秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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アミュレットとメダル

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寝台から起き上がり、さっと着替えを済ますと、マントを被り、腰に剣をさす。

扉を出れば、予想通り、例の侍女が待機していた。

「こんな時間に何方へ行かれるおつもりですか?」

何も答えず、その脇をすり抜けようとすると、侍女はまた前に立ち塞がってきた。

「ルドルフとシオンを呼んでくれ。急いで欲しい。」

他に待機していた侍女が、さっとその場を去るのを横目で確認する。

「今度ばかりは、陛下もお許しいたしません。どうか、お部屋に…」

「悪いが、本当に時間がないんだ。」

侍女の肩に手を掛け、押しやるようにして傍を通り過ぎると、腕組みをして俺を見下ろす父さんが立ち塞っていた。

「こんな時間に何処へ行くんだ?夜中にシオンを引き連れて、逢い引きでもするつもりか?」

口調だけは揶揄するような軽いものだが、苛立ちを隠すつもりは全くないようだ。

父さんの声に、各部屋から他の王子たちが顔を覗かせる。

「シュヴァリエ、どういうことだ?ここでのノアのことはお前に任せていた筈だが?一体ノアは何処に行こうとしているんだろうな?」

一番は俺と父さんの間に割って入ると、どう言うことだと、小声で問い掛けてくる。

こんな所で時間を無駄にしたくない。

嫌な予感は膨らむばかりだ。

呼ばれたルドルフとシオンがほぼ同時に到着する。

二人とも、きっとこの状況に困惑しているだろう。

「…これは、一体…。何が?」

「ユリウスの処へ行く。」

呟くルドルフに、それだけを答えると驚く一番と父さんの脇を真っ直ぐに通り過ぎる。

「なぜそんなに、ユリウスへと執着するんだ?今頃宿で、二人だけの時間を楽しんでいる頃だろう?邪魔しにいくなんて無粋じゃないか?」

「…楽しんでいるなら、それでいいんだ。ただ、無事を、それだけを確認できればそれでいい。」

「行かせないよ。ルドルフ、シオン、ノアを止めるんだ。」

…胸騒ぎが止まらない。

ノアールの、急げ、と言う言葉がずっと頭の中で響いている。

時間がないんだ。

腰に携えていた剣を抜くと、ルドルフとシオンの雰囲気がぴりりとしたものに変わる。

彼らは騎士だ。

いつもの俺とは何かが違うと感じたはずだ。

「…ユリウス様に何かあったのですか?」

低く響くシオンの言葉に首を振る。

「それを確認しに行く。何もなければ、それでいい。ついて来てくれるか?」

ルドルフとシオンに切先を向けるなんて無謀なことだ。

でも、今無理に止められようとしたら、俺はきっとこの剣を振り下ろしてしまう。

ノアールがそうしてしまうだろう。

「…一人でも行く。邪魔するな。」

「ノア!行かせないと言っているだろう。一人でここを出ても、お前には何もできることなんてない。お前の居場所はここだけだ。分かるだろう?」

父さんの言葉を無視して先に進む。

階下には、騒ぎを聞きつけた使用人たちと見張りの騎士たちがちらほらと集まって来ている。

マントを被ってはいるが、見慣れない俺の姿に、どうしていいのか戸惑っているようだ。

「ノア!」

階段を下りきると、頭上から父さんの怒りを押し殺した声が響く。

「もう後悔はしたくないんだ!」

一度だけ振り返って叫ぶと、自分の声に後押しされるみたいに、駆け出す。

深く被っていたマントがはだけても、気にしないで外へ外へとひた走る。

その場にいた騎士も、使用人も俺の姿に驚いたのか、その場に立ち尽くしたまま、捕まえようとはして来ない。

「ノア様!!!」

ルドルフとシオンの声が重なって、俺を追いかけて来る。

「嫌だ!お願いだから、行かせてくれ!!」

「ノア様!!!」

あっさりと追いついた二人に挟まれても、無我夢中で走る事をやめない。

「お願いだからっ!」

「ですから、何処に!?」

えっ???

「宿まで行けばいいのですか?」

「ここまで来たら、とことんお付き合いしますよ。シュヴァリエが怒りそうだけど。」

「ユリウスのことなら、わたしも心配ですし。」

二人は、俺を捕まえるために追いかけてきたんじゃなかった。

一人でも行くつもりだったが、正直二人がついて来てくれると思うと、心強い。




馬に乗って、先を急がせる。

俺が一人で乗るなんて無理だろうと、どちらかが俺を乗せようとしてくれたのを断って、一人で乗り上げると、二人は目を見開いた。

今はノアールの記憶が全て役に立っている。

ノアールとユリウスは二人でよく遠乗りしていたからな。

先日の見慣れた道まで来ると、ここに来るまでずっと考えていた通りに、道を離れる。

「ちょっと、寄って行くところがある。二人は先に行っててくれ!すぐに追いつくから!!!」

「ノア様!!!」

また二人の声が重なる。

「俺は大丈夫だから!そのまま、先を急いでくれ!」

二人の向かう道から逸れて、森の奥深くへと進んでいく。

不思議と道に迷う事はない。

がさがさと草木を踏みしめながら、現れたのはここの守り神だと言う狼だ。

「また来たよ。ユリウスの処まで連れて行ってくれるか?」

大きな尻尾をブンブンとしながら向けられた背に乗り上げる。

ちゃんと掴まっていろよというように、ちらっと後ろを振り返ると、狼は勢いよく暗がりの中を駆け始めた。
















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