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婚約者
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新しい環境での生活が始まった。
食事は基本兄さんたちと一緒だ。
ユリウスは相変わらず護衛としていてくれるが、以前より共に過ごす時間が減り、代わりに兄さんたちの誰かと過ごす時間が増えた。
ユリウスはそう、相変わらずだ。
あの晩、俺の婚約者になれと言ったのに、護衛と婚約者とでは共に過ごす意味が全く違うと取り合ってもくれなかった。むしろ以前より距離を取られるようになった気がする。
俺はただユリウスとずっと一緒にいたいだけだ。護衛のままいたら、父さんの一言で簡単に挿げ替えられてしまうかもしれない。婚約者になってそのまま婚姻してしまえば、ずっと一緒にいられる。
今ユリウスに婚約者はいないし、マホと婚約させられるぐらいなら、俺としたって構わないじゃないか。
「ノア、食欲がないのか?」
1番に言われて、首を振る。
「食事が合わないのでは?作り替えさせましょうか?」
「もう少し食べやすい物を用意させましよう。」
2番と3番の言葉にも首を振る。
食欲がない訳じゃない。少しずつちゃんと、食べている。
「…ユリウス、ノアはどんな物を好むんだ?」
1番の問いに、控えているユリウスの方へと、兄さんたち全員の視線が注がれる。
「ノア様は召し上がっています。一度に沢山召し上がれないだけで、基本的には好き嫌いはございません。」
うんうん。作り替える必要もないし、美味しいし、何の問題もない。
いつもと変わらない食欲だ。
「…ただもう少しジャムを多めに…」
以前なら黙っていてもユリウスが塗ってくれた。
大袈裟なくらい多めにジャムをすくってパンにのせて齧り付く。口周りにはきっとジャムが付いたままだ。
ちらっとユリウスを見ると一度目が合う。
ふん。
「うわあ、ノアの口ジャムだらけだね。紅をさしているみたい。」
隣に座るのは歳が近い9番だ。渡されたナプキンでごしごしと口を拭くと、もう一度ユリウスに目をやる。
あの日からユリウスは俺に触れることを極力避けるようになってしまった。
汚れた口元を拭いてくれるなんて、もうしてくれない。俺だって子どもじゃないんだから、それぐらい自分でできるけど、あの時間が俺は好きだったんだ。
ユリウスは俺からの視線に気が付いている筈なのに、ただ黙って前を見据えるだけだ。
部屋の中でまだ見慣れない天井を眺めながら、物思いに耽る。
久しぶりにユリウスと二人だけだと言うのに、全く会話がない。
また抱きつかれることを警戒しているのか、ユリウスがとる二人の距離は遠い。
その内きっと兄さん達の内誰かが訪れてくるだろう。
兄さん達との関係は、今のところ良好だ。良好過ぎるくらいかもしれない。
王子同士の関係は、母様同士の関係性のように、1番を中心に上手くできあがっているように見える。
マホとのことがあったにも関わらず、1番は長兄として頼りにされている。
実際初対面の印象よりも、1番はずっと優しいし、頼り甲斐があった。
不安に思っていた気持ちとは裏腹に、すんなりとこの生活に溶け込めたのは、きっと1番のおかげだ。
ただ1番も他の王子たちも………なぜか異常に俺の世話を焼きだかる。
……父さんが増えたような気がするのは、気のせいだろうか?
やたらと髪を撫でられたり、幼い子どもみたいに膝上に乗せようとしたり…。
さすがに膝上はないだろう。
末っ子だからと皆んな言うが、今まで末っ子だった9番に聞いたら苦笑いされた。
確かに9番は九妃に似ていて、少しふくよかだし、俺よりずっと背が高いから膝上に乗せるのはきついだろう。
1番の膝上に9番が乗る姿を想像して、ぷっと吹き出してしまった。
急に笑い出したせいか、怪訝そうな顔したユリウスとやっと目が合う。
「決心がついたか?」
「…何の決心でしょうか?」
分かっているくせに…。
「俺の婚約者になる決心。」
「…ですから、何度も申し上げているように、ノア様は勘違いされているのです。護衛としてお側にいることと、婚約者として…」
「それは何度も聞いた。」
「でしたら…」
あの日から同じやり取りの繰り返しだ。
「…明日、父さんが決めた婚約者候補と会うことになった。」
「ええ、お聞きしております。きっと素晴らしいお方です。」
「ユリウスは、それでいいのか?その方がいいのか?」
何も言わず、ユリウスが小さく頷いた。
また身体の内側からじくじくと痛みが湧き出す。
「…俺は、ただずっとユリウスに隣にいて欲しいと、そう思ってる。お前はこの想いがただの勘違いだって言うのか?」
ユリウスは何も言わず俯いたままだ。
「お願いだから、側にいてくれ。お前がいないと……」
身体が自然と動き出し、気がつくとふらふらとユリウスの目の前まで来ていた。
俯くユリウスの顔を覗き込むように見上げると、どこか呆然としているその頬に手を触れる。
「…これは、罪なことなのか?許されないことなのか?」
一体何を言っているんだろう?
