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決定打
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先日から感じている違和感を解消するために時間を作ったオフィーリアはサミュエルのガーゼを取り換えながら提案をしてみる。
「伯爵様、今日は外に散歩でも出ませんこと?」
「外か…しばらくぶりだな。だが長い距離を歩けないんだが」
「大丈夫ですわ。車椅子を用意致しました」
元々軍人だった事もあり、皮膚も丈夫なのだろう。
余程に深いものはまだだが軽いものは瘡蓋も取れてすっかり治癒した部位も見受けられる。
火傷も範囲は広いが、浅めの部分はもう普通に湯殿で擦っても問題がない。
本人は気付かれていないと思っているが、男としての性能を試打している事もオフィーリアだけでなく使用人達も気が付いているがサミュエルには黙っている。
「こんな事皆が知ってるとなれば、わたくしなら自死しますわ。ホホホ」
使用人達も微妙な笑いで返すしかない。確かに人には知られたくはないからである。
今感じている違和感は【口調】と【名称】である。
明らかに変わった口調。それまでは伯爵なのだからと媚び諂う事がないようにと注意をしてきたが、それが全くと言ってよい程無くなった。
時折、「やってくれないか…いや、やってください」と順序を逆にして言う事はある。
だが、順序が逆なのだ。下手に出るのがあとに来るのは意図的だとしか思えない。
そして名称である。オフィーリアが馬に乗って領地に出かける事は伝えているが、馬の名前までは伝えていない。最も、騎乗するのはメビウス号だけなので誰かの話を聞いたという事もあり得る。
新しく購入したあの若い馬の事は一切口にしない。
本人は気が付いていない【無意識】だが使用人の階級について知っている節もあった。
窓を掃除している新人メイドにテーブルなどの掃除をしている古参のメイド。
何かをして欲しい時に声を掛けるのは【古参】の方である。
制服も同じ、年齢もさほど変わらないメイドに記憶を失っているはずのサミュエルは【出来る】と判っている方に声を掛けるのだ。
使用人が2人がかりでサミュエルを1階に運ぶと中庭に通じる廊下に用意された車椅子。
ゆっくりと座らせ、オフィーリアが押して散策をする。
そこでもやはり聞こえてくるのは小鳥の囀りでも、風が草木を揺らす音でもない。
キャサリンの喚き散らす声である。
窓が開けられているので、甲高いキャサリンの声は姿が見えずとも良く聞こえる。
オフィーリアは敢えて気がつかない振りをして車椅子を押した。
「折角の鳥の声がアレでは聞こえないな」
「そうですか。ですがそれもまた一興かと存じますが」
「五月蠅くて適わんな。おい、あれを止めて来てくれ」
後ろを付いてくる者が2人サミュエルの前に出る。
一人は執事。もう一人は半年前まで馬丁をしていた者である。仕事ぶりも真面目て覚えが良い事からオフィーリアが執事見習いとするため格上げをしたのだ。
オフィーリアの賭けでもあった。サミュエルがこの男が馬丁である事を知っているのは半年前、つまり戦地に赴く前である。戦地に赴いた後に格上げをし、その後は下積みで文字の読み書きを行っていたため合わせていないのだ。
その元馬丁が胸に手を当て、きちんと礼をしながらサミュエルに言った。
「私が行って参ります」
「なんでお前が?お前は馬丁だろう」
「いえ、先日から執事見習いとして奉仕させて頂いております」
「あ、そうだったな…そうだった。すまない。頼んだ」
サミュエルの背後で執事とオフィーリアの視線が交差する。お互いに頷いた。
「では、もう少し先に行きましょうか?」
「あぁ、そうだな」
その間もギャーギャ―という声が聞こえてくる。
先ほどの元馬丁が到着したのだろうか。窘める声も聞こえてくる。
