29 / 102
母さんと母様
28
しおりを挟む
「この国にはね、稀に渡り人と呼ばれ、異世界から迷い込んでくる人がいるの。ノアも知っているでしょう。
偶然その渡り人を発見したのが、第一王子とユリウスだったの。
その渡り人がね、今回は少し特殊だったのよ。ノアからしたらなんてことないでしょうけど、黒髪で黒眼はとても珍しいの。
発見した第一王子は、あっという間にマホと言うその子に心奪われてしまったのね。
確かに、可愛らしいと思うわ。それに、本人もそれを分かっていて、上手く立ち回っている風に、わたしには見えるの。
第一王子だけじゃない、今じゃ、第二、第三の王子たちまで虜になってしまった。
マホは、やり手よ。
誰に対しても上手く気を引きつつ、相手が深く踏み込もうとすると、すっと引くの。
思い通りにならないあの子を手に入れようと、皆んな必死になっているわ。
目立ったところでは王子たちだけが虜になっているように見えるけど、実際は護衛についた騎士たちの中にもそういった傾向が顕著になってきてるわね。
王子たちには、それぞれ婚約者がいるわ。
それなのに、すでにないがしろにし始めている。
ナターシャ様も、二妃や三妃も、その対応に追われているのに、陛下は何も仰らないの。
陛下が何も仰らないし、マホの周りにはいつも三人の王子の中の誰かがいるから、マホは好き放題よ。
誰もナターシャ様の言葉など、聞く耳も持たない。
嘆かわしいことね。
他に留学している王子や、今のところ関わりを持たない王子たちも、いつそうなるかもしれないと思うと、わたしたちは気が気でないのよ。」
冷めた紅茶を飲み干し、七妃はふうと一息ついた。
「それにね、マホには不思議な力があるの。手をかざすと、少しだけきらきらと光がほと走って、ちょっとしたかすり傷なんかは消えてしまう。
本人は自分のことを、きっと聖女だ、なんて言うけど、実際は聖女なんていないのよ。でもね、城内の誰もがそれを信じてしまったものだから、なおさらマホは大事にされてしまう。
そんなマホが一番慕う相手は誰だと思う?」
すっかり聴き入っていた俺に、突然七妃が問いかけてくる。
ユリウスを、ユーリと呼んでいた、あいつ。
「…ユリウスなのか?」
「そうよ。ユリウスよ。マホは、なぜだかユリウスにだけ、ひどく執着しているの。向こうの世界で愛し合っていた恋人だと言っているわ。
よほど似ているのかしらね。ユリウスがいないと何も食べようとしないし、護衛もユリウスじゃなきゃ嫌だって、ユリウスユリウス煩いぐらいよ。
でもね、ユリウスだけは驚くほど冷静だわ。みんな虜になるマホから、あれだけ好意を寄せられているのに、全く動じないし、むしろ素っ気ないぐらいよ。
マホが煩いから、王子たちは仕方なくユリウスを呼び出すのだけど、マホへの対応が悪いと当たられて、ユリウスが気の毒だわ。
マホを手に入れるにはユリウスが邪魔で、でもユリウスがいないとマホは機嫌が悪いから、ユリウスが呼ばれる。機嫌が良くなってユリウスにまとわりつくマホを見て、嫉妬してユリウスに当たる。
王子たちのユリウスへの対応は見ていられないぐらいよ。
城内の秩序が乱れているのに、なぜ陛下は何も仰らないのかしら。
ねえ、ルドルフ、その理由を知っている?」
ルドルフが首を振ると、四人の妃たちは、はあと大きく溜め息をついた。
「ここに、こんなに綺麗な黒髪をしたノアちゃんがいるのにねえ。」
「そうある!ノアがいれば、マホなんて!」
「わたしも、そう思うわ。」
「ほんとね。」
これは、本当に由々しき問題だ。
聖女とか、きらきらとかは、少しだけ気になるけど、それどころじゃない。
偶然その渡り人を発見したのが、第一王子とユリウスだったの。
その渡り人がね、今回は少し特殊だったのよ。ノアからしたらなんてことないでしょうけど、黒髪で黒眼はとても珍しいの。
発見した第一王子は、あっという間にマホと言うその子に心奪われてしまったのね。
確かに、可愛らしいと思うわ。それに、本人もそれを分かっていて、上手く立ち回っている風に、わたしには見えるの。
第一王子だけじゃない、今じゃ、第二、第三の王子たちまで虜になってしまった。
マホは、やり手よ。
誰に対しても上手く気を引きつつ、相手が深く踏み込もうとすると、すっと引くの。
思い通りにならないあの子を手に入れようと、皆んな必死になっているわ。
目立ったところでは王子たちだけが虜になっているように見えるけど、実際は護衛についた騎士たちの中にもそういった傾向が顕著になってきてるわね。
王子たちには、それぞれ婚約者がいるわ。
それなのに、すでにないがしろにし始めている。
ナターシャ様も、二妃や三妃も、その対応に追われているのに、陛下は何も仰らないの。
陛下が何も仰らないし、マホの周りにはいつも三人の王子の中の誰かがいるから、マホは好き放題よ。
誰もナターシャ様の言葉など、聞く耳も持たない。
嘆かわしいことね。
他に留学している王子や、今のところ関わりを持たない王子たちも、いつそうなるかもしれないと思うと、わたしたちは気が気でないのよ。」
冷めた紅茶を飲み干し、七妃はふうと一息ついた。
「それにね、マホには不思議な力があるの。手をかざすと、少しだけきらきらと光がほと走って、ちょっとしたかすり傷なんかは消えてしまう。
本人は自分のことを、きっと聖女だ、なんて言うけど、実際は聖女なんていないのよ。でもね、城内の誰もがそれを信じてしまったものだから、なおさらマホは大事にされてしまう。
そんなマホが一番慕う相手は誰だと思う?」
すっかり聴き入っていた俺に、突然七妃が問いかけてくる。
ユリウスを、ユーリと呼んでいた、あいつ。
「…ユリウスなのか?」
「そうよ。ユリウスよ。マホは、なぜだかユリウスにだけ、ひどく執着しているの。向こうの世界で愛し合っていた恋人だと言っているわ。
よほど似ているのかしらね。ユリウスがいないと何も食べようとしないし、護衛もユリウスじゃなきゃ嫌だって、ユリウスユリウス煩いぐらいよ。
でもね、ユリウスだけは驚くほど冷静だわ。みんな虜になるマホから、あれだけ好意を寄せられているのに、全く動じないし、むしろ素っ気ないぐらいよ。
マホが煩いから、王子たちは仕方なくユリウスを呼び出すのだけど、マホへの対応が悪いと当たられて、ユリウスが気の毒だわ。
マホを手に入れるにはユリウスが邪魔で、でもユリウスがいないとマホは機嫌が悪いから、ユリウスが呼ばれる。機嫌が良くなってユリウスにまとわりつくマホを見て、嫉妬してユリウスに当たる。
王子たちのユリウスへの対応は見ていられないぐらいよ。
城内の秩序が乱れているのに、なぜ陛下は何も仰らないのかしら。
ねえ、ルドルフ、その理由を知っている?」
ルドルフが首を振ると、四人の妃たちは、はあと大きく溜め息をついた。
「ここに、こんなに綺麗な黒髪をしたノアちゃんがいるのにねえ。」
「そうある!ノアがいれば、マホなんて!」
「わたしも、そう思うわ。」
「ほんとね。」
これは、本当に由々しき問題だ。
聖女とか、きらきらとかは、少しだけ気になるけど、それどころじゃない。
288
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる