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第3話
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そんな私の夢想を打ち砕くように、お母さんは語り続けます。
「リネット、お前とあたし、似てないと思わないかい? 顔立ちはもちろん、体格なんてまるで違うだろう? 疑問に思ったことくらい、あるんじゃないのかい?」
確かに、痩せっぽちの私と違って、お母さんの体格は、男の人にも負けないくらいガッチリしています。しかし、なぜ今、そんな話をするのでしょう。
「似てなくて当然なんだよ。お前は物心がつく前に、あたしが孤児院から引き取った子供だからね。血の繋がりなんてないのさ」
えっ……
「さて、なんであたしが、孤児なんて面倒くさいもんを引き取ったと思う? ……この領地ではね、貧しい母子には、援助が与えられるんだよ。この家だってそうさ。ふふ、社会福祉ってやつかい? いや、立派なもんだよ、我らが豚侯爵様は。おかげで、ろくに働かなくても、それなりの暮らしができたんだから、本当に助かったよ」
「…………」
「でもね、援助の期間は10年。つまり、今年までなのさ。……わかるかい、リネット。お前はもう、用済みなんだよ。しみったれた孤児院から、4歳の陰気臭いガキを引き取って、10年も育ててやったんだ。最後に『捧げもの』になって、その恩を返しておくれ。これこそが、親孝行ってやつだよ」
私は立ち尽くしたまま、涙をこぼしていました。
唇が震えて、うまく言葉が出てきません。
しかしそれでも、なんとか短い言葉を紡ぎ出すことができました。
「い、いやです……私、これからもお母さんと一緒に……」
「お母さんなんて呼ぶんじゃないよ、気色悪い。あたしはお前の事、一度だって娘だと思ったことはないよ。さっき言った通り、援助金を引き出すための、ただの金づるさ。『いやです』だって? 金づるが、いっちょまえの口きくんじゃないよ。わかったら支度をしな。これから侯爵のところに行くんだ、身ぎれいにしとかないとね」
「う……うぅっ……」
「なんなら、最後に母子ごっこでもするかい? ふふふ、『可愛い娘』を飾り立ててやるよ、『優しいお母さん』がね。ほら、こっちに来な。グズグズするんじゃないよ。ノロマが」
そして私は、お母さんの櫛で髪を梳かれ、うちにある中で、一番きれいなお洋服を着せてもらいました。これまで一度もなかった、母子のふれあいでした。……あまりにも残酷な、最後のふれあいでした。
「リネット、お前とあたし、似てないと思わないかい? 顔立ちはもちろん、体格なんてまるで違うだろう? 疑問に思ったことくらい、あるんじゃないのかい?」
確かに、痩せっぽちの私と違って、お母さんの体格は、男の人にも負けないくらいガッチリしています。しかし、なぜ今、そんな話をするのでしょう。
「似てなくて当然なんだよ。お前は物心がつく前に、あたしが孤児院から引き取った子供だからね。血の繋がりなんてないのさ」
えっ……
「さて、なんであたしが、孤児なんて面倒くさいもんを引き取ったと思う? ……この領地ではね、貧しい母子には、援助が与えられるんだよ。この家だってそうさ。ふふ、社会福祉ってやつかい? いや、立派なもんだよ、我らが豚侯爵様は。おかげで、ろくに働かなくても、それなりの暮らしができたんだから、本当に助かったよ」
「…………」
「でもね、援助の期間は10年。つまり、今年までなのさ。……わかるかい、リネット。お前はもう、用済みなんだよ。しみったれた孤児院から、4歳の陰気臭いガキを引き取って、10年も育ててやったんだ。最後に『捧げもの』になって、その恩を返しておくれ。これこそが、親孝行ってやつだよ」
私は立ち尽くしたまま、涙をこぼしていました。
唇が震えて、うまく言葉が出てきません。
しかしそれでも、なんとか短い言葉を紡ぎ出すことができました。
「い、いやです……私、これからもお母さんと一緒に……」
「お母さんなんて呼ぶんじゃないよ、気色悪い。あたしはお前の事、一度だって娘だと思ったことはないよ。さっき言った通り、援助金を引き出すための、ただの金づるさ。『いやです』だって? 金づるが、いっちょまえの口きくんじゃないよ。わかったら支度をしな。これから侯爵のところに行くんだ、身ぎれいにしとかないとね」
「う……うぅっ……」
「なんなら、最後に母子ごっこでもするかい? ふふふ、『可愛い娘』を飾り立ててやるよ、『優しいお母さん』がね。ほら、こっちに来な。グズグズするんじゃないよ。ノロマが」
そして私は、お母さんの櫛で髪を梳かれ、うちにある中で、一番きれいなお洋服を着せてもらいました。これまで一度もなかった、母子のふれあいでした。……あまりにも残酷な、最後のふれあいでした。
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