秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
19 / 102
剣術大会

18

しおりを挟む
ガンッ

振り下ろされた剣を受ける音が響き渡った。

さっきまで響いていた、カン、カンと剣同士がぶつかり合う音とは違う。

鈍くて重い音の振動が、観客席まで伝わってくる。

息つく間もなく、剣は振り下ろされる。

ガンッ、ガンッ、ガツン…

身体の大きさは見掛け倒しではないようだ。その剣には、相当な力が込められているはずだ。

…あんなん、受けるだけでも精一杯だろ。

受ける側のユリウスが、少しずつ後退して行く。

少しでも受け切ることができなければ、大怪我どころじゃ済まされない。

やり過ぎじゃないか…

たかが大会で死者が出たらどうするんだよ…

一際大きく剣が振り翳された。

ひっ、観客席の至る所から息を飲む声があがる。

もういい!ユリウス、降参だ、降参って言え!

ぶわっと剣が振り下ろされる。今までで一番速くて、きっと一番重い。

ゴツッ

ユリウス!!!



…え?



一本の剣がくるくると円を描いて宙に舞い上がり、それからすとんと落ちてきた。

落ちてきた剣の横に倒れ込んでいるのは、剣を振り翳していた方の騎士で、その喉元には剣の切先が向けられている。

ユリウスは表情一つ変えず、息一つ乱れていない。

一瞬の静寂の後、今日一番の歓声が沸き起こった。

歓声なんて聞こえていないのか、ユリウスは呆然として立ち上がれない騎士に手を差し伸べ、やっと起き上がった相手に落ちていた剣を拾って渡している。

「ユリウス、ツヨイネ。」

「相変わらずの腕だな。」

「ちょっとだけ、どきどきしちゃったわ~」

「強いある!」

「まだまだ序の口であろう。」

前に座る妃たちが口々に何か言っているが、ユリウスに釘付けで、全く耳に入ってこない。

勝った!?

あの鬼、いや大きな騎士に?

いつも観ていたユリウスとは比べ物にならない。何倍も、何倍も凄かった。

王族席に向かってユリウスが一礼している。

ああ、このベール邪魔だな。これがなかったら、もっとはっきり観えたのに!

「ダメ。シー、ダヨ。ガマン。」

俺の気持ちを見透かしているのか、五妃から肩越しに嗜められる。

仕方ないので、ユリウスに向かって小さく拳を作って、やったな!という気持ちを伝えてみるが、俺がここにいるなんてわからないだろう。

静かに顔を上げたユリウスと一瞬だけ目が合ったような気がする。俺の拳は握りしめたままだ。

ベールがあるから目が合ったような気がするのは、気がするだけで気のせいで、少し淋しい。ユリウスはそのまま背を向けると、控え席の方に行ってしまった。

本当にあんな相手に勝ったんだな。

まだ初戦だと言うのに、俺の興奮はおさまらないままで、そんな中二戦目、三戦目は、一瞬で終わってしまった。

始めの合図と共に、ユリウスの操る剣はあっという間に相手の首筋や心臓目掛けて寸止めされる。これが実戦だったら、相手は一瞬であの世行きだっただろう。

なぜか始まる前から向かい合っている時点で、相手は怯んでいるように見えた。

なんでだ?

「強い相手ほど、ユリウスと真正面から向き合うのが恐ろしいと言います。今回も健在ですな。」

ルドルフが王に話し掛ける声が聞こえてきて、思わず耳を澄ましてしまう。

そうなの?真正面…。

いつも真正面から向き合っているけど、俺は何も感じないぞ。

それは俺が弱いからなのか……

「そのようだな。また優勝するようなことがあれば、今回はどうするのか。またルドルフか?」

王の言葉に、妃たちがくすくすと笑っている。

「いや、それは…」

ルドルフが眉を顰めて困惑している。

「一年経ったからの。他に相手ができたやもしれん。嫉妬するか、ルドルフ?」

一妃も可笑しそうに笑っている。

何の話しだ?

ルドルフは、大きく溜め息をついた。

「ユリウスは何か勘違いしているようです。いつかユリウスにそう言った相手ができるまで代わりに保管しておくしかないでしょう。」

「なんと言っても、ユリウスはああ見えてまだ…」

「シュヴァイゼル様!」

まだ?王、父さんは何を言おうとしたんだろ?

王の揶揄うような物言いに、ルドルフが少し怒っているようだ。

みんなして何の話しをしているのか俺にはさっぱりだが、そろそろ次は四戦目だ。

次の相手は確か…

きょろきょろとしていると、黄色い声援を浴び続けていた金髪の青年が一妃の前までやってきた。この騎士もまだ勝ち続けている。

どこかで観たことがあるような、と思っていたが、向かい合う二人はよく似ている。

「母上、如何ですか?わたしには無理だと仰っしゃられていましたが、ここまで勝ち抜きました。」

「ふん。次はユリウスじゃ。」

「ユリウスとて、負ける気はしません。ユリウスを跪かせるのは私です。」

「それは、どうかの。」

「父上も、どうかわたしの実力をご覧になっていて下さい。」

不敵に笑って去るその姿は、なんかこう、気障だ。

金髪で一妃に似た彫の深い彫刻みたいな顔立ちをしているあれは、父上母上と言っていた。

つまりは、第一王子だ。

んでもって、俺の兄さん?

初めての対面になるが、向こうは俺のことなど全く目に入っていないようだった。

それもそうか。こんな格好だし。

なんか兄さんとか呼んだら怒られそうな気がするし、呼んでやらない。

ユリウスを跪かせるとか言う奴は、仮に兄さんだとしても、とっても気に入らないからな。




















しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!

山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?  春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。 「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」  ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。 「理由を、うかがっても?」 「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」  隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。 「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」  その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。 「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」  彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。 ◇ ◇ ◇  目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。 『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』 「……は?」「……え?」  凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。 『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。  アーノルド「モルデ、お前を愛している」  モルデ「ボクもお慕いしています」』 「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」  空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。 『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』  ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。 「……モルデ、お前を……愛している」 「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」  顔を寄せた瞬間――ピコンッ! 『ミッション達成♡ おめでとうございます!』  テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。 「……なんか負けた気がする」「……同感です」  モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。 『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』  王子は頭を抱えて叫ぶ。 「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」  天井スピーカーから甘い声が響いた。 『次のミッション、準備中です♡』  こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...