お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
5 / 20

第5話

しおりを挟む
 いきなり『自分の身を捧げものにしたい』などと言い出した私に受付の人が憤慨し、罰を与えられるならそれはそれでいいと思っていました。本当に、もう何もかも、どうでも良かったのです。

 しかし受付の人は、怒ることも、驚くこともしませんでした。
 ただ短く「そうですか、ではこちらへ」と言い、私を連れてお屋敷に入ります。

 驚きました。
 こんなにもスムーズに話が運ぶなんて。

 お母さんは『他の領地じゃ、若い娘を領主に差し出すってこと、結構あるんだよ』と言っていましたが、この領地でも、私が知らないだけで、こういったことは良くあることなのでしょうか。

 そんなことを考えながら、お屋敷の長い廊下を、私は歩いて行きます。
 私を先導していた受付の人が、ちらりとこちらを見て、口を開きました。

「わたくしは当屋敷の執事、シュベールと申します。あなたのお名前と年齢を教えていただいてもよろしいですか?」

 二十代半ばほどのシュベールさんが執事と聞き、少しだけ、ビックリしました。執事という役職に就くのは、それなりに年齢を重ねた男性だと思っていたからです。しかし、私が知らないだけで、世の中には若い執事さんもたくさんいるのでしょう。

 私は聞かれた通り、名前と年齢だけを答えました。

「リネットといいます。年齢は、14歳になったばかりです」

 感情のこもってない、機械的な言葉でした。
 自分自身の心から、魂がなくなってしまったように私は感じていました。

 シュベールさんは、先程と同じように「そうですか」と言うと、もう何を尋ねることもなく、黙々と廊下を歩き続けます。私も、黙々とその後に続きます。

 やがて、廊下の端に来ると、大きな階段を上り、二階の突き当りにある部屋の前に到着しました。美しい装飾が施された、立派なドア。シュベールさんはそのドアを、二回ノックします。

「侯爵様、お客様をお連れしました」

 部屋の中から、ややいかめしい声が返ってきます。

「今日は来客の予定はないはずだが?」

 若い男の人の声でした。
 しばしの沈黙の後、部屋の中にいる男性は、入室の許可を出します。

「……まあいい、入ってくれ」

「失礼いたします」

 そう言ってドアを開けるシュベールさんに続いて、私も部屋に入りました。

 美しい装飾がなされたドアと同様に、美しい部屋でした。壁、床、調度品。どれをとっても粗末なものはなく、私がイメージする『貴族様のお部屋』そのものです。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...