秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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邂逅

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こんなにはっきり伝えたのに、ユリウスはなかなか信じようとしてくれない。

刻々と時間だけが過ぎて行く。まだ全てを伝えきれていないことに焦りを覚える。

「なあ、ユリウス、どうして信じてくれないんだ?あの夜、ユリウスとノアールは抱き合って想いを伝えあったんじゃなかったのか?」

あの夜のことは、途中からどうしても靄がかかったようにはっきりと思い出せない。

「……あの夜のことも記憶に残っているのですか?」

「ああ、もちろん覚えている。」

「…それならば、何故、ここに?わたしの顔など見たくもない筈でしょう。」

そう言って、ユリウスは深く長いため息を吐いた。

「何故?それを問いたいのは、わたしの方だ。何故お前は何も言わずに、わたしの前から姿を消したんだ?あの夜のことを後悔しているのはお前の方だろう?」

すらすらと口から出る言葉に、俺自身が驚く。

「…ノアール様、なのですか?」

「ああそうだよ。ずっとお前を待っていた。いつか必ず戻ってくると、それだけを信じて。」

「ですが!お忘れですか?目覚めた時のあのあり様を。我を忘れたわたしが、あなたにした事を!」

身体中が軋み上がって、起き上がることすらままならなかった。

ただ抱き合って眠っただけの筈なのに、靄がかかって思い出せない所で、ユリウスとノアールは何をしていたんだろう?

「忘れているのは、お前だろう?あの夜、先に誘ったのはわたしだ。躊躇するお前に、何度も求めたのもわたしだろう?」

俺の意図する所とは別の所で、すらすらと言葉が出てくる。

「…ですが、信じていたわたしに裏切られ、二度と顔も見たくないと、牢に入れられたわたしに領主様から、あなたの言葉を伝えられました。それがきっと、ノアール様の本心なのだと…。ずっと、そう思って…」

「ああ、父上がそんな事を言っていたんだな。だからお前は、俺の前から姿を消したのか?」

ユリウスが小さく頷く。

「なぜ父上の言葉を信じたんだ?抱き合っていた間、何度も伝えていただろう。」

「…ノアール様は、あの晩酔っていました。のし掛かる重積から、ほんのいっとき解放されるのを望んでいただけだと。」

「酔っていたとして、わたしが誰でも構わずに身を委ねるとでも?」

「……それは…」

俯くユリウスに、ノアールが手を差し伸べる。

その手が苦しそうに顔を歪めた頬に触れる。

「…ユリウス、ずっとお前の事を想い慕っていた。」

「……わたしも、ずっと、あなたを…」

頬に触れた手に、ユリウスの震える手の平が重なる。

「もう誰も咎める者はいない。咎められることはないんだ。だから、躊躇う必要はない。」

耳元でノアールが囁くと、ユリウスは俺の身体を、いやノアールのことをきつく強く抱きしめた。

「…ずっと、ずっと、長い間、あなたのことだけを、想い慕ってきました。ノアール様、あなただけを。」

今ユリウスの腕の中にいるのは、ノアールであって俺じゃあない。

二人は昔からずっと想い合っていたんだな。

まるで俺自身が想いを告げられたみたいに、身体中が満たされて行く。

良かったな、ノアール。ユリウスはこんなにもお前のことを想い慕っていてくれたんだな。

「…ユリウス、長い事待ちくたびれたぞ。」

「…申し訳ありません。」

「特別に、赦してやる。」

ノアールの言葉に、ユリウスの顔が綻ぶ。

「ノアール様…」

ああ、ユリウスはこんな顔も出来るんだな。

ノアールのことが愛おしくて堪らないみたいな、そんな表情だ。

抱きしめられる力がぎゅっと強まる。

…あ、これは、もしかして、

額にかかった一房の髪を掬い上げられ、その顔が近づいてくる。

ぎゅっと目を閉じると、その額にユリウスの口が優しく触れる。

「ちょ、まっ…俺は、ノアールじゃ…」

やっと発した言葉は、ノアールのものじゃなく、俺の言葉だ。

「………んんー!」

俺の唇にユリウスの唇が重なる。

これは……、口付けというやつだ!

記憶の中で二人が交わし合っていた、あれだ!

今まで散々俺の身体を使ってユリウスと話していたのに、ここにきてノアールは何をしているんだ?

どうしたらいいのか全く分からない。

ノアール、お前が代われよ!

ユリウスはノアールに口付けしてるんだ!

どこかで、くくくと、ノアールが笑っているような気がする。

「…ふ、はっ、まって、ユリウス…」

執拗に重ねられる口付けで息ができない。

ノアールは上手くやっていたような気がするけど、一体どうしたらいいんだ???

長椅子の上で、口付けしたまま覆い被さってくるユリウスを押し退けるような力は俺にはない。

う、苦しい。

息が…息が………

この状態で、一体どうやって呼吸すればいいんだ?















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