「あら?あそこに止まっているのはウグイスかしら?」
「本当だな。キャスの声がなかったら鳴き声も聞こえたろうに」
オフィーリアにとっては決定打ともなる言葉が飛び出した。
キャサリンと名は告げていても、キャスとは一言も言っていない。
勿論、愛称である以上それを使用人達が使う事などあり得ない。
本当に記憶を失っていた時、キャサリンを見ても眉すら動かさずに「おばさん」と悪気もなく告げた時とは明らかに違っている。本人しか呼ばない名前。それが誰を指すのか。
オフィーリアは「ククッ」と思わず喉を鳴らしてしまうほどの笑いを堪えた。
「そろそろ風が出てきましたわ。戻りましょうか」
「もう少し、いいんじゃないか?」
「ふふっ…今日は湯殿で汗を流す日でもありますから」
「そうか!そうだったな」
「えぇ。今日は湯上がりに香油でマッサージも致しましょう。かなり火傷も良くなっておりますから」
部屋に戻ったサミュエルにオフィーリアは新しい従者を紹介する。
占領される前は男娼館で働いていたが、占領後は伯爵家で下男だった者である。
使用人に取り入る事で仕入れた情報の一つに男もイケる男がいる事に聊か驚いたが拾い物だった。
サミュエルはオフィーリアと従者2人に湯殿で丁寧に汗を流してもらう。事務的に洗うだけのオフィーリアの手が股間に近くなるとむくむくと切り株が動き出す。
オフィーリアは目くばせをすると従者がそれを手で洗う。
「今日は念入りに洗いましょう」
「あ、あぁ…だが…」
「判っております。これも伯爵様のお勤めに必要な事でございます」
髪を1人の従者に洗われて目を閉じているサミュエルには誰の手が股間にあるのかなど見えはしない。従者の手が丁寧に切り株の切れ目も洗っていく。
切り取られ繊細な感覚など失った部分には指の大きさなど判る筈もなく、節くれた指に抓まれ弾かれた先端からはサミュエルの声がくぐもると同時に白い液が飛び出した。
満足げな新しい従者とサミュエル。
――快楽は今のうちにたんと堪能くださいませね――
目を閉じ髪を洗い流してもらっているサミュエルにオフィーリアは微笑んだ。
「伯爵様、今日は外に散歩でも出ませんこと?」
「外か…しばらくぶりだな。だが長い距離を歩けないんだが」
「大丈夫ですわ。車椅子を用意致しました」
元々軍人だった事もあり、皮膚も丈夫なのだろう。
余程に深いものはまだだが軽いものは瘡蓋も取れてすっかり治癒した部位も見受けられる。
火傷も範囲は広いが、浅めの部分はもう普通に湯殿で擦っても問題がない。
本人は気付かれていないと思っているが、男としての性能を試打している事もオフィーリアだけでなく使用人達も気が付いているがサミュエルには黙っている。
「こんな事皆が知ってるとなれば、わたくしなら自死しますわ。ホホホ」
使用人達も微妙な笑いで返すしかない。確かに人には知られたくはないからである。
今感じている違和感は【口調】と【名称】である。
明らかに変わった口調。それまでは伯爵なのだからと媚び諂う事がないようにと注意をしてきたが、それが全くと言ってよい程無くなった。
時折、「やってくれないか…いや、やってください」と順序を逆にして言う事はある。
だが、順序が逆なのだ。下手に出るのがあとに来るのは意図的だとしか思えない。
そして名称である。オフィーリアが馬に乗って領地に出かける事は伝えているが、馬の名前までは伝えていない。最も、騎乗するのはメビウス号だけなので誰かの話を聞いたという事もあり得る。
新しく購入したあの若い馬の事は一切口にしない。
本人は気が付いていない【無意識】だが使用人の階級について知っている節もあった。
窓を掃除している新人メイドにテーブルなどの掃除をしている古参のメイド。
何かをして欲しい時に声を掛けるのは【古参】の方である。
制服も同じ、年齢もさほど変わらないメイドに記憶を失っているはずのサミュエルは【出来る】と判っている方に声を掛けるのだ。
