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私は散らかったままになっている部屋にオリバーを連れてきた。
「散らかってるけど、気にしないで。そこの椅子に座ってて」
「う、うん……」
オリバーは、まずいことになった、どうしよう、という困りきった顔で、疲れ果てているようにも見えた。そんなに落ち込むんだったら、最初から姉なんて相手にしなかったらよかったのに。婚約者の私がいるくせに。
「私たちって、婚約してるよね?」
「そ、そうだよ」
「オリバーは自分でなんて言って結婚の約束をしたか覚えてる?」
オリバーは無言でうつむいている。
「はあ? 覚えてないの?」
「そんなことないよ。ちょっと待っててね、思い出すから……」
なんだか自分が情けなくなってきた。
私という人間を初めて愛してくれた人。そう思っていた。
姉や両親との苦痛の日々がフラッシュバックしてくる。
オリバーへの怒りが爆発しそうだけど、
ここは冷静にならなくてはいけない。
「オリバー。あなたはこう言ったの。『君だけを見て、大切にする。絶対に幸せにする』」
「う……うぅ。ごめんね、思い出した」
オリバーから涙が出てきた。
泣いたってしかたないじゃない。
どうしてこうなる前に、引き返せなかったの?
「あなたが大切なのは、私じゃなくてソフィア?」
「ちがう! それはちがうよ!」
はあ……私は知ってるのよ。
オリバーは姉と話すとき、目を輝かせている。心の底から楽しそう。
あの日だって、姉と二人で荷物を運べると知って喜んでいた。
嘘じゃないなら、どうして涙が出てくるのよ。
はっきりと、真実を言えばいいだけじゃない。
どうすればいいのかな。
オリバーとはこのままお別れしたい気持ちもある。でも、もしお別れしたとしたら、私はこれからもこの家で両親と姉と暮らさなくちゃいけない。姉は婚約を破棄されたわけだし、両親はさらに必死になって姉の結婚相手を見つけようとするだろう。そうなれば、私はどうなる……? オリバーのような伯爵家の人とまた巡り会える? 王家を裏切った伯爵家のなんの取り柄もない娘と結婚してくれる人は他にいる?
……やっぱりこのままの関係でいよう。私の婚約が破棄されたわけじゃないし。ただ、黙ってはいられない。なにかいい仕返しはないのかな……。一発グーパンチをかましとく?
しばらくの沈黙のあと、急にオリバーが椅子から降りて、地面に頭をつけた。
「エミリー、ほ、本当にごめん!!! エミリーのことを傷つけてしまったし、エバンズ家を大変な事態にしてしまって……」
うおっ……私はびっくりしてしまった。
純粋に謝罪してきたことが意外だった。
でも……ここで簡単に許してしまっていいのか?
いったん私はオリバーに近寄り、オリバーの頭を持ち上げた。
するとオリバーは、
「俺にはエミリーしかいないんだ! エミリーと結婚して、一生一緒にいたい! ずっと守り続けます! お願いします」と言った。
こんなふうに言われるのは初めての経験だった。一人の人間に、強く必要とされている。求められている。オリバーの目が私の存在を射止めている。そうか、私は姉の手に入れるものがほしかったんじゃなくて、私を求めてくれる人がほしかったんだ。
「……今度浮気したら許さないからね」
私はオリバーを許してしまった。
少なくとも姉からの誘惑もあったわけだし、オリバーだけの責任じゃない。
こうして必死に謝罪してくれるってことは、気持ちが残っているってことよね?
