お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
3 / 20

第3話

しおりを挟む
 そんな私の夢想を打ち砕くように、お母さんは語り続けます。

「リネット、お前とあたし、似てないと思わないかい? 顔立ちはもちろん、体格なんてまるで違うだろう? 疑問に思ったことくらい、あるんじゃないのかい?」

 確かに、痩せっぽちの私と違って、お母さんの体格は、男の人にも負けないくらいガッチリしています。しかし、なぜ今、そんな話をするのでしょう。

「似てなくて当然なんだよ。お前は物心がつく前に、あたしが孤児院から引き取った子供だからね。血の繋がりなんてないのさ」

 えっ……

「さて、なんであたしが、孤児なんて面倒くさいもんを引き取ったと思う? ……この領地ではね、貧しい母子には、援助が与えられるんだよ。この家だってそうさ。ふふ、社会福祉ってやつかい? いや、立派なもんだよ、我らが豚侯爵様は。おかげで、ろくに働かなくても、それなりの暮らしができたんだから、本当に助かったよ」

「…………」

「でもね、援助の期間は10年。つまり、今年までなのさ。……わかるかい、リネット。お前はもう、用済みなんだよ。しみったれた孤児院から、4歳の陰気臭いガキを引き取って、10年も育ててやったんだ。最後に『捧げもの』になって、その恩を返しておくれ。これこそが、親孝行ってやつだよ」

 私は立ち尽くしたまま、涙をこぼしていました。
 唇が震えて、うまく言葉が出てきません。

 しかしそれでも、なんとか短い言葉を紡ぎ出すことができました。

「い、いやです……私、これからもお母さんと一緒に……」

「お母さんなんて呼ぶんじゃないよ、気色悪い。あたしはお前の事、一度だって娘だと思ったことはないよ。さっき言った通り、援助金を引き出すための、ただの金づるさ。『いやです』だって? 金づるが、いっちょまえの口きくんじゃないよ。わかったら支度をしな。これから侯爵のところに行くんだ、身ぎれいにしとかないとね」

「う……うぅっ……」

「なんなら、最後に母子ごっこでもするかい? ふふふ、『可愛い娘』を飾り立ててやるよ、『優しいお母さん』がね。ほら、こっちに来な。グズグズするんじゃないよ。ノロマが」

 そして私は、お母さんの櫛で髪を梳かれ、うちにある中で、一番きれいなお洋服を着せてもらいました。これまで一度もなかった、母子のふれあいでした。……あまりにも残酷な、最後のふれあいでした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

悪役令嬢ですが、副業で聖女始めました

碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の小説の世界だと気がついたミリアージュは、小説通りに悪役令嬢として恋のスパイスに生きることに決めた。だって、ヒロインと王子が結ばれれば国は豊かになるし、騎士団長の息子と結ばれても防衛力が向上する。あくまで恋のスパイス役程度で、断罪も特にない。ならば、悪役令嬢として生きずに何として生きる? そんな中、ヒロインに発現するはずの聖魔法がなかなか発現せず、自分に聖魔法があることに気が付く。魔物から学園を守るため、平民ミリアとして副業で聖女を始めることに。……決して前世からの推し神官ダビエル様に会うためではない。決して。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...