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婚約者
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「ノア、いるか?入るぞ。」
がちゃりと扉が開くと同時に、ぐいっと両肩を押しやられ、はっとする。
「ユリウスもいたのか…お前たち、何してるんだ?」
入ってきたのは1番だ。
「……え、あ、ふえっ?」
俺ってば、一体何をしてたんだ?
「…シュヴァリエ様、少しの間ノア様をお任せしてもよろしいでしょうか。」
「ああ、構わないぞ。」
「…申し訳ございません。ノア様を…お願いします。」
兄さんに頭を下げると、ユリウスは一度も振り返らずにそのまま部屋を出て行ってしまった。
「…一体どうしたんだ?ノア、お前またユリウスに求愛でもしていたのか?」
どこか可笑しそうに笑いながら、兄さんはソファに腰を下ろしている。
…きゅ、キュウアイ?
「お前がユリウスに抱きついて婚約者になれと言ったことは、なかなか強烈な出来事だったからな。随分と思い慕っているんじゃないのか?」
…お、オモイシタウ?
つい今し方まで目の前にいたユリウスの香りが、どことなく漂っている。
兄さんが入って来なければ、今頃ユリウスと…?
唇と唇が触れ合うまでは、紙一枚ぐらいの後僅かな距離だった。
ぶわあっと、身体の奥から熱が込み上げてくる。
何かに取り憑かれたみたいに、身体が勝手に動いたんだ。
ユリウスと口付けをして、そのまま抱き合って、そして……
実際は何もしていない筈なのに、まるで実際に起きた出来事みたいに、その先のことまで俺は知っているみたいだ。
「う、うわああああ!!!」
いつもとは違う、熱を帯びた目で俺を見下ろすユリウスの姿が脳内に浮かび上がる。
「おい、急にどうした?」
突然大声を出した俺の姿に、兄さんがびくっと跳ね上がる。
俺ってば、どうかしている。一体何を想像してるんだ!?
ぶんぶんと頭を振ってその情景を掻き消そうにも、見慣れないユリウスの姿がより鮮明に浮かび上がるばかりだ。
「う、うわあああああ!!!!」
「ノア?」
「兄さん、俺、おかしくなったかもしれない……」
兄さんは落ち着けと言って、俺をソファに座らせると、ユリウスが用意してくれていたお茶を静かに注いでくれた。
一妃が好きなお茶の香りだ。
紅潮した頬が落ち着くまでゆっくりとお茶を飲み続け、3杯目に口をつけた頃合いで漸く平静を取り戻すことができた。
「落ち着いたか?」
うん。
隣りで優雅に茶を嗜んでいた兄さんが口を開く。
「お前を初めて目にした時、とても驚いたよ。言葉を失った。他の兄弟も皆息を呑んでいただろう。」
急に何を言い出すんだろう?
ん?と兄さんを覗き込むと、兄さんは笑って俺の髪を掬うように頭を撫でた。
「ただな、口を開くとこんなだろう?父上がお前を秘匿してきた意味が何となく分かるんだ。」
んんん?
「ユリウスを思い慕っているのか?」
今抱えているこの気持ちが、それに当てはまるのか正解は知らない。
それでも、ユリウスじゃなきゃ駄目なんだから、やっぱりきっとそうなんだ。
こくんと頷くと、兄さんも小さく頷いた。
「お前がユリウスを望むのなら反対はしないが、父上はそうではないようだ。シオンをお前の婚約者にと目論んでいるらしい。」
「…誰?」
「わたしの学友でもある。いい奴だが、少し変わった所もある。お前はずっとユリウスと居たのだろう?ある意味ユリウスしか知らない。一度他の者に会って、その想いに違いはないのか、確認してみるといい。」
「…違わない。」
「思い込みとは怖いものだ。」
そう言って目を伏せる兄さんの表情は複雑なものだ。
「………兄さんは、その、マホとは…」
「ふ、お前も知っていたのか?」
思わず口に出してしまったものの、余計なことを言ってしまったかもしれないと、少し反省した。
「そうだな。あの時、もっと冷静になれていたらと、後悔している。お前がわたしの弟だと知っていたら、あそこまでのめり込むことはなかっただろう。」
「…ごめん。」
「お前が謝ることではない。それより、一度ユリウス以外の者に目を向けてみろ。それでもユリウスがいいと言うなら、父上に助言してやる。」
「わかった。」
「あまり早まって、ユリウスを困らせるような求愛をするなよ。」
「…な!?」
おもわず立ち上がって兄さんを睨むと、兄さんは今度こそ声を出して笑い始めた。
がちゃりと扉が開くと同時に、ぐいっと両肩を押しやられ、はっとする。
「ユリウスもいたのか…お前たち、何してるんだ?」
入ってきたのは1番だ。
「……え、あ、ふえっ?」
俺ってば、一体何をしてたんだ?
