綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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キミからの返事は、いつまででも待てるよ。

愛しのキャンパスライフ

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大生だい!」
祥太郎しょうたろう先輩!」

 両手を広げて待っている先輩の胸へ飛び込みたい気持ちでいっぱいだけれど、さすがにここではできないと、少し距離を空けてハグを返した。
 空気を抱きしめているのも変だから、すぐにやめて先輩の横に立つ。

「ハグしないんだ?」
「だってみんないるじゃないですか」
「じゃあ後で?」
「後で、です! ふたりのときに!」

 待ち合わせ場所にしていたキャンパス内のカフェは、学生たちで賑わっていた。お昼時を避けたけれど、座れるまでにはまだ時間がかかりそう。
 僕は先輩にぴったりくっつくようにして、列に並んだ。
 
「まさかこんな大学生活が送れるとはな」
「ふふ、頑張って良かったです」

 手紙をもらってすぐ、僕は祥太郎先輩と付き合うことになった。
 それから後を追うように同じ大学を受験し、僕はこの春から大学生だ。
 さすがに学科は違うけれど、こうして先輩と同じキャンパス内にいられることが嬉しい。

 時間が合うときは一緒に食事したり、お互いの家に泊まることもある。 

 僕とは違って先輩はバイトをしているから、帰りが遅い日もあるけれど、そんなときは僕は先に先輩の家にいて、彼の帰りを待つこともある。
 同棲しているみたいで、それもすごく嬉しい。

 先輩にもたれながら服の匂いをさり気なく嗅ぐと、すぐにバレて笑われた。

「それは後でふたりのとき、じゃないんだ?」
「これはいいんです」

 ぷうと頰を膨らませると、そこを先輩に指先でつつかれる。
 ああ、ただカフェのために並んでいる時間さえも、こんなに幸せで良いのだろうか。

「先輩って、すごいですね」
「ええ?」
「この時間もすごく楽しくて幸せです」
「……大生、可愛すぎ」

 先輩とイチャイチャしながら待っていると、思ったよりも早く席に案内された。
 最近できたばかりのこのカフェは、内装が綺麗なのもあって、男子より女子の利用が多い。
 学食よりも、こっちのほうが圧倒的にオシャレだしね。
 
 女子が多い中で、僕が甘いものが好きだからと、先輩は何の抵抗もなく一緒に行ってくれるからありがたい。

「待つので疲れてない? この後も講義あるのに」
「大丈夫です。楽しいと嬉しいと幸せしかないです!」
「あ、嬉しいが増えてる」
「へへ」

 店内に入ると予め決めていたドリンクをレジで注文して先にお会計を済ませた。
 当たり前にさらりと先輩が支払ってくれ、それにもときめく。

「僕も先輩に奢りたいです!」
「ははっ、じゃあバイト始めたらね」

 そんな会話をしながら空いている席に向かい合って座ったとき、隣の席もちょうど空いてすぐに女子ふたりがそこへ座った。
 これで左右どちらの席も女子だけになり、やはり気まずさと申し訳なさもある。

 そんなことを思いながら、運ばれてきたドリンクを前に写真を撮っていると、隣に座ったばかりの女子たちが「祥太郎じゃん!」と声を上げた。

 せっかく楽しかったのに、またかと思ってしまう。前に先輩とカフェに行ったときも、女子の先輩に話しかけられたことがあったっけ。
 せっかく僕との時間なのに、と面白くなくなり俯いて顔を顰めた。
 心が狭くて余裕もなければ、可愛げもない自分が嫌になる。

「あれ、もしかして……」

 このまま席をくっつけよう! だとか、くっつけなくても一緒に話そう! だとか、そういうことが続くだろうと思っていたのに、先輩の友人ふたりは彼に話し続けることはなく、俯いている僕の顔を覗き込んできた。

「うわあ!」

 びっくりして顔を上げると、バランスを崩して椅子がガタンと大きな音を立てた。

「噂の後輩ちゃんじゃない……?」
「待って、やばい。目がくりくりだし、私らのまつエクよりまつ毛長いじゃん」

 至近距離から見つめられ、恥ずかしさから頰の熱が上がる。
 先輩に助けてと視線を送ると、ふっと笑われた。

「そうそう。可愛いでしょ?」

 女子の先輩と一緒になって、祥太郎先輩も僕の顔をまじまじと見つめる。

「噂って何ですか……」

 消え入りそうな声で尋ねると、女子の先輩たちはごめんと言って離れ、それから祥太郎先輩のスマホを奪い、顔認証で解除した。
 されるがままの先輩に戸惑いながら見ていると、その女子の先輩たちはとあるフォルダを開き、僕の目の前に勢いよく差し出した。

「えっ……」

 見れば、僕の写真だけのフォルダだった。引いてしまいそうなくらい、たくさんの写真が並んでいる。

「これ! これをね、それはもう毎日のように見せられてね、可愛いでしょ? 可愛いでしょ? って聞いてくるの」
「……ええ」

 何てことをしているのかと先輩を見れば、「可愛いよなあ」と馬鹿みたいなことしか言わない。
 先輩に可愛いと言われるとたまらなく嬉しいけれど、これは違うのでは?
 
