秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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ノアと真帆

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「お前、シュヴァリエがいるのに、ユリウス様のことばかりだな。申し訳ないとか、そんな気持ちはないのか?」

お茶を飲んでも、シオンの怒りはいまだにおさまっていないようだ。

廃嫡こそされなかったが、兄さんが今まで担っていた第一王子としての務めは2番や3番に委ねられている。

何もなければ、シオンは兄さんの側近として仕えるはずだった。

まさか俺みたいな王子の婚約者にさせられるなんて思ってもいなかっただろう。

兄さんは何も言わずに、優雅にお茶を口にしている。

「…申し訳ない?なんでぼくがそんな風に思わないといけないの?自滅したのは、本人の責任でしょう。」

鬼のような顔をしたシオンに、マホは怯む事なく答える。

…なかなかのやり手

母様の中の誰かが言っていた。

シオンの勢いに少しだけ怯んでしまっていた自分と比べると、確かにマホはやり手なんだと変に関心する。

「…お前、初めこそ聖女だなんて豪語していたようだが、とんだ悪女だったな。」

「きらきらしていたのは事実だし。こうして知らない世界に来たんだから、ここでは僕が主役なのかなって、そう思うのは仕方のないことでしょう。」

聖女とか悪女とか、興味を引かれる言葉に気を取られそうになるが…

マホは男だぞ、と口に出そうとして、やめておく。

今はそんな雰囲気じゃない。

マホのことは嫌いだが、やっぱりきらきらは見てみたかった。消えてしまったのは残念だ。

「主役?お前みたいなのが?どこにいたって、お前みたいなのが主役になれる訳はない。」

「…前から思っていたけど、君は本当に僕のことを嫌っているよね。シュヴァリエ様が僕に惹かれたことは、僕のせいじゃないのに。…そもそも僕だって騙されていたんだ。だから利用させてもらった。お互い様だと思うけど。」

「…騙されていた?何の話しだ?」

シオンが怪訝そうに顔を歪める。

その隣で、くくく、とずっと黙ったままでいた兄さんが、ふいに笑い始めた。

「ああ、なんだ。気がついていたのか。」

「誰かがいるときと、二人きりのときと、全然態度が違ったでしょう。理由は分からないけど、僕を好きなふりをしているだけだって、途中からはさすがに僕だって気が付きました。」

…ん?兄さんはマホのことを想い慕っていた訳じゃないってことか?

「…どういうことだ、シュヴァリエ。」

シオンも訳がわからないと言った感じだ。

「…ああ、そうだな、ちょっとした出来心みたいなものだろうか。」

「お前、何を言っているのか分かっているのか!?ちょっとした出来心だと!俺が一体どんな思いで…!」

「そんなに大声を出すな。そのおかげで、ノアと会えただろう。頑なに拒んできた婚約もできたんだから、感謝されてもおかしくないと思うが。」

さらっと、なんて事のないような発言をしているが、一妃がその尻拭いで大変な目にあっていたのを俺は知っている。

シオンだって、しなくてもいい婚約をさせられるはめになった。

涼しい顔をした兄さんが何を考えているのか、全くわからない。

「へえ、そこの二人は婚約してるんだ。…せっかく僕を好きなふりまでしたのにね。」

マホが意味深な視線を兄さんへ送ると、この日初めて兄さんは顔を歪めてマホを睨んだ。

「わたしのことは、どうでもいいだろう。それよりも、ユリウスの話しだ。」

「そうだね。僕は悠理を戻してもらえれば、それでいい。それ以外の話には興味がないから。」

「ノアも、マホと話したい事があったんじゃないのか。」

兄さんのことは気に掛かるが、いつまでもマホとこうしていられる訳じゃない。

「…ユリウスのことは、本当に悪かった。ただ、俺も…ユリウスじゃないと駄目なんだ。」

少し緩んでいたマホの態度がまた険悪なものに変わる。

「は?何言ってるの?そこの大きな人と婚約してるんでしょう?」

「…それは…すまない、シオン。こんな時に言う事じゃないけど、俺は…やっぱり、」

シオンにはいずれ早い段階で伝えなければと考えていた。

俺自身の想いだけじゃない。記憶の中にいるノアールの想いを投げやりに無駄にすることはできない。

ユリウスの想いが誰に向かっていようと、せめて本人に伝えることだけでもしなければ、ノアールの想いは報われない。

シオンには悪いと思っている。その代わり、俺はノアールと同様、この先もユリウス以外の誰かを受け入れることは決してしないと、心に誓っていた。

仮に、報われなくても。

「…やはり、そうですか。ユリウス様しか知らないノア様が、いつも側にいたユリウス様に淡い想いを抱く気持ちを理解していたつもりです。こんなに想われていたとは…知らなかった、いえ、俺自身もどこかで分かっていたような気がします。」

罵られてもしょうがないと覚悟を決めていたのに、シオンはそう言って静かに笑った。












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