お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
4 / 20

第4話

しおりを挟む




 午前中に支度を済ませ、私は一人、侯爵様のお屋敷に向かいました。

 田園地帯を抜け、小さな橋を二つ渡ると、お堀に囲まれた立派な洋館が見えてきました。あれが、侯爵様のお屋敷です。ここまでの道のりはそれなりに複雑なのですが、毎年この時期に、お母さんの作ったお料理を献上しに行くのは私の役目だったので、今ではすっかり道を覚えてしまいました。

 ……でも、今日献上するのはお料理ではなく、私自身。
 そう思うと、もう乾ききったと思った涙が、また溢れてきます。

 このままどこかに逃げてしまおうとは、考えませんでした。14歳になったばかりの学のない小娘が、一人で生きていけるとは到底思えなかったからです。

 いえ、生きていけるといけないとか、そんなことはもう、どうでもよくなっていました。唯一の肉親だと思っていたお母さんから『用済み』と言われ、捨てられた私は、ほとんど捨て鉢になっていたのです。

 私は文字通り、意思を持たぬ『献上品』として、普通にお料理を献上しに来た領民たちの列に並びました。何人かの領民が、やけに着飾っている手ぶらの私を見て、不思議そうに首をかしげましたが、声をかけてくる人はいませんでした。

 領民たちは、受付にいる背の高い男の人に、続々と料理を献上していきます。皆、口をそろえて「今回は特に良い出来です」と言い、顔を綻ばせています。……その中には母子で来ている人もいて、二人は楽しそうに微笑み合っていました。

 胸が痛くて、とても見ていられませんでした。
 私は顔を伏せ、自分の番が来るのを待ちました。

 そして、とうとう私の番がやってきました。

 ありがたいことに……というのも変ですが、私が列の最後尾でしたので、他の領民たちに、自分を捧げものにするところを見られずに済みます。私には自尊心などありませんが、それでも、そういうところを人に見られるのは嫌でした。

 私が何も持っていないことに気が付いた受付の男性が、問いかけてきます。

「お嬢さん、侯爵様への献上品はいかがいたしました?」

 思っていたより、ずっと柔らかい声でした。
 迷子の子供に話しかけるような、穏やかで、優しい声でした。

 私は一度だけ深呼吸をして、淡々と言葉を返します。

「申し訳ありません。私の母は今回、献上品を用意できませんでした。お詫びとして、私の身を『捧げもの』にしたいと思います。さほど価値のある身ではありませんが、どうぞ、いかようにもなさってくださいませ……」

 お母さんに『こう言え』と命じられた通り、私は言いました。

 私はもはや、自分で考える力を持たない人形でした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

公爵閣下、社交界の常識を学び直しては?

碧井 汐桜香
ファンタジー
若い娘好きの公爵は、気弱な令嬢メリシアルゼに声をかけた。 助けを求めるメリシアルゼに、救いの手は差し出されない。 母ですら、上手くやりなさいと言わんばかりに視線をおくってくる。 そこに現れた貴婦人が声をかける。 メリシアルゼの救いの声なのか、非難の声なのか。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...