 写真をよく見れば、いつ撮られたか分からないものもある。盗撮じゃん!

「さすがに毎回見せられるのは鬱陶しいって思っちゃったときもあったけど、実物を見たら分かる。可愛すぎる。毎日愛でても飽きないね」
 
 僕の許可なく女子の先輩は頬に触れ、「赤くなって可愛いね~」と軽く摘んできた。

 いくら先輩とはいえ、1歳差なのに、初対面なのに、と少し失礼な気もしたけれど、これだけ祥太郎先輩が僕の話ばかりしてくれていたんだと、じわじわ実感が湧く。

 離れている期間に不安になった時期もあったけれど、先輩の言っていた通り、僕のことしか考えていなかったんだ。

 思わずにやけてしまいそうになるのを必死にこらえ、口元をもごもごと動かすと、たったそれだけのことでふたりは「きゃー! 可愛い!」と声を上げた。

「後輩くんは、確か大生くんだったよね?」
「……はい」
「可愛いね。お姉さんたちと遊ばない? 連絡先交換しようよ」

 ふたりは祥太郎先輩をそっちのけで僕のほうへスマホを差し出した。

「さすがにそれはダメでしょ」

 戸惑っているとようやく祥太郎先輩が口を出し、ふたりと僕の間に入ってくれた。

「祥太郎うざ」
「うざくない。大生は俺のなの」
「俺のではなくない? そんな権利、祥太郎にないでしょ」

 ぶつぶつ文句を言うふたりに対して、祥太郎先輩は余裕の笑みを浮かべると、「権利あるんだよね」と呟いた。

「はあ? 何で?」
「大生は俺の恋人だから」
「……マジ?」

 一瞬だけ、しんと沈黙が広がり、握りしめた手にさらに力を込めた。
 祥太郎先輩の突然の発言にパニックになり、怖くて女子の先輩の顔を見ることができない。

 そんなにあっさり言ってしまって大丈夫なの? と、目に涙が滲んだ。

「うわあ……マジか。ずる……」

 それなのに、聞こえてきた声は予想とは違うものだった。
 ゆっくり顔を上げて確認すると、ふたりは祥太郎先輩を睨んでいた。

「じゃあ毎日私らに惚気てたってこと?」
「紹介するだけして、私らにチャンスはないってこと?」
「そうだね。惚気てただけだね」

 ふたりは僕たちが同性なのに恋人であることには何の疑問も持っていないようだった。
 この状況にかたまっているのは僕だけで、3人はこれまで通りのテンションで会話を続けている。
 
 以前に先輩とカフェにいて、女子の先輩に話しかけられたときとは全然違う。
 先輩は僕のことを恋人だと紹介して、それが当たり前に受け入れられたんだ。

「でもさ、大生くんが良いなら別に私らと遊ぶのは良くない?」
「だからダメだって」
「祥太郎、心狭すぎ。束縛男は嫌われるよ」

 けらけらと笑いながらふたりが僕を見る。
 それから「そうだよね?」と共感を求められた。
 でも僕は、みんなよりももっと前の部分で止まったまま噛み締めているから、祥太郎先輩のことで頭がいっぱいになってしまっている。

 連絡先を交換しないで済むようなうまい返事を考えようとか、いったんは受け入れてその後に考えようとか、そういうことが何も浮かばない。

「……祥太郎先輩が好きなので、嫌いになることないです」

 口から出てきた言葉は、何の捻りもない、ただの僕の素直な気持ちだった。
 これを言われた相手がどう思うかなんて、それももちろん考えていなくて、発言してから後悔して恥ずかしくなったけれど、今さら取り消しもできない。

「ねえやばいって、可愛すぎでしょ」
「祥太郎さ、こんなに良い子は他にいないから大事にしなよ」
「言われなくてもそうするわ」

 良いものを見た、と言いながらふたりは氷が溶けてしまったジュースを飲み干し、次の講義があるからと立ち上がった。
 時計を見ると思ったより時間が過ぎていて、僕たちも慌てて飲み干すとふたりに続く。

「大生くん、もし構内で会ったときはお姉さんたちとお茶してくれる?」
「祥太郎の面白エピソードとか教えてあげるからね」

 最後にふたりは僕の頭を優しく撫で、それから祥太郎先輩と一緒に反対方向へと行ってしまった。
 どうやら祥太郎先輩は、そのふたりと一緒の講義のようだ。
 同じ学年で同じ学科だったら一緒に講義を受けられたのかなと羨ましさはあったけれど、女子に囲まれている先輩を見ても不安や嫉妬心はもうこれっぽっちもなかった。





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