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最終章
最終話
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二日目の夜、どうにも火照って仕方がない俺に、ユリウスは子を成す本当の方法を丁寧に教えてくれた。
勿論会話で。
裸で抱き合うだけだと思っていた俺には、想像もつかないような内容で、面食らってしまったのが正直なところだ。
火照りを治めるために、少しだけ身体に触れると、その熱を吐き出してくれ、その日もまたそのまま抱き合って眠った。
三日目の夜、心を決めてユリウスを受け入れると誓うと、ユリウスは急ぐ必要はないとやんわりと断りを入れてくれたが、それを押し切って俺たちは結ばれた。
ユリウスは決して無理をさせるようなことはなく、真綿に触れるよう優しくゆっくり身体を繋ぎ合わせてくれた。
この先、ユリウス以外を受け入れることはできないし、ユリウスがいなくなれば、俺はもう生きていけない。
ノアールの記憶が抱き合うところまでしかなかったことが、なんとなく分かった気がする。
優しく触れる手つきとは裏腹に、覆い被さるユリウスの時折眉を顰めるような表情はとても扇状的だった。
この表情を知るのは、今もこれからも自分だけでいいと、そう思う。
「はあああ…。いつまでいるつもりだ?」
まるで我が家のように、目の前で寛いでいるのはルドルフだ。
監視という名目で時折訪れてくると、大抵好き勝手に過ごして、そのまま帰る。
父の命であることも、監視しているということも、全く隠すつもりはないらしい。
「陛下からの命です。仕方がありません。黒紫鋼の在処は聞き出せましたか?」
「ああ、まあな。でも、教えるつもりもないし、公にもしないと、何度も言ってるだろ。そろそろ帰れよ。」
「そういう訳にはまいりません。ユリウスが不在のようですから、明日までは滞在させて頂きます。」
ユリウスは商会の件で数日間不在にしている。
ユリウスが不在の間は、どこで聞きつけるのか、王都からは大抵誰かが訪れて監視という名目の元、ここで過ごしていくのが常だ。
シュヴァリエ兄さんとシオンが訪れることもあるし、シオン一人だったり、今日のようにルドルフ一人だったり、監視というより最早、ちょっとした小旅行のつもりじゃないかと疑ってしまう。
ユリウスもそれを承知のようだが、シオン一人のときは何故かとても不機嫌になる。シオンはそれを気にする風でもなく、むしろ楽しんでいるようだ。二人の関係性はよく分からない。
「体調が優れないとお聞きしておりますが、いかがですか?明日にはニイナ様が訪れる予定です。」
「母さんが?」
「ええ。」
母さんと会うのは久しぶりだ。
「他の妃方も口々に此処を訪れたいと仰るのですが、それは流石に難しいかと思われます。」
それはそうだ。廃嫡された王子の元を気軽に訪ねられる訳がない。
皆んな元気にしているだろうか。
「ナターシャ様を筆頭に、皆様変わりなくお過ごしです。お会いしたいですか?」
「まあ、な…」
会いたくないと言えば嘘になる。でも相変わらず元気に過ごしているのなら、それを聞けただけでもいい。
「ふむ。やっと機嫌が直りましたか?」
「は?」
腹が減ったと言うルドルフに、仕方なく料理を振る舞う。
なんで俺がルドルフに、料理は少しずつユリウスのために覚えたものだ。
からくりを作る時みたいに、頭の中で材料を組み立てて作っていくことは案外楽しい。
「そのように不貞腐れてばかりいると、ユリウスから愛想をつかされますぞ。」
むっとしながら、ルドルフの前に出来立てのスープをどんっと出すと、飛び散った汁を見て、ルドルフは豪快に笑った。
ここは一体何処だろう。
近頃の眠気は異常だ。
ふわふわとした感覚に包まれながら、これは夢だと分かっているのに、目覚めることができない。
「…お前、久しぶりだな。元気か?」
