【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

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08:精霊の愛し子

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《さすがに精霊たちはあたしたちの正体に気づいて震え上がってたけどね。何も言うなってあたしが目で黙らせたの。散々クソ雑魚精霊と虚仮にしておいて、いまさら手のひら返しをされても不快なだけだし、もう神殿に留まるのは止めてアンジェリカと一緒にいようと決めてたから》

「……。なんでそこまでアンジェリカにこだわるんだ?」
《あんたも娘をアンジェリカに助けてもらったって言ったじゃないの。あたしはアンジェリカを気に入ってるの。好きだから一緒にいたい、そう望むのは何もおかしいことじゃないでしょ?》
 ディーネたちだけではなく、馬車に詰めている大勢の精霊たちに見つめられて、アーギルさんは納得したように頷いた。

「そうか。アンジェリカは《精霊の愛し子》なんだな」
《精霊の愛し子》は無条件に精霊に愛されるという特徴がある。
 ディーネ曰く、私は他人と比べてひときわ魂が美しく、精霊たちの目には女神セレイエに匹敵する輝きを放っているように見えるらしい。
 人間が美しく光り輝く宝石に惹かれるように、精霊たちは私の魂に惹かれ、愛さずにはいられないそうだ。

《精霊の愛し子》は常人には見えない精霊とも交信することができ、国に豊穣をもたらす貴重な存在だと言い伝えられている。
 だから大事に、大事に――されるべきなのだけれど、あいにくと私が聖王国で大事にされた記憶はない。
 同じ王妃候補たちには平民の孤児と馬鹿にされたし、聖女として活動していたときも教会にこき使われ、大陸中を走り回ったのが現実だ。
 挙句、こうして国外追放の憂き目に遭っているのだから……聖王国の人たちは《精霊の愛し子》を大事にするつもりは毛頭ないようです。

 もっとも、誰も私が《精霊の愛し子》だと知らないのだから仕方ないのかもしれない。
 余計なトラブルを避けるためにも《精霊の愛し子》であることは隠しておきなさいと、亡き孤児院の院長先生に言われたのだ。
 年老いた院長先生は私にとって厳しくも優しい母だった。
 私は大好きな先生の教えを守り、人には見えないものが見えることは隠し通した。

「そうですね。人には見えていない精霊も見えますし、見えない精霊の気配も不思議と感じ取れるので。私は《精霊の愛し子》なのでしょう」
 認めるのはなんとなく気恥ずかしくて、私は頬を掻いた。

「なるほどな。だからお前は他の王妃候補に潰されたのか。四大精霊と契約できるような大聖女相手じゃ敵うわけがない。競わせずとも、初めから王妃はお前に決まっていたようなものだ」
「えっ。まさか、私は平民の孤児ですよ? 他の王妃候補の方はいずれも上級貴族のご令嬢でした。そんな高貴な方々を差し置いて、私が王妃になれるわけ――」
「平民であることが問題なら適当な貴族が養子にすれば良いだけの話だろうが」
 呆れ果てたような顔をされて、私は口を閉じた。

「たとえ元・平民であろうと、四大精霊と契約できるほどの力を持った大聖女を望まない王家がどこにあるんだ。貴族も王族もこぞってみんなお前を欲しがるに決まってる。だから他の王妃候補が危機感を覚え、お前に冤罪を着せて蹴落としたんだろうが。恐らくお前に破門を言い渡したケノックは裏で大貴族と繋がっている。多額の金でも積まれたんだろう」
「……そうだったんでしょうか……って、待ってください。それだと時系列がおかしくありませんか? 私は精霊たちと契約する前から馬車を壊されたり、護衛騎士に放置されたりといった嫌がらせを受けていたんでっ、……すよ」

 石に乗り上げてしまったのか、ガタン、と馬車が揺れ、危うく舌を噛みそうになった。
 振動が終わってから、アーギルさんは口を開いた。

「平民が王妃候補になるなんて常識的に考えてありえないことだ。お前にはよほどの功績があったんじゃないのか。たとえば、他の聖女と比べて桁違いに多くの民を救ってきたとか。人には治せない病を治したとか」
「……まあ、確かに。一度に十人の人を治したり、医者が一目で首を振った重傷者を回復させたり、失った手足を再生させたりするのは私にしかできないことでしたね」
 顎に手を当てて呟く。

「そこまでの異常性がありながら無自覚だったのか!?」
 よほどの衝撃を受けたらしく、アーギルさんは素っ頓狂な声で叫んだ。

「『王妃になれるわけがない』なんて、どの口が言うんだ!? 大聖女の力を持っている《精霊の愛し子》だと!? 存在自体が反則だろう!! 俺はもうお前が怖い!! もし俺が王妃候補だったとしても真っ先にお前を潰してたぞ!! どんなに汚い手を使っても潰してた!!」
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