「…シュヴァリエ様、少しの間ノア様をお任せしてもよろしいでしょうか。」
「ああ、構わないぞ。」
「…申し訳ございません。ノア様を…お願いします。」
兄さんに頭を下げると、ユリウスは一度も振り返らずにそのまま部屋を出て行ってしまった。
「…一体どうしたんだ?ノア、お前またユリウスに求愛でもしていたのか?」
どこか可笑しそうに笑いながら、兄さんはソファに腰を下ろしている。
…きゅ、キュウアイ?
「お前がユリウスに抱きついて婚約者になれと言ったことは、なかなか強烈な出来事だったからな。随分と思い慕っているんじゃないのか?」
…お、オモイシタウ?
つい今し方まで目の前にいたユリウスの香りが、どことなく漂っている。
兄さんが入って来なければ、今頃ユリウスと…?
唇と唇が触れ合うまでは、紙一枚ぐらいの後僅かな距離だった。
ぶわあっと、身体の奥から熱が込み上げてくる。
何かに取り憑かれたみたいに、身体が勝手に動いたんだ。
ユリウスと口付けをして、そのまま抱き合って、そして……
実際は何もしていない筈なのに、まるで実際に起きた出来事みたいに、その先のことまで俺は知っているみたいだ。
「う、うわああああ!!!」
いつもとは違う、熱を帯びた目で俺を見下ろすユリウスの姿が脳内に浮かび上がる。
「おい、急にどうした?」
突然大声を出した俺の姿に、兄さんがびくっと跳ね上がる。
俺ってば、どうかしている。一体何を想像してるんだ!?
ぶんぶんと頭を振ってその情景を掻き消そうにも、見慣れないユリウスの姿がより鮮明に浮かび上がるばかりだ。
「う、うわあああああ!!!!」
「ノア?」
「兄さん、俺、おかしくなったかもしれない……」
兄さんは落ち着けと言って、俺をソファに座らせると、ユリウスが用意してくれていたお茶を静かに注いでくれた。
一妃が好きなお茶の香りだ。
紅潮した頬が落ち着くまでゆっくりとお茶を飲み続け、3杯目に口をつけた頃合いで漸く平静を取り戻すことができた。
「落ち着いたか?」
うん。
隣りで優雅に茶を嗜んでいた兄さんが口を開く。
「お前を初めて目にした時、とても驚いたよ。言葉を失った。他の兄弟も皆息を呑んでいただろう。」
急に何を言い出すんだろう?
ん?と兄さんを覗き込むと、兄さんは笑って俺の髪を掬うように頭を撫でた。
「ただな、口を開くとこんなだろう?父上がお前を秘匿してきた意味が何となく分かるんだ。」
んんん?
「ユリウスを思い慕っているのか?」
今抱えているこの気持ちが、それに当てはまるのか正解は知らない。
それでも、ユリウスじゃなきゃ駄目なんだから、やっぱりきっとそうなんだ。
こくんと頷くと、兄さんも小さく頷いた。
「お前がユリウスを望むのなら反対はしないが、父上はそうではないようだ。シオンをお前の婚約者にと目論んでいるらしい。」
「…誰?」
「わたしの学友でもある。いい奴だが、少し変わった所もある。お前はずっとユリウスと居たのだろう?ある意味ユリウスしか知らない。一度他の者に会って、その想いに違いはないのか、確認してみるといい。」
「…違わない。」
「思い込みとは怖いものだ。」
そう言って目を伏せる兄さんの表情は複雑なものだ。
「………兄さんは、その、マホとは…」
「ふ、お前も知っていたのか?」
思わず口に出してしまったものの、余計なことを言ってしまったかもしれないと、少し反省した。
「そうだな。あの時、もっと冷静になれていたらと、後悔している。お前がわたしの弟だと知っていたら、あそこまでのめり込むことはなかっただろう。」
「…ごめん。」
「お前が謝ることではない。それより、一度ユリウス以外の者に目を向けてみろ。それでもユリウスがいいと言うなら、父上に助言してやる。」
「わかった。」
「あまり早まって、ユリウスを困らせるような求愛をするなよ。」
「…な!?」
おもわず立ち上がって兄さんを睨むと、兄さんは今度こそ声を出して笑い始めた。
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