狼のもふもふに包まれ、その毛並みを優しく撫で上げる。
此処は、あの森の中のようだ。
返事の代わりに、その尻尾が頬をくすぐる。
「お前に挨拶もしないまま別れてしまったな。色々とありがとう。こうしてまた会えて嬉しいぞ。」
何度も頬をくすぐられ目を細めていると、ふと此処にいるのが、自分一人ではないことに気がつく。
「…ノアールなのか?」
向かい合う人物は穏やかに佇むノアールだ。
ノアールは何も言わず、ただそこに佇んでいる。
「ユリウスに会いに来たのか?ユリウスのこと…」
ユリウスがノアールの事をずっと想い続けていたように、ノアールもずっとユリウスのことを待ち続けていた。
「ごめん、俺…」
『ユリウスはずいぶんとノアのことを甘やかしているようだね。』
俺の言葉を遮るように、ノアールが口を開く。
「…それは、」
『誰にも何の気兼ねもなく、ユリウスだけを想い慕って、ユリウスもそれを返してくれる。そうだろう?』
淡々とした口調とは裏腹に、その表情は驚くほど穏やかなものだ。
「本当に、ごめん、俺は…」
『何を謝っているんだ?謝る必要なんてない。これはわたしがずっと望んできたことだから。』
「…ノアール?」
『長かった。でも君のおかけで、やっと…』
ノアールがすっと差し伸べた右手が身体に触れる。
『君はわたしで、わたしは君で…』
「ノアール、何を…?」
一歩前に踏み出したノアールの身体は半透明で、そのまま俺の身体と重なり合うと、消えてなくなった。
『…本当に、長かった。』
そう一言、言い残したまま。
「ノア様、またこのような所で眠ってしまわれたのですか?お身体に触ります。」
耳元で囁く声に目を覚ますと、そこには待ち焦がれていたユリウスの姿があった。
「…ユリウス、帰ってきたんだな。」
「ええ、ちょうど今戻ったところです。」
椅子に座り、テーブルにひれ伏したまま居眠りしていた身体を、ユリウスがそっと抱き上げて寝台まで運んでくれる。
「ニイナ様にご挨拶をと思っていましたが、すでにお戻りになってしまわれたのですね。」
寝台におろされてもユリウスに抱きついたまま離れたくない。
数日ぶりのユリウスだ。
「体調は如何ですか?まだどこか具合が…」
心配そうに覗き込むユリウスの姿に、胸が締め付けられるほど愛しさが込み上げてくる。
「ずっと、待ち焦がれていたんだ。」
「たった数日ではありませんか。」
「…とても、とっても長かったように感じる。」
「まるで何年も会っていなかったような言い方をされるのですね。」
「ユリウスは、会いたくなかったのか?」
「とてもお会いしたかったですよ。たった数日でも。」
顔を見合わせると、長く深い口付けを交わし合う。
込み上げる熱い想いに、いつの間にか涙が出て止まらない。
その様子に少しの戸惑いを見せながらも、ユリウスは何も言わず、ただ側にいてくれた。
「…ルドルフ様が仰っていました。悪態をつく姿は相変わらずだと。」
「…ルドルフの奴、余計なことを、」
ユリウスの腕の中で、そっと舌打ちをする。
「体調が優れないと聞き、陛下もルドルフ様も、妃様方も皆様ご心配されていたのです。悪態をつけるぐらいなら大丈夫でしょうか。ニイナ様は何か仰っていましたか?」
むくっと起き上がり、ユリウスの手を取ると、まだ平らなお腹の辺りにそっと触れさせる。
「ノア様、まさか…」
「ああ、そのまさかだ。」
すんとした表情のまま、ユリウスはぴたりとその場に固まった。
「…このようなとき、どんな顔をすればよい良いのか…」
一見すると分からないが、相当動揺しているようだ。
「相変わらず、ユリウスはユリウスだな。」
「…これはまた、王宮からの監視が…」
「あんなの、監視じゃなくて、ただの見守りじゃないか。」
「ええ、まあ、そうなのですが…」
顔を見合わせると、自然と笑みが込み上げる。
「…長かったな。でも、これからの方が、この先ずっと長くなるぞ。ずっと、ずっとだ。」
