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第13話
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そんなことを思っていると、侯爵様は料理の山の向こうにある祭壇に、祈りを捧げ始めました。すると、寒々としていた地下室の温度が、急に上がっていきます。肌は汗ばみ、呼吸がやや苦しくなるほどでした。
恐らくほんの数秒で、室内全体の気温は10度以上も上昇したと思われます。……室温が上がった理由は、単純明快でした。祭壇に、身長2メートルはある、燃え盛る巨人が現れたからです。彼の発する熱が、部屋全体をサウナのように温めているのでしょう。
侯爵様は燃え盛る巨人に対し、恭しく礼をすると、口上を述べます。
「火の精霊、サンジョールよ。あなたのおかげで、農業、畜産、共に実り多く、豊穣なる一年を過ごすことができた。感謝の気持ちを込めて、ここに献上品を捧げる」
燃え盛る巨人は満足げに頷くと、侯爵様を飛び越え、お料理の山に貪りつきました。その食欲は凄まじく、100人前以上の料理を、たったの数分で食べつくしてしまいます。そして彼は、大きくなったお腹をポンポンと二度叩き、初めからいなかったかのように消えてしまいました。
それによって、急激に温度が下がる地下広間。と言っても、普通の気温に戻っただけなのですが、さきほどまでとの寒暖差で肌寒さを感じた私は、自分の腕を擦るようにしながら侯爵様に言葉をかけます。
「あ、あの、侯爵様。今のは……?」
「我が領地の守護精霊、サンジョールだ」
「守護精霊……?」
「どこの領地にも、邪悪なるものたちから土地を守る精霊がいる。彼らは別に、人間のために土地を守っているわけではないが、それでも我が領地では感謝を込め、年に一回『豊饒の儀式』と称して、守護精霊に好物を献上しているのだ」
「そうだったんですか……私はてっきり、侯爵様が召し上がるのかと……」
「馬鹿言うな。保存がきくものならともかく、あんなに大量の肉料理を、一人で食べられるわけがなかろう。たとえ俺が十人いても、すべて腹の中に入れるのは不可能だ」
「ふふっ、それはそうですね」
侯爵様の仰った『たとえ俺が十人いても』という文言がなんとなくおかしくて、私は微笑しました。……なんだか、久しぶりに笑った気がします。そんな私を見て、侯爵様も微笑しました。
「お前、この屋敷に来て初めて笑ったな。今まではビスクドールのように固まった顔だったが、笑うと別人のようだ」
恐らくほんの数秒で、室内全体の気温は10度以上も上昇したと思われます。……室温が上がった理由は、単純明快でした。祭壇に、身長2メートルはある、燃え盛る巨人が現れたからです。彼の発する熱が、部屋全体をサウナのように温めているのでしょう。
侯爵様は燃え盛る巨人に対し、恭しく礼をすると、口上を述べます。
「火の精霊、サンジョールよ。あなたのおかげで、農業、畜産、共に実り多く、豊穣なる一年を過ごすことができた。感謝の気持ちを込めて、ここに献上品を捧げる」
燃え盛る巨人は満足げに頷くと、侯爵様を飛び越え、お料理の山に貪りつきました。その食欲は凄まじく、100人前以上の料理を、たったの数分で食べつくしてしまいます。そして彼は、大きくなったお腹をポンポンと二度叩き、初めからいなかったかのように消えてしまいました。
それによって、急激に温度が下がる地下広間。と言っても、普通の気温に戻っただけなのですが、さきほどまでとの寒暖差で肌寒さを感じた私は、自分の腕を擦るようにしながら侯爵様に言葉をかけます。
「あ、あの、侯爵様。今のは……?」
「我が領地の守護精霊、サンジョールだ」
「守護精霊……?」
「どこの領地にも、邪悪なるものたちから土地を守る精霊がいる。彼らは別に、人間のために土地を守っているわけではないが、それでも我が領地では感謝を込め、年に一回『豊饒の儀式』と称して、守護精霊に好物を献上しているのだ」
「そうだったんですか……私はてっきり、侯爵様が召し上がるのかと……」
「馬鹿言うな。保存がきくものならともかく、あんなに大量の肉料理を、一人で食べられるわけがなかろう。たとえ俺が十人いても、すべて腹の中に入れるのは不可能だ」
「ふふっ、それはそうですね」
侯爵様の仰った『たとえ俺が十人いても』という文言がなんとなくおかしくて、私は微笑しました。……なんだか、久しぶりに笑った気がします。そんな私を見て、侯爵様も微笑しました。
「お前、この屋敷に来て初めて笑ったな。今まではビスクドールのように固まった顔だったが、笑うと別人のようだ」
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