秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
54 / 102
婚約者

52

しおりを挟む
兄さんに説得され、何より父さんが煩いので仕方なく顔合わせだけは出向くことにした。

着替えを手伝ってくれた侍女は無口で淡々としており、母様たちにお付きの侍女とどこか雰囲気が似ていた。

俺がここに来てから侍女たちが一掃されたのだと兄さんの中の誰かが言っていた気がする。確か、7番いや、6番か?

いつもよりひらひらとした服は着心地が悪かったが、ユリウスに似合っていると言われて悪い気はしなかった。

出会った頃みたいな距離ができてしまったユリウスの背を追うように、二人とも無言のまま指定された部屋へと向かう。部屋の中にはゆったりと寛ぐ父さんとその傍にルドルフ、小柄なおじさんとその傍に大柄な男が既に待機していた。

この国の宰相だと言う小柄なおじさんは、俺を一目見るなり、あからさまにぎょっとした顔をした。

そうだよな。俺だってこんなひらひらとした服は着たくはなかったよ。こんなひらひらした服を着た見知らぬ王子なんて、息子の婚約者として不満だろ?な?な?

と目で合図を送ってみたが、何故かおじさんは卒倒しそうになり、傍にいた大柄な男に支えられて持ち堪えた。息子の婚約者が俺みたいな相手だと知り、衝撃を受けてしまったようだ。父さんのせいとは言え、悪いことしたな。

だが安心しろ。断りにくいだろうから、父さんには俺の方から上手く話しをしておくぞ。

おじさんを安心させようと微笑みかけたら、ルドルフからは「もうおやめ下さい。」と怖い顔で睨まれた。父さんはくつくつと声に出して笑っているし、何で俺が睨まれなきゃなんないのか意味が分からない。

微笑みを消し、ユリウスを真似てすんとした顔をすると大柄な男と目が合った。身体つきに似合わず柔和な顔をしたその男こそが、俺の婚約者だった。




「まさかわたしの様な者が、この場所に通されるとは、恐縮な限りです。」

そう言って、シオンという男は辺りを見回す。

ここは王族の私的な空間となっている中庭らしい。

と言うのも、俺だって初めてここに来たからだ。

俺の知っている中庭といえば、母さんや母様たちと過ごした後宮の中庭だけだから。

母様たちのように色鮮やかな花々が咲き誇る後宮の中庭とは違い、ここは濃淡の違う紫色の花々が整然と咲き誇る。

「陛下の好きなお色ですね。」

「へえ……そうなんだ。」

向かい合って座るシオンの視線を避ける様に、離れた所に控えるユリウスへと視線を移す。

ユリウスもルドルフも控えているし、きっとどこからか父さんも見ているはずだ。あの小さいおじさんも見ているかもしれない。

「ノア様の瞳も陛下とよく似た薄紫色ですね。」

「ああ、まあ……そうだな。」

二人きりではないのに、なんだか落ち着かない。ちらちらとユリウスに送る視線は絡み合うことはなく、俺の心は折れそうだ。

「…わたしの様な者が相手で不服でしたか?」

真っ直ぐに俺を見つめてくるシオンに首を振る。

「不服とか、そんなんじゃない。ただ俺は婚約できない。父さ、父上には俺からちゃんと話すから…だから、」

「理由をお聞きしても?」

切り揃えられた銀色の髪はさらさらとしている。その柔和そうな見た目と物腰とは裏腹に、投げかけてくる言葉には圧がある。

「……婚約したい者が、他に、いる。」

「お慕いしている相手がいらっしゃるのですね?」

「……ん?あ、ああ、そうなんだ。すまないと思っている。父上が勝手に話しを進めてしまったようで…」

「お相手も、ノア様をお慕いしているのですか?」

その言葉にはっとして顔を上げると、シオンの真っ直ぐに見据える目が、もう一度問い掛けてくる。

『相手も君を慕っているのか?』

ユリウスに側にいて欲しいという想いだけで、婚約者になれと命じた。ユリウスがいないと苦しくて、いてくれれば安心できて…ただそれは全部俺の理由だ。

「…それ、は…」

ユリウスはそもそも、俺のことをどう思っているのだろう。

「どうやら、想いが通じ合っている訳ではないようですね。」

シオンの視線が俺からユリウスへと移り変わる。

「…え、なんで…」

「そんなの、すぐに分かりましたよ。お相手はユリウス団長ですよね。ああ、元、団長ですけど。」

「…なんで、どうして分かったんだ?」

「さっきからユリウス様しか目に入っていないようなので。」

目を弓形に細めてシオンは笑う。

感情の読み取れない貼り付けたような笑みは、父さんのそれと少し似ている。

父さんがシオンを選んだ理由がなんとなくわかった気がした。



















しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

処理中です...