チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru

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お嬢さま、斬られる!

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ガラガラガラガラ‥‥ガッ!!ゴトン!

王太子殿下の乗った馬車が止まります。

「どうしたのだ」

同乗していたライドが御者に問いかけると、かたほうの車輪が石に乗り上げたと言います。

「急いで石をどかせろ。もう暗くなるぞ」
「はい、直ぐに」

しかし30分ほど作業をしても一部が地面から飛び出している石なのでうんともすんとも言いません。
ドランチを走らせているローゼに何台もの馬車が止まっている光景が目に入ります。
ドランチの速度を落とし、斜面を駆け下りるローゼ。

馬車の中からその様子を見ていた王太子殿下とライドは奇襲かと身構えます。
しかし、続く馬も兵もおらず、鐙(あぶみ)のあたりには布切れがヒラヒラしています。
それが女性だとすぐに気が付きました。

「どうされたのです」

斜面を降りてきたローゼは右へ左へと動くドランチを操り、御者に問いかけます。

「それが…車輪が石に乗り上げてしまって。石を動かそうとしたのですが動かなくて」
「当たり前じゃない。この石、地面の下に99%が埋まってるのよ?動くほうが不思議だわ」
「そんな‥‥ではどうしたら」
「馬車を少しだけ後ろにどけて、避ければいいでしょう?」
「いや、それは他の馬車ならそうしますが、この馬車だけは出来ないのです」
「はぁ?じゃぁどうやって格納してるのよ」
「その時はもう降りられていますから」

言い合いをするローゼと御者の声にライドは様子を見てきますと馬車を降ります。

「何事だ」

その声にライドの方を向くローゼと御者。
ローゼは声をあげた男の顔をみて、その表情を歪めました。

(ライド様・・・・)

遠い記憶がローゼに蘇ってきます。顔を合わせるたびに自分を罵倒し罵った侯爵令息。
しかし、ライドはローゼをみた瞬間動けなくなります。

【トゥクン♪】
(なんだ‥‥なんなんだ?この感じは・・・)

「それが、この方が馬車を一度下げろと仰るので」

御者の声にハっとするライドは馬上のローゼを見上げます。
夕焼けにプラチナブロンドがキラキラと光っていて手綱を操る度に髪が揺れます。
自分がこの目の前の女性を欲しているのだと気が付くのも直ぐでした。

しかし…今は王太子殿下の側近という立ち位置でありここで立ち往生する時間はないと従者に戻ります。

「い、いや、馬車を下げる事は許されない。早く石をどかせるのだ」

ライドの言葉に心の中で(このクズがっ!)と立場逆転で叫ぶローゼ。

「その石は無理よ。動かそうとすればこの道を崩すしかない。そうなればここで1週間は留まらないといけない。出来ないでしょう?下がるだけよ!それが最善かつ早期解決の唯一の方法!」

そこに王太子殿下がついに馬車を降りてきます。
夕焼けの中、馬上でプラチナブロンドを揺らし声をあげる女性をみて王太子殿下の心臓が跳ねます。

(いた!彼女だ!)

しかし、王太子殿下が馬車を降りてきた事で、飛び跳ねる心臓の鼓動とは別に止まりそうになるほどの光景が殿下の目の前に広がります。

護衛の騎士がローゼを取り囲み、抜刀し剣先をローゼに突きつけています。

「女っ!不敬である。死を賜れ」

殿下よりも高い視線の位置にいるローゼに今にも切りかかりそうな護衛の騎士。
それは決して行き過ぎた行為ではなく、彼らには当然の行為なのです。

「ふんっ。降りるわよ。勝手に馬車から降りてきて…なによ」
「女っ!もう一度言ってみろ」
「何度でも言ってやるわ。この状況を打開する最善方法を言っただけ!なんの前触れもなく殿下がおりてきた。咄嗟に馬から下りられるわけがないでしょう?何なのよ。斬りたければ斬りなさいよ!」
「貴様ぁ~」

1人の騎士がその剣をドランチから下りたローゼに振り下ろします。

「やめろ!」

殿下の声と、剣が振り下ろされるのはほぼ同時でした。
加速のついた剣はその刃先に赤い血液をまとい、振り下ろされたまま動きません。

啖呵を切ったものの突然振りかぶった騎士にローゼは咄嗟に半身を引き腕で庇いましたがその腕に刃先が走っていったのです。

「だっ、大丈夫か?!」

護衛の騎士たちが剣を下ろし、膝をつき、頭を下げる中王太子殿下はローゼに駆け寄ります。

「だ、大丈夫ですわ。これしきの傷。それより馬車を少し下げて石を避けてくださいませ」
「判った。進言痛み入る」

そういうと、殿下は馬車を後ろに下げさせて石から車輪をどかせました。
その間にも押さえたローゼの腕からは血がしたたり落ちます。
王太子殿下に血が付着でもすれば今度こそ間違いなく首がとびます。

(持ってきたニャバランボの実で今夜はスープなのよ!食べずに死ねないわ)

色気より食い気。ローゼは王太子殿下に【失礼を致します】と言うとドレスの裾を歯で噛むとビリリと引き裂きます。
しゃがんでいるのでまだ良いですが、突然の行動に騎士も殿下もライドもビックリ。
引き裂いたドレスを生地を二の腕に巻き付けて止血をしていきます。

「本当に申し訳なかった。私が止めるが遅かったばかりに」
「いいえ、わたくしに非があったのです。勿体ないお言葉です」
「この先に領主の屋敷があるのだ。馬車に…」
「いえ、わたくしは所用がありますので。殿下さえ良ければこれにて」
「あ、あぁそれは構わないが治療を」
「大丈夫ですわ。では」

そういうと馬車から離れた位置までドランチの手綱を引き、跨って走っていきます。

その背中を見ながらライドが呟きます。

「何処の娘なんだろうか」

王太子殿下はライドの目にやっと見つけた探していた女性を自分同様に欲しているのだとその目から知ると聞こえない振りをしました。
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