秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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母さんと母様

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「この国にはね、稀にと呼ばれ、異世界から迷い込んでくる人がいるの。ノアも知っているでしょう。

偶然その渡り人を発見したのが、第一王子とユリウスだったの。

その渡り人がね、今回は少し特殊だったのよ。ノアからしたらなんてことないでしょうけど、黒髪で黒眼はとても珍しいの。

発見した第一王子は、あっという間にマホと言うその子に心奪われてしまったのね。

確かに、可愛らしいと思うわ。それに、本人もそれを分かっていて、上手く立ち回っている風に、わたしには見えるの。

第一王子だけじゃない、今じゃ、第二、第三の王子たちまで虜になってしまった。

マホは、やり手よ。

誰に対しても上手く気を引きつつ、相手が深く踏み込もうとすると、すっと引くの。

思い通りにならないあの子を手に入れようと、皆んな必死になっているわ。

目立ったところでは王子たちだけが虜になっているように見えるけど、実際は護衛についた騎士たちの中にもそういった傾向が顕著になってきてるわね。

王子たちには、それぞれ婚約者がいるわ。

それなのに、すでにないがしろにし始めている。

ナターシャ様も、二妃や三妃も、その対応に追われているのに、陛下は何も仰らないの。

陛下が何も仰らないし、マホの周りにはいつも三人の王子の中の誰かがいるから、マホは好き放題よ。

誰もナターシャ様の言葉など、聞く耳も持たない。

嘆かわしいことね。

他に留学している王子や、今のところ関わりを持たない王子たちも、いつそうなるかもしれないと思うと、わたしたちは気が気でないのよ。」


冷めた紅茶を飲み干し、七妃はふうと一息ついた。


「それにね、マホには不思議な力があるの。手をかざすと、少しだけきらきらと光がほと走って、ちょっとしたかすり傷なんかは消えてしまう。

本人は自分のことを、きっと聖女だ、なんて言うけど、実際は聖女なんていないのよ。でもね、城内の誰もがそれを信じてしまったものだから、なおさらマホは大事にされてしまう。

そんなマホが一番慕う相手は誰だと思う?」


すっかり聴き入っていた俺に、突然七妃が問いかけてくる。

ユリウスを、ユーリと呼んでいた、あいつ。

「…ユリウスなのか?」


「そうよ。ユリウスよ。マホは、なぜだかユリウスにだけ、ひどく執着しているの。向こうの世界で愛し合っていた恋人だと言っているわ。

よほど似ているのかしらね。ユリウスがいないと何も食べようとしないし、護衛もユリウスじゃなきゃ嫌だって、ユリウスユリウス煩いぐらいよ。

でもね、ユリウスだけは驚くほど冷静だわ。みんな虜になるマホから、あれだけ好意を寄せられているのに、全く動じないし、むしろ素っ気ないぐらいよ。

マホが煩いから、王子たちは仕方なくユリウスを呼び出すのだけど、マホへの対応が悪いと当たられて、ユリウスが気の毒だわ。

マホを手に入れるにはユリウスが邪魔で、でもユリウスがいないとマホは機嫌が悪いから、ユリウスが呼ばれる。機嫌が良くなってユリウスにまとわりつくマホを見て、嫉妬してユリウスに当たる。

王子たちのユリウスへの対応は見ていられないぐらいよ。

城内の秩序が乱れているのに、なぜ陛下は何も仰らないのかしら。

ねえ、ルドルフ、その理由を知っている?」


ルドルフが首を振ると、四人の妃たちは、はあと大きく溜め息をついた。

「ここに、こんなに綺麗な黒髪をしたノアちゃんがいるのにねえ。」

「そうある!ノアがいれば、マホなんて!」

「わたしも、そう思うわ。」

「ほんとね。」

これは、本当に由々しき問題だ。

聖女とか、きらきらとかは、少しだけ気になるけど、それどころじゃない。

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