お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
14 / 20

第14話

しおりを挟む
「あ、その、失礼しました……侯爵様の御前で、表情を崩したりして……」

「失礼なものか。いつまでも硬い表情をされているよりずっといい。俺は無礼者は嫌いだが、あまりにも慇懃な態度を取られるのも好きじゃないからな。無理に態度を崩せとは言わないが、これからはもっと自然に振る舞え、わかったな」

「はい……」

 こうして、私の侯爵家での生活が始まったのでした。





 私の役職は遊戯係ですが、それでも使用人の一人ではありますから、侯爵様のマブドのお相手だけではなく、他の使用人の方々のお仕事を手伝うことも多々ありました。

 中にはかなりの力仕事もあり、体力と腕力に自信のない私には大変でしたが、少しも苦ではありませんでした。侯爵家の方々は皆親切で、私がお手伝いをすると、凄く褒めてくれるのです。

 実家では、どれだけ家事をしても褒められることのなかった私にとって、それはとても新鮮で、幸福な体験でした。そんな日々を過ごすうち、何事にも消極的だった私も、少しずつ変わり始めました。

 自分から率先して行動し、思ったことは何でも口にするようになったのです。自分から心を開かないと、誰とも信頼関係を築けないと悟ったからです。……もうちょっと早くそのことに気がついていたら、あるいは、お母さんとも本当の母子になれたかもしれません。今さら言っても仕方のないことですが。

 こうして、侯爵家の使用人として過ごすうち、私はあることを疑問に思いました。侯爵様は、領地視察をなさらないのです。私がこのお屋敷に来てもう三ヶ月も経つというのに、ただの一度も領地を見て回らないのは、さすがに不思議で、私はその疑問を直接侯爵様にぶつけました。

「侯爵様は、どうして領地視察をなされないのですか?」

 侯爵様はマブドの準備をしながら、事も無げに言います。

「別に、する必要がないからだ。部下からの報告でだいたいのことはわかるしな」

「でも、執事のシュベールさんは仰っていました。『報告を聞くのと実際に見るのは違うから、侯爵様はもう少し領民たちの意見をじかに聞いてほしい』って」

「ちっ、あいつめ。余計なことを。……まあいい、この際だ、ハッキリ言っておこう。俺は父の後を継ぎ領主をやっているが、ここの領民たちのことは、あまり好きではないのだ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

処理中です...