俺の意思なんて関係のない所で、身体が勝手に動き出して止められない。
ずっと静止したままだったユリウスの手がおずおずと俺の頬に触れる。
優しく触れられるその手に頬を寄せると、ゆっくりとユリウスの顔が近づいてくる。
あの日と同じ………
あの日初めて口付けを交わし、そしてその後俺たちは………
食事は基本兄さんたちと一緒だ。
ユリウスは相変わらず護衛としていてくれるが、以前より共に過ごす時間が減り、代わりに兄さんたちの誰かと過ごす時間が増えた。
ユリウスはそう、相変わらずだ。
あの晩、俺の婚約者になれと言ったのに、護衛と婚約者とでは共に過ごす意味が全く違うと取り合ってもくれなかった。むしろ以前より距離を取られるようになった気がする。
俺はただユリウスとずっと一緒にいたいだけだ。護衛のままいたら、父さんの一言で簡単に挿げ替えられてしまうかもしれない。婚約者になってそのまま婚姻してしまえば、ずっと一緒にいられる。
今ユリウスに婚約者はいないし、マホと婚約させられるぐらいなら、俺としたって構わないじゃないか。
「ノア、食欲がないのか?」
1番に言われて、首を振る。
「食事が合わないのでは?作り替えさせましょうか?」
「もう少し食べやすい物を用意させましよう。」
2番と3番の言葉にも首を振る。
食欲がない訳じゃない。少しずつちゃんと、食べている。
「…ユリウス、ノアはどんな物を好むんだ?」
1番の問いに、控えているユリウスの方へと、兄さんたち全員の視線が注がれる。
「ノア様は召し上がっています。一度に沢山召し上がれないだけで、基本的には好き嫌いはございません。」
うんうん。作り替える必要もないし、美味しいし、何の問題もない。
いつもと変わらない食欲だ。
「…ただもう少しジャムを多めに…」
以前なら黙っていてもユリウスが塗ってくれた。
大袈裟なくらい多めにジャムをすくってパンにのせて齧り付く。口周りにはきっとジャムが付いたままだ。
ちらっとユリウスを見ると一度目が合う。
ふん。
「うわあ、ノアの口ジャムだらけだね。紅をさしているみたい。」
隣に座るのは歳が近い9番だ。渡されたナプキンでごしごしと口を拭くと、もう一度ユリウスに目をやる。
あの日からユリウスは俺に触れることを極力避けるようになってしまった。
汚れた口元を拭いてくれるなんて、もうしてくれない。俺だって子どもじゃないんだから、それぐらい自分でできるけど、あの時間が俺は好きだったんだ。
ユリウスは俺からの視線に気が付いている筈なのに、ただ黙って前を見据えるだけだ。
部屋の中でまだ見慣れない天井を眺めながら、物思いに耽る。
久しぶりにユリウスと二人だけだと言うのに、全く会話がない。
また抱きつかれることを警戒しているのか、ユリウスがとる二人の距離は遠い。
その内きっと兄さん達の内誰かが訪れてくるだろう。
兄さん達との関係は、今のところ良好だ。良好過ぎるくらいかもしれない。
王子同士の関係は、母様同士の関係性のように、1番を中心に上手くできあがっているように見える。
マホとのことがあったにも関わらず、1番は長兄として頼りにされている。
実際初対面の印象よりも、1番はずっと優しいし、頼り甲斐があった。
不安に思っていた気持ちとは裏腹に、すんなりとこの生活に溶け込めたのは、きっと1番のおかげだ。
ただ1番も他の王子たちも………なぜか異常に俺の世話を焼きだかる。
……父さんが増えたような気がするのは、気のせいだろうか?
やたらと髪を撫でられたり、幼い子どもみたいに膝上に乗せようとしたり…。
さすがに膝上はないだろう。
末っ子だからと皆んな言うが、今まで末っ子だった9番に聞いたら苦笑いされた。
確かに9番は九妃に似ていて、少しふくよかだし、俺よりずっと背が高いから膝上に乗せるのはきついだろう。
1番の膝上に9番が乗る姿を想像して、ぷっと吹き出してしまった。
急に笑い出したせいか、怪訝そうな顔したユリウスとやっと目が合う。
「決心がついたか?」
「…何の決心でしょうか?」
分かっているくせに…。
「俺の婚約者になる決心。」
「…ですから、何度も申し上げているように、ノア様は勘違いされているのです。護衛としてお側にいることと、婚約者として…」
「それは何度も聞いた。」
「でしたら…」
あの日から同じやり取りの繰り返しだ。
「…明日、父さんが決めた婚約者候補と会うことになった。」
「ええ、お聞きしております。きっと素晴らしいお方です。」
「ユリウスは、それでいいのか?その方がいいのか?」
何も言わず、ユリウスが小さく頷いた。
また身体の内側からじくじくと痛みが湧き出す。
「…俺は、ただずっとユリウスに隣にいて欲しいと、そう思ってる。お前はこの想いがただの勘違いだって言うのか?」
ユリウスは何も言わず俯いたままだ。
「お願いだから、側にいてくれ。お前がいないと……」
身体が自然と動き出し、気がつくとふらふらとユリウスの目の前まで来ていた。
俯くユリウスの顔を覗き込むように見上げると、どこか呆然としているその頬に手を触れる。
「…これは、罪なことなのか?許されないことなのか?」
一体何を言っているんだろう?
俺の意思なんて関係のない所で、身体が勝手に動き出して止められない。
ずっと静止したままだったユリウスの手がおずおずと俺の頬に触れる。
優しく触れられるその手に頬を寄せると、ゆっくりとユリウスの顔が近づいてくる。
あの日と同じ………
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