目を細めて笑うユリウスに、それからもう一人の自分自身に、そう語りかける。
物語の終わりは、きっと新しい物語の始まりなのだと…
___終___
勿論会話で。
裸で抱き合うだけだと思っていた俺には、想像もつかないような内容で、面食らってしまったのが正直なところだ。
火照りを治めるために、少しだけ身体に触れると、その熱を吐き出してくれ、その日もまたそのまま抱き合って眠った。
三日目の夜、心を決めてユリウスを受け入れると誓うと、ユリウスは急ぐ必要はないとやんわりと断りを入れてくれたが、それを押し切って俺たちは結ばれた。
ユリウスは決して無理をさせるようなことはなく、真綿に触れるよう優しくゆっくり身体を繋ぎ合わせてくれた。
この先、ユリウス以外を受け入れることはできないし、ユリウスがいなくなれば、俺はもう生きていけない。
ノアールの記憶が抱き合うところまでしかなかったことが、なんとなく分かった気がする。
優しく触れる手つきとは裏腹に、覆い被さるユリウスの時折眉を顰めるような表情はとても扇状的だった。
この表情を知るのは、今もこれからも自分だけでいいと、そう思う。
「はあああ…。いつまでいるつもりだ?」
まるで我が家のように、目の前で寛いでいるのはルドルフだ。
監視という名目で時折訪れてくると、大抵好き勝手に過ごして、そのまま帰る。
父の命であることも、監視しているということも、全く隠すつもりはないらしい。
「陛下からの命です。仕方がありません。黒紫鋼の在処は聞き出せましたか?」
「ああ、まあな。でも、教えるつもりもないし、公にもしないと、何度も言ってるだろ。そろそろ帰れよ。」
「そういう訳にはまいりません。ユリウスが不在のようですから、明日までは滞在させて頂きます。」
ユリウスは商会の件で数日間不在にしている。
ユリウスが不在の間は、どこで聞きつけるのか、王都からは大抵誰かが訪れて監視という名目の元、ここで過ごしていくのが常だ。
シュヴァリエ兄さんとシオンが訪れることもあるし、シオン一人だったり、今日のようにルドルフ一人だったり、監視というより最早、ちょっとした小旅行のつもりじゃないかと疑ってしまう。
ユリウスもそれを承知のようだが、シオン一人のときは何故かとても不機嫌になる。シオンはそれを気にする風でもなく、むしろ楽しんでいるようだ。二人の関係性はよく分からない。
「体調が優れないとお聞きしておりますが、いかがですか?明日にはニイナ様が訪れる予定です。」
「母さんが?」
「ええ。」
母さんと会うのは久しぶりだ。
「他の妃方も口々に此処を訪れたいと仰るのですが、それは流石に難しいかと思われます。」
それはそうだ。廃嫡された王子の元を気軽に訪ねられる訳がない。
皆んな元気にしているだろうか。
「ナターシャ様を筆頭に、皆様変わりなくお過ごしです。お会いしたいですか?」
「まあ、な…」
会いたくないと言えば嘘になる。でも相変わらず元気に過ごしているのなら、それを聞けただけでもいい。
「ふむ。やっと機嫌が直りましたか?」
「は?」
腹が減ったと言うルドルフに、仕方なく料理を振る舞う。
なんで俺がルドルフに、料理は少しずつユリウスのために覚えたものだ。
からくりを作る時みたいに、頭の中で材料を組み立てて作っていくことは案外楽しい。
「そのように不貞腐れてばかりいると、ユリウスから愛想をつかされますぞ。」
むっとしながら、ルドルフの前に出来立てのスープをどんっと出すと、飛び散った汁を見て、ルドルフは豪快に笑った。
ここは一体何処だろう。
近頃の眠気は異常だ。
ふわふわとした感覚に包まれながら、これは夢だと分かっているのに、目覚めることができない。
「…お前、久しぶりだな。元気か?」
狼のもふもふに包まれ、その毛並みを優しく撫で上げる。
此処は、あの森の中のようだ。
返事の代わりに、その尻尾が頬をくすぐる。
「お前に挨拶もしないまま別れてしまったな。色々とありがとう。こうしてまた会えて嬉しいぞ。」
