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第12話
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そこから、しばしの沈黙。……と言っても、せいぜいが十秒ほどのことなのでしょうが、私にとっては、何倍もの長さに感じられました。やがて侯爵様は立ち上がり、こちらまで歩いて来ると、私の細い両肩に手を置きます。
「よぉし、決めたぞ。リネット。今日からお前を、遊戯係として召し抱える。条件は、さっき話した通りだ。給料が少ないといって、後になって文句を言うなよ」
文句など、出ようはずがありません。完全に閉ざされたと思っていた未来が開け、私は文字通り、天にまで昇るような気持ちでした。
執事のシュベールさんも微笑し、私に声をかけてくれます。
「良かったですね、リネットさん。……時に侯爵様、豚肉料理の献上品もすべて集まりましたし、料理が悪くならないうちに、『豊饒の儀式』を済ませてしまいませんと」
「ん? ああ、そうだな。すっかり忘れていた。もう地下に料理は運び終わったのか?」
「あと三皿ほど残っています。今年は特に量が多かったので……」
「そうか。では、その三皿は俺とお前、そしてリネットで運ぶとしよう。リネット、遊戯係とはいえ、お前も侯爵家の使用人の一人となったのだ、多少は雑務をこなしてもらうぞ」
私は力強く頷きました。
「も、もちろんです。私にできる限りのことは、させていただくつもりです」
「ああ、頼む。それじゃ、今から料理を運ぶぞ、ついてこい」
・
・
・
私と侯爵様、シュベールさんの三人は、お料理のお皿を持って、お屋敷の地下へと降りて行きます。その途中、私はどうしても気になって、侯爵様に問いかけました。
「あの、侯爵様。どうしてお料理を地下に運ぶのですか? そこで、お食事をとられるのですか?」
「そうだ。もっとも、『お食事をとられる』のは俺じゃないけどな。それより、注意して運べ、地下への階段は少々滑りやすいからな」
侯爵様のおっしゃる通り、湿気のためか、階段は少しぬめりを帯びているように感じます。私は「はい」と返事をし、以後は足を踏み外さぬよう、集中して一歩ずつ階段を踏みしめて行きました。
そして私たちは、地下の大広間に到達します。
石壁がむき出しになった、どこか寒々しい空間。その中央に、豚肉で作られたごちそうが、山のように用意されています。50人前……60人前……いえ、とてもそんな数ではききません。きっと、100人前以上はあるでしょう。たとえパーティーを開いたって、こんなに食べきれるものではありません。
「よぉし、決めたぞ。リネット。今日からお前を、遊戯係として召し抱える。条件は、さっき話した通りだ。給料が少ないといって、後になって文句を言うなよ」
文句など、出ようはずがありません。完全に閉ざされたと思っていた未来が開け、私は文字通り、天にまで昇るような気持ちでした。
執事のシュベールさんも微笑し、私に声をかけてくれます。
「良かったですね、リネットさん。……時に侯爵様、豚肉料理の献上品もすべて集まりましたし、料理が悪くならないうちに、『豊饒の儀式』を済ませてしまいませんと」
「ん? ああ、そうだな。すっかり忘れていた。もう地下に料理は運び終わったのか?」
「あと三皿ほど残っています。今年は特に量が多かったので……」
「そうか。では、その三皿は俺とお前、そしてリネットで運ぶとしよう。リネット、遊戯係とはいえ、お前も侯爵家の使用人の一人となったのだ、多少は雑務をこなしてもらうぞ」
私は力強く頷きました。
「も、もちろんです。私にできる限りのことは、させていただくつもりです」
「ああ、頼む。それじゃ、今から料理を運ぶぞ、ついてこい」
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私と侯爵様、シュベールさんの三人は、お料理のお皿を持って、お屋敷の地下へと降りて行きます。その途中、私はどうしても気になって、侯爵様に問いかけました。
「あの、侯爵様。どうしてお料理を地下に運ぶのですか? そこで、お食事をとられるのですか?」
「そうだ。もっとも、『お食事をとられる』のは俺じゃないけどな。それより、注意して運べ、地下への階段は少々滑りやすいからな」
侯爵様のおっしゃる通り、湿気のためか、階段は少しぬめりを帯びているように感じます。私は「はい」と返事をし、以後は足を踏み外さぬよう、集中して一歩ずつ階段を踏みしめて行きました。
そして私たちは、地下の大広間に到達します。
石壁がむき出しになった、どこか寒々しい空間。その中央に、豚肉で作られたごちそうが、山のように用意されています。50人前……60人前……いえ、とてもそんな数ではききません。きっと、100人前以上はあるでしょう。たとえパーティーを開いたって、こんなに食べきれるものではありません。
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