使用人が2人がかりでサミュエルを1階に運ぶと中庭に通じる廊下に用意された車椅子。
ゆっくりと座らせ、オフィーリアが押して散策をする。
そこでもやはり聞こえてくるのは小鳥の囀りでも、風が草木を揺らす音でもない。
キャサリンの喚き散らす声である。
窓が開けられているので、甲高いキャサリンの声は姿が見えずとも良く聞こえる。
オフィーリアは敢えて気がつかない振りをして車椅子を押した。
「折角の鳥の声がアレでは聞こえないな」
「そうですか。ですがそれもまた一興かと存じますが」
「五月蠅くて適わんな。おい、あれを止めて来てくれ」
後ろを付いてくる者が2人サミュエルの前に出る。
一人は執事。もう一人は半年前まで馬丁をしていた者である。仕事ぶりも真面目て覚えが良い事からオフィーリアが執事見習いとするため格上げをしたのだ。
オフィーリアの賭けでもあった。サミュエルがこの男が馬丁である事を知っているのは半年前、つまり戦地に赴く前である。戦地に赴いた後に格上げをし、その後は下積みで文字の読み書きを行っていたため合わせていないのだ。
その元馬丁が胸に手を当て、きちんと礼をしながらサミュエルに言った。
「私が行って参ります」
「なんでお前が?お前は馬丁だろう」
「いえ、先日から執事見習いとして奉仕させて頂いております」
「あ、そうだったな…そうだった。すまない。頼んだ」
サミュエルの背後で執事とオフィーリアの視線が交差する。お互いに頷いた。
「では、もう少し先に行きましょうか?」
「あぁ、そうだな」
その間もギャーギャ―という声が聞こえてくる。
先ほどの元馬丁が到着したのだろうか。窘める声も聞こえてくる。
「あら?あそこに止まっているのはウグイスかしら?」
「本当だな。キャスの声がなかったら鳴き声も聞こえたろうに」
オフィーリアにとっては決定打ともなる言葉が飛び出した。
キャサリンと名は告げていても、キャスとは一言も言っていない。
勿論、愛称である以上それを使用人達が使う事などあり得ない。
本当に記憶を失っていた時、キャサリンを見ても眉すら動かさずに「おばさん」と悪気もなく告げた時とは明らかに違っている。本人しか呼ばない名前。それが誰を指すのか。
オフィーリアは「ククッ」と思わず喉を鳴らしてしまうほどの笑いを堪えた。
「そろそろ風が出てきましたわ。戻りましょうか」
「もう少し、いいんじゃないか?」
「ふふっ…今日は湯殿で汗を流す日でもありますから」
「そうか!そうだったな」
「えぇ。今日は湯上がりに香油でマッサージも致しましょう。かなり火傷も良くなっておりますから」
部屋に戻ったサミュエルにオフィーリアは新しい従者を紹介する。
占領される前は男娼館で働いていたが、占領後は伯爵家で下男だった者である。
使用人に取り入る事で仕入れた情報の一つに男もイケる男がいる事に聊か驚いたが拾い物だった。
サミュエルはオフィーリアと従者2人に湯殿で丁寧に汗を流してもらう。事務的に洗うだけのオフィーリアの手が股間に近くなるとむくむくと切り株が動き出す。
オフィーリアは目くばせをすると従者がそれを手で洗う。
「今日は念入りに洗いましょう」
「あ、あぁ…だが…」
「判っております。これも伯爵様のお勤めに必要な事でございます」
髪を1人の従者に洗われて目を閉じているサミュエルには誰の手が股間にあるのかなど見えはしない。従者の手が丁寧に切り株の切れ目も洗っていく。
切り取られ繊細な感覚など失った部分には指の大きさなど判る筈もなく、節くれた指に抓まれ弾かれた先端からはサミュエルの声がくぐもると同時に白い液が飛び出した。
満足げな新しい従者とサミュエル。
――快楽は今のうちにたんと堪能くださいませね――
目を閉じ髪を洗い流してもらっているサミュエルにオフィーリアは微笑んだ。
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