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届けられた手紙の返事を書き終わり、手早く自身の蠟封を押していく。
「では、こちらをお願いいたしますわ」
「これだけでよろしいのですか?」
「えぇ。あちらも忙しいでしょうし面倒な事は早めに終わらせたいから」
「承知致しました」
早馬が屋敷から出ていくのを窓から眺めるオフィーリア。
その後ろでメイは先ほどまでの来客に出していた茶器を片付けながらも機嫌がいい。
「エリザベッタ様、お元気そうですね。良かった」
「そうね。ご懐妊で安定期に入られて何よりですわ」
「大旦那様も元気そうでよかったです。旦那様は大変でしょうけど」
「そうね。お兄様は四六時中お父様と一緒だと胃に穴が開くかもしれないわね」
「こちらもあと1カ月と少しですし、南国でヴァカンスもいいですねぇ。聞けば年中ハイビスカスって花が咲くそうですよ。グラマラスなお姉さんたちが砂浜って所でおっぱいボーンって出して日向ぼっこしてるとか聞きますよ。南国の海がある島にしましょうぉ~。帝国は行こうと思えばいつでも行けますし。ねっ?」
メイの気分は既に南国に飛んでいるようである。ワゴンをメイドに預けながら鼻歌を歌っていると執事とぶつかってしまった。
「おっと、大丈夫ですか」
「アイタタタ‥‥あれ?どうされたんです?」
「奥様に話が御座いまして」
伯爵家の執事は執務をしているオフィーリアを伺うような目で許可を求める。
手には沢山の書類を抱えている事から、オフィーリアはソファに座るよう促すとメイに人払いを言いつける。
伯爵家側の人間かと思いきや、オフィーリアが嫁いでくることで見切りをつけて退職しようとしていたのを使用人が一丸となって引き留めた男でもある。
「その書類はどうされたの?」
「全部で43名分。来月末付けで退職を希望する者の退職願になります」
「結構あるわね。通いの者も含めてなのかしら」
「いえ、通いの者は1年更新としていましたので全員来月末の更新はしないそうです」
「あら?それだと残るのは何人かしら…」
書類を1枚1枚抜かりがないか確認をしながら文字を指でなぞる。
「残るのは1人です。私ですけどね」
「腹を決めてくれたのね。良かったわ」
「いえ‥‥ここまで道筋を作ってくださいましたし、お礼を言うのは私の方です」
「元ある場所に戻すだけ。簡単な事よ。礼など要らないわ」
そう言って数枚の紙を執事に手渡す。先程返事を早馬で出した原因となる手紙である。
差出人は王太子。手元に残した紙はエリザベッタからの私書である。
数枚の紙に書かれている文字をじっくりと読み、薄っすらと涙を浮かべる執事。
指の節でそっと目元を押さえると深く頭を下げた。
「噂には聞いておりましたがさすがは深層の破落戸ですね」
「破落戸‥‥どうせなら深窓の令嬢と言って頂きたいわ。でもこの3年でお父様の手の内も読めたし‥手土産くらいにはなったでしょう」
もうすぐ3年となる領地生活。
オフィーリアは使用人の心の中に入り込み笑顔の裏で計画を立てた。
その中で一番の収穫はサミュエルに苦言を呈する執事だった。
よくよく聞いてみればこの領地を治めていた領主の甥だという。
占領された折に領主一家は処刑をされたがそれを群衆の中から眺めていた男。陥落される前の夜、領主だった伯父は【この地を守って欲しい】と甥に思いを託し屋敷から逃がした。
伯父の守ってきた地をきちんと治めてくれるのならと、読み書きや計算の出来た男は執事として採用をされた。しかし務めてみれば堕落した生活で領民を苦しめるだけの領主。
いつか寝首を搔いてやろうと思っていた所にオフィーリアが輿入れしてくる。
領民に手を差し伸べる令嬢。だが噂もあった。この地が占領される前に小耳に挟んだ噂である。
【あの国の侯爵家は当主よりも令嬢に注意をしろ】
まさか10歳くらいの令嬢が狡猾とも言える当主に何かを進言しているなどとは考えもしない。
深窓ではなく深層というのは深い位置、目に見えない所に手を回し気が付いた時にはもう手遅れと言うもの。破落戸と言われるのは、牙を剥いた時に品行などお構いなしに叩き潰しに来ることからであった。
「あと少し。貴方はこの地を治める領主代行となり、この地は隣国に返る。王太子殿下もそれを認めて下さり返事が届き次第隣国に向けて領土返還の手続きが始まりますわ」
「貴女の加護の元、この地を治めるのも吝かではありませんが…」
「ふふっ。その恨み言はあの男に言ってあげて。良き夫であればそうなっていたでしょうけど…わたくし結婚前の遊興は何とも思いませんが子を成してもいないのに夫を共有する趣味はありませんわ。ましてあの…フフっお古なんて願い下げですわ」
