綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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拝啓、愛しのキミヘ。そろそろ正直になりませんか。

ラブレターの送り主

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「慧司、付き合うの? 正面の子と、いい感じだったじゃん」

 このまま会話もなく自室に入るのは違う気がして、リビングに入るなり慧司に尋ねた。

「正面? ああ……」

 楽しそうに見えたのに、慧司はどうでもいいような顔をする。
 慧司は鞄を床に置くと前髪をかきあげ、「付き合ってほしいの?」と質問で返した。

「付き合ってほしいとかじゃなくて、お前がどうしたいかだろ」
「だから何でお前はいつもそうなわけ? いつになったら正直に答えるんだよ」

 ここまでしてもそんな態度なのかと、慧司がイライラした様子を見せた。
 またはっきりしないことを言う。棗さんが言っていたことと関係しているのだろうか。

「もういいわ、はっきり言う。俺が悪いからいつまで経っても大真は何も言わねえんだもんな」
「……はあ?」

 慧司はいったん自室に戻ると、部屋から何かを持って来た。

「……え、」

 目の前に出されたそれは、高校3年生のときに、俺が彼に送った手紙だった。
 少し汚れたからか、以前より糊のあとが目立っているように思う。
 でも、どうしてこれを今出すんだ?

「慧司、まだ取ってたんだ」
「だって送り主がずっと隣にいるからな」
「は? え、ええっ!?」
「俺はずっと、直接言ってほしかったよ。あそこまで熱烈なラブレターを書くなら、最後まで責任持てよ。勝手に諦めんな馬鹿」

 まあ言いやすい環境を作り出せなかった俺も悪いけど、と慧司は封筒から手紙を取り出した。

「まさか、書いたこと忘れてねえよな? 読み上げるぞ」
「……やめろ!」

 一言一句覚えているわけではないけれど、恥ずかしいくらい素直な気持ちを書いた。ここで読まれたら耐えられない。

 俺は手紙を取り上げようと手を伸ばすと、バランスを崩したまま慧司にぶつかった。

「ってえ」

 ふたりで床に倒れ込む。カーペットも何も敷いていないから、火照った身体に冷たさがしみる。

「ごめん!」

 慌てて離れようとする俺を慧司は背中に手を回し引き止めると、じっと見つめた。
 緊張でじわりと汗をかき余裕のない俺とは違い、いつでもかっこいいままの慧司に緊張が増す。

 そういえば、送り主が俺だと知っていて、ルームシェア……離れないで済む選択を提案したのか?
 これまで分からなかった慧司の言動が繋がる。
 俺が始めたって、手紙のこと?
 それにこの状況でも慧司が俺を拒否しないのは……。

「大真、分かった?」
「なん、で」
「見たことないくらい顔が赤くなってる」

 けらけらと笑った慧司は、俺の後頭部に手を回すとゆっくりと引き寄せた。

 優しくキスをされ、頭が真っ白になる。

「え……っ、」
「俺は匿名でなんか伝えない。ちゃんと聞いとけよ」

 起き上がった慧司は、改めて俺を抱きしめ直すと、それから耳元で「お前が好きだ」と囁いた。

「待って、やばい、うそ……」
「嘘だと思うか」
「だって、さあ……」

 俺のその反応がいけなかったようで、慧司は俺を押し倒すと再度キスをした。
 何度も唇が重ねられ、呼吸のタイミングが分からない俺は、みっともない声が出てしまう。
 しばらく続けた後で、慧司は俺の首筋に吸い付いた。

「いっ……て、」
「現実だって証拠がほしいみたいだからな」

 ニヤニヤと笑う慧司に、まさか! と思い洗面所へ走ると、鏡に赤い印が写っていた。

「お前、これ! 何して……っ」
「信じないのが悪いだろ。どうせすぐに消えるよ」
「……えっ」
「あ? それはそれで嫌なんだ。我が儘だな」

 俺の横に並び、慧司はキスマークを指でなぞる。

「俺にも付ける?」
「……いい」
「で、現実だって分かった?」
「……分かった」

 慧司は笑いながら、ちゅっと俺の頬にキスをした。

「待って、キス多くないか?」
「これで?」
「これでって……」
「俺はずっと大真としたかったよ」

 慧司が俺の頬を両手で包むと、鼻や額に甘いキスを落とす。
 今までとはあまりにも違いすぎる雰囲気に恥ずかしさがピークを超え、慧司から視線を逸らすと、真っ赤な顔をした自分が鏡で見えてしまった。

「大真……」
「けい、し、待って」
「もう待てない」

 思わず胸元を押し軽く突き飛ばすと、慧司は抱きしめるのをやめ、俺の両手を握り手の甲にキスをした。

「お前は俺とのあれこれ、想像しなかったの?」
 
 珍しく余裕のない顔で、慧司が俺を見つめる。
 ……想像? したに決まってる。したからこそ、この現実をうまく受け入れられないんだろうが。

「……した」
「何を想像した?」
「……いろいろ」
「なんかエロいな、それ」
「エロ……って、」
「まあ、少しずつでいいからさ、それ全部教えろよ。もう匿名でなくていいんだから」

 慧司は俺の手を引くと、リビングへと連れて行った。夢を見ているようでふわふわする。

「大真、好きだよ」
「お、俺も……、すげえ好き」

 ソファに俺を押し倒すと、そこから慧司のキスが止まらなかった。
 今日はキスだけだと言われたけれど、あまりにも長い時間され続け、終わった頃には唇がヒリヒリするほどだった。
 




 ひとしきりイチャイチャし終えると、俺たちはソファに並んで座った。
 てっきりテレビでも見るのかと電源を入れたのに、慧司はスマホを取り出し、俺の頬にキスをした。
 カシャッと音がして、写真を撮られたのだと分かる。

「いい感じ」

 撮った写真を確認しながら、嬉しそうに笑う。

「慧司、お前、そういう写真とか撮るタイプだったんだ? 知らなかった。さっきからずっとびっくりしてる」
「ああ、写真? まあ撮るタイプでないけど、これはおばさんに送るから」
「……へえ、おばさんにね」

 送るために撮ったのかと一度は納得したものの、俺の知る中で慧司がおばさんと呼ぶのはひとりしかいない。
 ソファの背にもたれていた俺は、誰を指しているのか分かった瞬間飛び上がった。

「おばさんって、俺の母親のこと!?」
「そうだよ。ルームシェアする前に俺の気持ちは話したし、お前のこと大切にしたいって話もしてきた。だから報告すんの」
「……ちょっと待って。嘘だろ、お前強すぎ」

 慧司と出かける前は、1日の終わりがこんなことになっているとは想像もできなかった。
 今日は色んなことがありすぎて、処理が追いつかない。
 しかもまさか、俺の母親に知られていたとは。そして母親もそれを受け入れたってことか!?

「どうなってんの」
「どうもこうも、お前が始めたんだからな。匿名だったけど」
「だってこうなるって思ってなかったし。親に言うとかやばすぎるだろ。怖くなかったのか!?」
「ははっ、何をそんなに驚いて。俺の愛なめんなよ」

 そう言いながら写真を眺めている慧司は、こんなところに皺ができるのかと驚くほど、見たことない笑顔だった。


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