秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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母さんと母様

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「これは、由々しき問題ある!わたしは、認めないある!」

赤茶の髪を二つお団子にした六妃が、ばんっと両手でテーブルを叩いて立ち上がった。

反動でテーブルはぐらぐらとし、並べられた茶器の紅茶は波打っている。

今日はお菓子も少ないし、テーブルの上は華やかさに欠ける。

「落ち着きなさい。わたしたちにどうこうできる問題ではないわ。」

いつもクールな七妃さえ、少しだけピリピリとしているように見える。

「ニイナが戻るのを待ちましょう。」

眼鏡の八妃は何やら思案している風だ。

「どうしましょうねえ。困ったわねえ。」

額に浮かぶ汗を拭きながら、ふっくらとした九妃はいつも和かな顔を少しだけ曇らせている。

久しぶりに参加した中庭のお茶会は、どこかいつもと様子が違っていた。

その理由は分からないけど、俺だって苛ついている。

「俺だって!」

六妃に負けじと、紅茶は溢さないよう気をつけながらばばんっと立ち上がると、四人の妃たちの視線は一斉に俺に集中した。

「俺だって、認めないから!」

「…ノアは、何を認めないある?」

六妃がきょとんとした顔で見つめてくる。

「ユリウスが違う仕事を任されていること!ユリウスは俺の(護衛)なのに!」

振り返った先で見守っているのは、ルドルフだ。苦笑いしている。

「ノアもあるか!」

「こっちもなのね。」

「な…」

「まあ、ノアちゃんも。」

四人は一斉に溜め息を吐いた。

「何だよ、その反応。…も、って、何だよ。」

最近は他にも任されている仕事があるとかで、ユリウスがちょいちょい不在になる時間が増えている。

他の仕事って何なんだ。

「ノアもユリウスあるか…。」

だから、も、って…

「ユリウスには、黒髪の子を惹きつける何かがあるのかしら。」

「これもニイナに聞かないと。」

「ノアちゃんも、ユリウスのことなのねえ。」

「…は?な、ぐほっ、げほっ」

呑気に話す九妃の台詞に、飲んでいた紅茶が変なところに入ってむせてしまう。

後ろでは、ルドルフが何やら一つ変な声を上げた。

あらあらと背中をさすってくれる九妃の手は、ほにょっとしていて柔らかい。

「これはこれで、由々しき問題あるよ。」

「何言ってるのよ。ノアの好きは、あの子の好きとは違うでしょう。ねえ、ノア?」

あの子?

違う好き?

好きって、そんなに種類があるのか?

「ノアには、まだ分からないようよ。」

「あら、そうなのね。ごめんなさいね。先走ってしまったわねえ。」

申し訳なさそうに、九妃はまだ背中をさすってくれている。

…黒髪の子と、確かに七妃はそう言った。

俺の他に黒髪の子と言われて思いついたのは、あの時のあいつしかいない。

他の仕事なんかじゃなさそうだ。ユリウスが今一緒にいるのは…

「どういうことだよ、ルドルフ!答えろ!」

「ルドルフ、ノアに何も言っていないあるか?」

「それは…」

「別に秘密にするような話しではないでしょう。王宮内で知らない者はいないわ。ユリウスはノアの護衛なのだから、ノアにも知る権利はあるのよ。」

言い淀むルドルフに代わり、七妃は現在進行形で起こっている王宮内の混乱について教えてくれた。








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