なんかすっきりした。
「エミリーのことずっと大切にするから! ありがとう」
オリバーはただでさえ泣いていたのに、さらに泣き始めた。
今まで知らなかったけど、涙もろい人なのかな。
「もう! 泣きすぎだよ! ほら、涙を拭くよ!」
私はオリバーの顔にハンカチを当て、涙を拭いてあげた。
オリバーは何度も「ありがとう」と言いながら、笑顔を見せていた。
私も自然な笑顔になった。
私はまだ、この時にはやり直せると信じていた。
話し合い、向き合うことをやめなければ、私には平凡な結婚生活が手に入る。
そう信じていたのに……それは大きな間違いだったと知ることになる……
「散らかってるけど、気にしないで。そこの椅子に座ってて」
「う、うん……」
オリバーは、まずいことになった、どうしよう、という困りきった顔で、疲れ果てているようにも見えた。そんなに落ち込むんだったら、最初から姉なんて相手にしなかったらよかったのに。婚約者の私がいるくせに。
「私たちって、婚約してるよね?」
「そ、そうだよ」
「オリバーは自分でなんて言って結婚の約束をしたか覚えてる?」
オリバーは無言でうつむいている。
「はあ? 覚えてないの?」
「そんなことないよ。ちょっと待っててね、思い出すから……」
なんだか自分が情けなくなってきた。
私という人間を初めて愛してくれた人。そう思っていた。
姉や両親との苦痛の日々がフラッシュバックしてくる。
オリバーへの怒りが爆発しそうだけど、
ここは冷静にならなくてはいけない。
「オリバー。あなたはこう言ったの。『君だけを見て、大切にする。絶対に幸せにする』」
「う……うぅ。ごめんね、思い出した」
オリバーから涙が出てきた。
泣いたってしかたないじゃない。
どうしてこうなる前に、引き返せなかったの?
「あなたが大切なのは、私じゃなくてソフィア?」
「ちがう! それはちがうよ!」
はあ……私は知ってるのよ。
オリバーは姉と話すとき、目を輝かせている。心の底から楽しそう。
あの日だって、姉と二人で荷物を運べると知って喜んでいた。
嘘じゃないなら、どうして涙が出てくるのよ。
はっきりと、真実を言えばいいだけじゃない。
どうすればいいのかな。
オリバーとはこのままお別れしたい気持ちもある。でも、もしお別れしたとしたら、私はこれからもこの家で両親と姉と暮らさなくちゃいけない。姉は婚約を破棄されたわけだし、両親はさらに必死になって姉の結婚相手を見つけようとするだろう。そうなれば、私はどうなる……? オリバーのような伯爵家の人とまた巡り会える? 王家を裏切った伯爵家のなんの取り柄もない娘と結婚してくれる人は他にいる?
……やっぱりこのままの関係でいよう。私の婚約が破棄されたわけじゃないし。ただ、黙ってはいられない。なにかいい仕返しはないのかな……。一発グーパンチをかましとく?
しばらくの沈黙のあと、急にオリバーが椅子から降りて、地面に頭をつけた。
「エミリー、ほ、本当にごめん!!! エミリーのことを傷つけてしまったし、エバンズ家を大変な事態にしてしまって……」
うおっ……私はびっくりしてしまった。
純粋に謝罪してきたことが意外だった。
でも……ここで簡単に許してしまっていいのか?
いったん私はオリバーに近寄り、オリバーの頭を持ち上げた。
するとオリバーは、
「俺にはエミリーしかいないんだ! エミリーと結婚して、一生一緒にいたい! ずっと守り続けます! お願いします」と言った。
こんなふうに言われるのは初めての経験だった。一人の人間に、強く必要とされている。求められている。オリバーの目が私の存在を射止めている。そうか、私は姉の手に入れるものがほしかったんじゃなくて、私を求めてくれる人がほしかったんだ。
「……今度浮気したら許さないからね」
私はオリバーを許してしまった。
少なくとも姉からの誘惑もあったわけだし、オリバーだけの責任じゃない。
こうして必死に謝罪してくれるってことは、気持ちが残っているってことよね?
なんかすっきりした。
「エミリーのことずっと大切にするから! ありがとう」
オリバーはただでさえ泣いていたのに、さらに泣き始めた。
今まで知らなかったけど、涙もろい人なのかな。
「もう! 泣きすぎだよ! ほら、涙を拭くよ!」
私はオリバーの顔にハンカチを当て、涙を拭いてあげた。
オリバーは何度も「ありがとう」と言いながら、笑顔を見せていた。
私も自然な笑顔になった。
私はまだ、この時にはやり直せると信じていた。
話し合い、向き合うことをやめなければ、私には平凡な結婚生活が手に入る。
そう信じていたのに……それは大きな間違いだったと知ることになる……
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