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宰相のバイロンに教えてもらった情報をもとに、私もクリフォード様の生活を調べた。すると、クリフォード様は月に三度、定期的に狩りに出かけることがわかった。
夜、私はクリフォード様の部屋へ行った。
「クリフォード様、お話があって来ました」
クリフォード様はワインを片手に弓を並べて、森の地図を見ていた。明日の狩場を選んでいるのだろう。
「なんだいエリザベス。明日の狩りの計画を立てるので忙しいのだが……」
「私も狩りに連れて行ってくださいませんか?」
クリフォード様は地図を見るのをやめて、私の目を見た。
「いったいどういう風の吹き回しだい? 極力関わらないでくれとお願いしたはずだが?」
「狩りに出かけるのは……愛しい人と会うためなのでしょう?」
クリフォード様は目を見開いて、そわそわした。
「僕のことを……非難しに来たのか? 父上に告発するつもりか?」
「そのようなつもりはありません。私は王太子妃ですよ。クリフォード様の味方です。だからこそお力になりたいのです」
「どういうこと?」
「クリフォード様が平民の方を愛しているという事実がもし広まれば、王太子としての立場は危うくなるでしょう。私が狩りに帯同することで、城の人たちの目をあざむけるのではないでしょうか?」
「なるほど……。まさか王太子妃といるのに愛人と会っているなど思いもよらないからね。君はそれでいいのかい?」
「私は……王太子妃として、クリフォード様を国王にしたいのです。利害は一致しているでしょう?」
クリフォード様はテーブルに肘をつき、手で顎を支えながら私を見つめた。私を見定めているかのような、信じるに値するのか考えているかのような、少し虚ろな目だった。
「――いいだろう。その提案に乗ろう。ただエリザベス……君は物分りがよすぎるね。そこが怖いよ」
「……私もクリフォード様が怖いです。平民と森の中で逢瀬を重ねるなど、よくなさいますね。国王になりたくないのですか?」
「エリザベス。君は目の前に欲しいものがあれば迷わず掴める女性なのだろうね。僕とは違う。……国王なんて……愛の前には無意味さ」
クリフォード様は新しいワイングラスを棚から出して、私の目の前に置いた。ゆっくりワインを注ぎ「君も飲みなよ」と言った。
「大変嬉しいのですが、クリフォード様の貴重なワインなのでは……?」
クリフォード様は私の質問には答えず、(かまわないから)という目をしてワインを差し出してきた。
「エリザベスは……恋をしたことがあるのかい?」
「いえ……幼い頃より王妃教育を受け、王妃になるために生きてきただけですので……」
「実際の僕を見てどうだい? 君が人生をかけるに値する男に見える?」
「……はい、そう思っております」
クリフォード様は高笑いをした。
「嘘だね! 君は王太子妃という身分に恋しているだけだ! おめでとう。君は王太子妃になった。では次はどうする? 王妃になったとしよう。次はどうする?」
クリフォード様は私を質問攻めにし、顔を近づけてきた。決して騙されないぞという挑戦に満ちた表情をしている。私の目の前に、クリフォード様の透き通るような青い瞳とキリッとした眉が現れた。
「正直……わかりません。私は王太子妃になったばかりです。クリフォード様のためにできることをするのが務めです」
クリフォード様はため息をつき、また地図を手に取った。椅子に腰掛けて地図に印をつけながら「もう下がっていいよ」と言った。私はクリフォード様を不快にさせてしまったのだろうか……? どうすればよかったのだろう。恋をしたことがあると答えれば、お気に召したのだろうか。
「かしこまりました……失礼します……」
部屋を出ようとしたとき、クリフォード様が私に言った。
「君は……青色と黒色なら、どっちが好き?」
夜、私はクリフォード様の部屋へ行った。
「クリフォード様、お話があって来ました」
クリフォード様はワインを片手に弓を並べて、森の地図を見ていた。明日の狩場を選んでいるのだろう。
「なんだいエリザベス。明日の狩りの計画を立てるので忙しいのだが……」
「私も狩りに連れて行ってくださいませんか?」
クリフォード様は地図を見るのをやめて、私の目を見た。
「いったいどういう風の吹き回しだい? 極力関わらないでくれとお願いしたはずだが?」
「狩りに出かけるのは……愛しい人と会うためなのでしょう?」
クリフォード様は目を見開いて、そわそわした。
「僕のことを……非難しに来たのか? 父上に告発するつもりか?」
「そのようなつもりはありません。私は王太子妃ですよ。クリフォード様の味方です。だからこそお力になりたいのです」
「どういうこと?」
「クリフォード様が平民の方を愛しているという事実がもし広まれば、王太子としての立場は危うくなるでしょう。私が狩りに帯同することで、城の人たちの目をあざむけるのではないでしょうか?」
「なるほど……。まさか王太子妃といるのに愛人と会っているなど思いもよらないからね。君はそれでいいのかい?」
「私は……王太子妃として、クリフォード様を国王にしたいのです。利害は一致しているでしょう?」
クリフォード様はテーブルに肘をつき、手で顎を支えながら私を見つめた。私を見定めているかのような、信じるに値するのか考えているかのような、少し虚ろな目だった。
「――いいだろう。その提案に乗ろう。ただエリザベス……君は物分りがよすぎるね。そこが怖いよ」
「……私もクリフォード様が怖いです。平民と森の中で逢瀬を重ねるなど、よくなさいますね。国王になりたくないのですか?」
「エリザベス。君は目の前に欲しいものがあれば迷わず掴める女性なのだろうね。僕とは違う。……国王なんて……愛の前には無意味さ」
クリフォード様は新しいワイングラスを棚から出して、私の目の前に置いた。ゆっくりワインを注ぎ「君も飲みなよ」と言った。
「大変嬉しいのですが、クリフォード様の貴重なワインなのでは……?」
クリフォード様は私の質問には答えず、(かまわないから)という目をしてワインを差し出してきた。
「エリザベスは……恋をしたことがあるのかい?」
「いえ……幼い頃より王妃教育を受け、王妃になるために生きてきただけですので……」
「実際の僕を見てどうだい? 君が人生をかけるに値する男に見える?」
「……はい、そう思っております」
クリフォード様は高笑いをした。
「嘘だね! 君は王太子妃という身分に恋しているだけだ! おめでとう。君は王太子妃になった。では次はどうする? 王妃になったとしよう。次はどうする?」
クリフォード様は私を質問攻めにし、顔を近づけてきた。決して騙されないぞという挑戦に満ちた表情をしている。私の目の前に、クリフォード様の透き通るような青い瞳とキリッとした眉が現れた。
「正直……わかりません。私は王太子妃になったばかりです。クリフォード様のためにできることをするのが務めです」
クリフォード様はため息をつき、また地図を手に取った。椅子に腰掛けて地図に印をつけながら「もう下がっていいよ」と言った。私はクリフォード様を不快にさせてしまったのだろうか……? どうすればよかったのだろう。恋をしたことがあると答えれば、お気に召したのだろうか。
「かしこまりました……失礼します……」
部屋を出ようとしたとき、クリフォード様が私に言った。
「君は……青色と黒色なら、どっちが好き?」
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