悪役令嬢、追放されたら婚約者も攻略対象も全員ついてきたんですが?

ゆっこ

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 聖騎士団とレティシア一行が対峙した広場は、一触即発の緊張に包まれていた。

「レティシアを連れて行くつもりなら、ここで止める」

 アレクシスが真っ直ぐに剣を構える。王太子でありながら、今や彼は一人の男として、彼女の前に立っていた。

「やれやれ。こうなるとは思ってたけど……どうして僕は、面倒な女の子に惚れちゃったんだろうね」

 ユリウスはひらりとマントを翻し、笑みを浮かべながら魔法陣を展開する。

「レティシア様……僕は、あなたが選ばなくても、守り抜く」

 ノアは震える剣を握り締めて、彼女の横に並んだ。

「私の剣は、いつでもあなただけのものです」

 シリウスは淡々と、だがその瞳に燃えるような決意を宿して、彼女の前へ進み出る。

「全員、前へ。……レティシアを護れ」

 ロランの号令で、仲間たちは一斉に動いた。

 そしてレティシアも、ただ守られるだけではない。

 彼女は、右手に光の剣を召喚した。

「フィオナ……あなたが望んだ戦いに、私も全力で応えるわ!」

 その声とともに、戦いが始まった。

 

 



 戦闘は激しくも、決して破壊的ではなかった。レティシアたちは、相手を傷つけることなく制圧する技術を駆使し、次々に聖騎士たちを無力化していった。

 そして数分後――

 フィオナは、レティシアの剣先を前に、静かに立っていた。

「……やっぱり、あなたには敵わないのね」

 涙はなかった。ただ、敗北を受け入れる瞳。

「私……誰かに愛されたかったの。ただ、それだけだったのよ」

「フィオナ……」

 レティシアは剣を収め、ゆっくりと彼女に近づいた。

「あなたは、誰よりも人を求めていた。でも……人を愛するには、まず自分自身を認めなきゃいけなかったのよ」

「私に、それができると思う?」

「できるわ。これからよ。今度はあなた自身の物語を生きて」

 静かに差し出された手を、フィオナは迷いながらも取った。

「あなたって、本当にずるい」

 そう言って、微笑んだ。

 そして――この戦いは、誰一人として欠けることなく終わった。

 

 




 それから数週間後。

 王都では裁定が下された。

 フィオナは“聖女の力”の真偽が改めて調査され、その結果、一部の加護は持つものの、王国に必要な“調和の光”を持つ者ではないと判断された。

 その一方で、レティシアには再び「王族顧問」としての称号が与えられたが、彼女はそれを丁寧に辞退した。

「私はもう、“地位”や“役割”に生きるつもりはないの。私自身として、愛する人のそばにいたい」

 その言葉に、王宮の誰もが黙した。

 

 




 春の風が辺境の小さな村を吹き抜ける。

 レティシアは、その村で新しい生活を始めていた。時折、困っている人々を助けながら、薬草を摘んだり、空を見上げたりする日々。

 そしてその隣には――

「……レティシア、今日は風が強い。花粉が舞ってるから、無理をするな」

「ふふ、ありがとう。相変わらず心配性ね、シリウス」

 そう、彼女が選んだのは、シリウス=クローネだった。

 旅の中で幾度となく命を守られたこともある。だが、それだけではなかった。

 彼は言葉少なでも、どんなときも信じてくれた。

 どれほど人に否定されても、どれほど傷ついても――彼だけは、黙って寄り添ってくれた。

「あなたとなら、どこででも生きていける。……そう思ったの」

「俺も……お前と共に老いていけるなら、それ以上は望まない」

 風に揺れる金髪と黒髪が重なり、ふたりはそっと額を寄せ合った。

 そのとき、後ろから声が飛ぶ。

「レティー! 今夜、みんなでワイン飲もうよ!」

 振り向けば、ノアとユリウス、フェリクス、そしてアレクシスまでもが笑いながら手を振っていた。

 それぞれの道を歩み始めた彼らも、なぜかこの村に“頻繁に”立ち寄るようになっていた。

 大切なものがここにあると、皆、知っているから。

「ほんとに……困った人たちね」

「それでも、家族みたいなもんだろう」

「……ええ。大切な家族」

 そして、隣にいるこの人は――

「大切な恋人よ」

 レティシアは微笑み、シリウスの手をそっと握り返した。

 もう誰にも傷つけられない。

 もう誰かに媚びて生きることもない。

 自分の心に正直に、愛した人と共に、笑って生きていく。

 それが、彼女が選んだ「物語の終わり」――

 いや、「本当の始まり」だった。

 
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