何度も頬をくすぐられ目を細めていると、ふと此処にいるのが、自分一人ではないことに気がつく。
「…ノアールなのか?」
向かい合う人物は穏やかに佇むノアールだ。
ノアールは何も言わず、ただそこに佇んでいる。
「ユリウスに会いに来たのか?ユリウスのこと…」
ユリウスがノアールの事をずっと想い続けていたように、ノアールもずっとユリウスのことを待ち続けていた。
「ごめん、俺…」
『ユリウスはずいぶんとノアのことを甘やかしているようだね。』
俺の言葉を遮るように、ノアールが口を開く。
「…それは、」
『誰にも何の気兼ねもなく、ユリウスだけを想い慕って、ユリウスもそれを返してくれる。そうだろう?』
淡々とした口調とは裏腹に、その表情は驚くほど穏やかなものだ。
「本当に、ごめん、俺は…」
『何を謝っているんだ?謝る必要なんてない。これはわたしがずっと望んできたことだから。』
「…ノアール?」
『長かった。でも君のおかけで、やっと…』
ノアールがすっと差し伸べた右手が身体に触れる。
『君はわたしで、わたしは君で…』
「ノアール、何を…?」
一歩前に踏み出したノアールの身体は半透明で、そのまま俺の身体と重なり合うと、消えてなくなった。
『…本当に、長かった。』
そう一言、言い残したまま。
「ノア様、またこのような所で眠ってしまわれたのですか?お身体に触ります。」
耳元で囁く声に目を覚ますと、そこには待ち焦がれていたユリウスの姿があった。
「…ユリウス、帰ってきたんだな。」
「ええ、ちょうど今戻ったところです。」
椅子に座り、テーブルにひれ伏したまま居眠りしていた身体を、ユリウスがそっと抱き上げて寝台まで運んでくれる。
「ニイナ様にご挨拶をと思っていましたが、すでにお戻りになってしまわれたのですね。」
寝台におろされてもユリウスに抱きついたまま離れたくない。
数日ぶりのユリウスだ。
「体調は如何ですか?まだどこか具合が…」
心配そうに覗き込むユリウスの姿に、胸が締め付けられるほど愛しさが込み上げてくる。
「ずっと、待ち焦がれていたんだ。」
「たった数日ではありませんか。」
「…とても、とっても長かったように感じる。」
「まるで何年も会っていなかったような言い方をされるのですね。」
「ユリウスは、会いたくなかったのか?」
「とてもお会いしたかったですよ。たった数日でも。」
顔を見合わせると、長く深い口付けを交わし合う。
込み上げる熱い想いに、いつの間にか涙が出て止まらない。
その様子に少しの戸惑いを見せながらも、ユリウスは何も言わず、ただ側にいてくれた。
「…ルドルフ様が仰っていました。悪態をつく姿は相変わらずだと。」
「…ルドルフの奴、余計なことを、」
ユリウスの腕の中で、そっと舌打ちをする。
「体調が優れないと聞き、陛下もルドルフ様も、妃様方も皆様ご心配されていたのです。悪態をつけるぐらいなら大丈夫でしょうか。ニイナ様は何か仰っていましたか?」
むくっと起き上がり、ユリウスの手を取ると、まだ平らなお腹の辺りにそっと触れさせる。
「ノア様、まさか…」
「ああ、そのまさかだ。」
すんとした表情のまま、ユリウスはぴたりとその場に固まった。
「…このようなとき、どんな顔をすればよい良いのか…」
一見すると分からないが、相当動揺しているようだ。
「相変わらず、ユリウスはユリウスだな。」
「…これはまた、王宮からの監視が…」
「あんなの、監視じゃなくて、ただの見守りじゃないか。」
「ええ、まあ、そうなのですが…」
顔を見合わせると、自然と笑みが込み上げる。
「…長かったな。でも、これからの方が、この先ずっと長くなるぞ。ずっと、ずっとだ。」
目を細めて笑うユリウスに、それからもう一人の自分自身に、そう語りかける。
物語の終わりは、きっと新しい物語の始まりなのだと…
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