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ノアと真帆
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「…振られたな、シオン。」
「お前、うるさい。これまで振ったことはあっても、振られたことは初めてなんだ。」
「いい経験ができたじゃないか。」
「…お前なあ…」
兄さんとシオンのやり取りを見ていると、仲が良いのか悪いのか、よく分からない。
でも兄さんの表情はなんだか楽しそうだ。
「…ねえ、さっきから言ってるけど、僕は悠理の話しだけを出来ればいいの。…君は悠理に何をしたの?すぐに牢から出してもらえるんだよね?」
当たり前のことだが、今の俺が子を宿していないことは証明されたから、ユリウスはもうすぐ解放されるはずだ。
「…ユリウスは何もしていないし、俺が少し誤解を招くような発言をしてしまったから。誤解が解ければ、すぐに出られる筈だ。」
「…本当に?信じていいんだよね?こんな事がなければ、とっくに婚姻届を出していたのに。」
「まだ、出していないのか?」
「…勘違いしないで。悠理が出てきたらすぐに届けを出して、王都から旅立つ予定だから。君が悠理を慕っていようがいまいが、君と違って僕らの婚約が破棄されることはない。」
マホの言うように、ユリウスは解放されれば、すぐに王都から離れてしまうだろう。
父さんはきっとそう命じるはずだ。
ユリウスが王都から離れてしまえば、この先きっともう、二度と会えないような気がする。
二度とユリウスに会えない…
いなくなったユリウスを想い続けていたノアールの記憶と、俺自身が感じる喪失感が重なる。
「…一度だけでもいい。どうしても、ユリウスと話しがしたい。いいか?」
「……。」
「どうしても話しておきたい事があるんだ。」
「…何?悠理に告白でもする?そんなの僕が許すと思う?」
「…ユリウスが、本当にお前のことを想っているなら、俺が何を言ってもお前たちの婚約に影響は出ないだろう。…自信がないのか?」
ここまで来たら、俺だって引くに引けない。
何と言っても、二人分の想いを抱えているんだ。
「…ずるいよ。君は王子なんでしょ。なんだって手に入るよね。僕には悠理以外何もない。この世界で僕の味方は悠理だけなのに。…ずるいよ。」
マホはうるうると黒目を潤ませている。
「お前に事情があるように、こっちにも事情があるんだ。…あと、それ、俺には効かないぞ。」
こうやって相手の懐に入り込んで来たんだろうな。やっぱりこういう所には、変に感心してしまう。
ちっと、小さく舌打ちすると、マホは立ち上がった。
「とにかく、会えるか会えないかは悠理次第だから。仮に君が会えたとしても、僕たちの婚約には何の影響もない。絶対に。…悠理が戻ってくるかもしれないから、僕はもう行く。」
勝手に押しかけてきておいて、勝手に帰るなんてマホらしいな。
「お前のこと嫌いだけど、もう二度と会えないかもしれないから、元気でな。」
同じ相手を慕う同士なんだから、こんな形じゃなければ、もっと仲良くなれていたかもしれない。
俺にはないマホの強かさは、案外嫌いではなかった。
「はあ?何言ってるの?」
部屋を出かけたマホが呆れ顔で振り向く。
「…そんな見た目して、王子なんてずるいよ。初めて会って、もう会うこともないだろうけど、僕も大嫌い。」
嫌いと言われても何故か悪い気はしなかった。
「…シュヴァリエ様、ありがとうございました。…色々と、ごめんなさい。お元気で。」
マホは兄さんに小さく頭を下げると、意味深な視線をシオンへと送り、それからひらひらと手を振って部屋を出て行った。
「…嫌いだけど、あいつ面白い奴だな。」
マホがいなくなった部屋で呟くと、兄さんは苦笑いをして、シオンは酷く嫌そうな顔をした。
改めて、もう一度シオンに婚約解消のことを謝罪する。
「気にしなくていいよ、ノア。わたしを差し置いてノアと婚約しようとしたシオンが悪いんだ。」
なぜか兄さんがそれに答えて、シオンはぶすっとした顔をしていた。
本当に仲が良いのか悪いのか、よく分からない。
あの小さいおじさんは、婚約解消になれば、きっとほっとしてくれるだろう。
倒れるぐらい俺のことを嫌がっていたからな。
父さんのことや、シオンの家のことは兄さんが何とかすると言ってくれた。
父さんのことは、いずれ俺自身で何とかしなければいけない。
シオンの家のことは、どうにもできないので、兄さんに任せるしかない。
…ユリウスは、もうそろそろ解放されているだろうか。
ここを旅立つ前に、なんとかして会わないと…
一人きりになった部屋で悶々と時を過ごす。
「…ノア様、宜しいですか?」
部屋にやって来たのはルドルフだ。
「マホが押しかけて来たようですが、遅れてしまい申し訳ありません。」
「俺も会いたかったから、大丈夫だ。兄さんとシオンもいてくれたし。」
「そうですか。…ユリウスが。」
だらっと腰掛けていた身体をぐわっと起き上がらせる。
「ユリウスが!?」
「先程、牢から解放されました。明後日には、王都をたち、生家へと向かうそうです。」
想定はしていたが、明後日なんて…
「それで、ユリウスは今何処に…」
「…ある場所に。」
「ある場所?一人でか?」
「…ええ。」
「少しでいい。会えるか?」
「…そう言われると思いました。わたしもどうしたものかと、考えていたのですよ。」
渋るルドルフに俺は何度も食らいついた。
ここで引いたら、絶対後悔するのは分かっている。
