉をユリウスは片手でなんなく開いてしまう。
「…いや、ほんとにすごいぞ、ユリウス。」
平凡だなんて思ってごめんな。
俺は少しだけユリウスを見直した。
戻って来ると、薬を塗り直すから脚を出せと言う。
実際はもっと丁寧な言葉使いだ。
今日はちゃんとズボンを履いているから、捲り上げるのが面倒くさい。
なんで今日にかぎってズボンなんか履いているだよ、俺!
…あ、可哀想な王子を演じるんだった。
お腹が空きすぎたせいで、すっかり忘れていた。
もたもたしていると、ユリウスが丁寧に捲り上げてくれる。
「ノア様、触れることをお許し下さい。今から薬を。」
右脛は毒々しい赤紫色に変色している。ちょっと腫れただけだと思っていたのに、なんだか痛々しい。
一度綺麗に拭いて、それから薬を塗り直してくれるユリウスの手は、少し冷んやりとして気持ちがいい。
「なあ。」
「どうかなさいましたか?」
一度薬を塗る手を止め、ユリウスが顔を上げる。
「毎回さ、いちいち、いいから。」
「……それは、どう言った意味でしょう。」
「いちいちさ、俺に触れるたびに、許可をとろうとしたり、失礼しますとか、いいよ言わなくても。」
「そういう訳には…」
「俺がいいって言ってるんだから、いいじゃないか。どうせ二人しかいないんだし。」
「ですが…」
毎回毎回、めんど臭いじゃないか。
いいですか?いいよ!なんて。
さっきだって、顔が汚れていたんなら、さっと拭いてくれればいいのに。
嫌なら嫌って言うし。俺が嫌っていうことは、多分ないだろう。
ルドルフがいつの間にか合格としていた、唯一の護衛だ。
これからはほとんどの時間を、俺とユリウスの二人で過ごすことになるんだぞ。
「触れていいのはユリウスだけだ。これから先触れる分も、全部今のうちに許しとく。」
一瞬だけ、ユリウスがなんとも言えない複雑な顔をして、すぐにまた薬を塗り始めた。
全く表情を崩さないユリウスだが、崩した所でそれでも何を考えているのか全くわからない。
「…ノア様。」
顔を伏せたまま薬をぬりぬりしながら、ユリウスが呼びかけてくる。
「ん?」
「…そのようなことを、安易に仰ってはなりません。」
「なんで?」
「なんでもです。」
「ユリウスにしか言わないぞ。」
だって俺の護衛は、この先ユリウスだけだ。
「………承知しました。その時がくるまで、決して誰にも触れさせはしません。」
その時?
ユリウスの言葉には強い決意みたいなものを感じたが、気のせいか?
「…痛っ!」
薬を塗る手にぐっと力が込められる。
「おい、痛いじゃないか!」
「申し訳ありません。つい。」
つい?ついって、なんだ!
ユリウスは顔を伏せたままだから、一体今どんな顔をしているのか、俺には全くわからない。
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