ずっとただ、待ち続けていた。
もう、待っているだけの自分は嫌だ。
「お前、うるさい。これまで振ったことはあっても、振られたことは初めてなんだ。」
「いい経験ができたじゃないか。」
「…お前なあ…」
兄さんとシオンのやり取りを見ていると、仲が良いのか悪いのか、よく分からない。
でも兄さんの表情はなんだか楽しそうだ。
「…ねえ、さっきから言ってるけど、僕は悠理の話しだけを出来ればいいの。…君は悠理に何をしたの?すぐに牢から出してもらえるんだよね?」
当たり前のことだが、今の俺が子を宿していないことは証明されたから、ユリウスはもうすぐ解放されるはずだ。
「…ユリウスは何もしていないし、俺が少し誤解を招くような発言をしてしまったから。誤解が解ければ、すぐに出られる筈だ。」
「…本当に?信じていいんだよね?こんな事がなければ、とっくに婚姻届を出していたのに。」
「まだ、出していないのか?」
「…勘違いしないで。悠理が出てきたらすぐに届けを出して、王都から旅立つ予定だから。君が悠理を慕っていようがいまいが、君と違って僕らの婚約が破棄されることはない。」
マホの言うように、ユリウスは解放されれば、すぐに王都から離れてしまうだろう。
父さんはきっとそう命じるはずだ。
ユリウスが王都から離れてしまえば、この先きっともう、二度と会えないような気がする。
二度とユリウスに会えない…
いなくなったユリウスを想い続けていたノアールの記憶と、俺自身が感じる喪失感が重なる。
「…一度だけでもいい。どうしても、ユリウスと話しがしたい。いいか?」
「……。」
「どうしても話しておきたい事があるんだ。」
「…何?悠理に告白でもする?そんなの僕が許すと思う?」
「…ユリウスが、本当にお前のことを想っているなら、俺が何を言ってもお前たちの婚約に影響は出ないだろう。…自信がないのか?」
ここまで来たら、俺だって引くに引けない。
何と言っても、二人分の想いを抱えているんだ。
「…ずるいよ。君は王子なんでしょ。なんだって手に入るよね。僕には悠理以外何もない。この世界で僕の味方は悠理だけなのに。…ずるいよ。」
マホはうるうると黒目を潤ませている。
「お前に事情があるように、こっちにも事情があるんだ。…あと、それ、俺には効かないぞ。」
こうやって相手の懐に入り込んで来たんだろうな。やっぱりこういう所には、変に感心してしまう。
ちっと、小さく舌打ちすると、マホは立ち上がった。
「とにかく、会えるか会えないかは悠理次第だから。仮に君が会えたとしても、僕たちの婚約には何の影響もない。絶対に。…悠理が戻ってくるかもしれないから、僕はもう行く。」
勝手に押しかけてきておいて、勝手に帰るなんてマホらしいな。
「お前のこと嫌いだけど、もう二度と会えないかもしれないから、元気でな。」
同じ相手を慕う同士なんだから、こんな形じゃなければ、もっと仲良くなれていたかもしれない。
俺にはないマホの強かさは、案外嫌いではなかった。
「はあ?何言ってるの?」
部屋を出かけたマホが呆れ顔で振り向く。
「…そんな見た目して、王子なんてずるいよ。初めて会って、もう会うこともないだろうけど、僕も大嫌い。」
嫌いと言われても何故か悪い気はしなかった。
「…シュヴァリエ様、ありがとうございました。…色々と、ごめんなさい。お元気で。」
マホは兄さんに小さく頭を下げると、意味深な視線をシオンへと送り、それからひらひらと手を振って部屋を出て行った。
「…嫌いだけど、あいつ面白い奴だな。」
マホがいなくなった部屋で呟くと、兄さんは苦笑いをして、シオンは酷く嫌そうな顔をした。
改めて、もう一度シオンに婚約解消のことを謝罪する。
「気にしなくていいよ、ノア。わたしを差し置いてノアと婚約しようとしたシオンが悪いんだ。」
なぜか兄さんがそれに答えて、シオンはぶすっとした顔をしていた。
本当に仲が良いのか悪いのか、よく分からない。
あの小さいおじさんは、婚約解消になれば、きっとほっとしてくれるだろう。
倒れるぐらい俺のことを嫌がっていたからな。
父さんのことや、シオンの家のことは兄さんが何とかすると言ってくれた。
父さんのことは、いずれ俺自身で何とかしなければいけない。
シオンの家のことは、どうにもできないので、兄さんに任せるしかない。
…ユリウスは、もうそろそろ解放されているだろうか。
ここを旅立つ前に、なんとかして会わないと…
一人きりになった部屋で悶々と時を過ごす。
「…ノア様、宜しいですか?」
部屋にやって来たのはルドルフだ。
「マホが押しかけて来たようですが、遅れてしまい申し訳ありません。」
「俺も会いたかったから、大丈夫だ。兄さんとシオンもいてくれたし。」
「そうですか。…ユリウスが。」
だらっと腰掛けていた身体をぐわっと起き上がらせる。
「ユリウスが!?」
「先程、牢から解放されました。明後日には、王都をたち、生家へと向かうそうです。」
想定はしていたが、明後日なんて…
「それで、ユリウスは今何処に…」
「…ある場所に。」
「ある場所?一人でか?」
「…ええ。」
「少しでいい。会えるか?」
「…そう言われると思いました。わたしもどうしたものかと、考えていたのですよ。」
渋るルドルフに俺は何度も食らいついた。
ここで引いたら、絶対後悔するのは分かっている。
ずっとただ、待ち続けていた。
もう、待っているだけの自分は嫌だ。
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