「なら、私はどうでしょうか。隣国の領に戻れば私には子爵ですが爵位はあります。生涯貴女だけと誓えます。と、言いますか‥‥私と一緒に歩んでくださいませんか。側で…笑っていて欲しい‥」
「あら?ダメですわ。まだ人妻ですもの。不貞は契約違反よ」
「わ、判っています。今すぐではなく…その…決まった時にもう一度!」
「ふふっ。では、聞かなかった事にしておくわね」
侯爵家は王家に対して【円満な婚約解消】としているがあくまでも表向き。
第二王子を粛清しようがシルヴィアの男爵家を一族郎党処罰しようが些細な事。
侯爵家が望んだのは実権を影で握る事だった。
第二王子とオフィーリアが結婚をする事で第二王子を取り込み、王太子を支えるべく金を出す一方で侯爵家側の人間を要職につけ実質の実権を握る事だった。
しかし第二王子の婚約破棄騒動で計画を中止せざるを得なくなった。
父の計画は頓挫し、怒りの収まらない父に【円満な婚約解消】をさせたのはオフィーリア本人である。
戦友とも言えるエリザベッタをただのお飾り王妃とするには余りにも惜しい。
頓挫した計画にやきもきする父に進言したのはこの領地。
元々この領地はサミュエルが先陣をきって侵攻した事による隣国の領土。
領民も勿論隣国の民だったものが、ある日突然こっちの国の国民ですとされた地。
おまけに領主は無能で馬に乗って剣を振るだけの軍人。
傀儡にし易いかと思ったが年増の女に入れ込んでいたのは予想外だったけれど領の収支を向上させ元は隣国の領土だった事から交易の場として侯爵家に付随させることにしたのだ。
「勝算はあるのか?」
「勿論。多少出費は必要となりましょうが、回収は10年を見込んでいます」
「10年か‥‥長いな」
「10年あれば、わたくしが子を産みその子が治めるにもう数年。隣国との交易を牛耳る事が出来れば次の世は王太子殿下の世となります。熟成した肉の旨味は至極の味にて」
「王家も手が出せぬほどに強固な地位を外から築くか」
「王太子殿下とて前門の虎、後門の狼となる侯爵家に口出しも致しますまいと」
「そちらの方が面白そうだな。伯爵家と話をつけよう」
「穏便に…お願いしますわ」
そうして金に困っていた伯爵家は渡りに船とこの話に飛びついたのだった。
しかし計画とは時にイレギュラーな事が起こりえるもの。
人生の汚点とサミュエルが言ったこの結婚。
貴族の結婚とは個人間のものではなく家同士の結びつきを意味する。
サミュエルには【家】というものが元々は父が1代限りの騎士伯だった事もあり、概念が薄いが伯爵ともなれば【知りませんでした】は通用しない。
結婚した以上、結果として子が成せなくとも養子を取れば問題はない。
共に両家が領を治め、経営をしていかなくてはならない。その為に侯爵家は破格の持参金を伯爵家に結納しているのである。いわばそれが【貴族の契約】でもあるのだ。
初夜で子を成す事もない事を告げられ、オフィーリアは子を断念せざるを得なくなった上、持参金は使い込み。貴族としての矜持のないサミュエルにオフィーリアは【契約違反】として制裁をすべく動き出した。。
【本物の汚点】として3年で全てを奪い取り、頂点から奈落へ突き落す事を決めたのだ。
侯爵である父には隣国の自領とする事で折り合いをつけた。
――契約を守って頂ければ生涯遊んで暮らせましたのに――
オフィーリアは口角をあげた。
先ずは領民をこちら側につける。それは簡単だった。
見事なまでに放置をされていた領民たちは少し手を差し伸べ、少しだけ知恵をつけ、少しだけ金を投入する事で完全にオフィーリアについた。
計画を遂行する上で、雨にぬれたり、泥にまみれる事など造作もない事である。
むしろ綺麗に着飾り、微笑の裏を読みあう貴族同士の腹の探り合いのほうがもっと手ごわく手間もかかり面倒でしかない。貴族の付き合いは体当たり勝負は効果がない。
その点領民や使用人をこちらにつけるのは簡単だった。
サミュエルとキャサリンの仲睦まじい様子など取るに足らぬ事。
むしろもっと派手にしてくれれば完全に裸の王様となるのにと思ったほどである。
順調に進む計画。順調すぎたのかも知れない。
最大のイレギュラーが起こってしまった。サミュエルの記憶喪失である。
負傷して帰還する事は想定していたが、記憶を失っているとなると面倒だった。
離縁をしようにも結婚をした事を本人が自覚しておらず、本人の本当の意思であるかとなれば問題視される。通常の離縁でもそうであるし、白い結婚とするにも記憶を失った期間はおそらくカウントをされない。
記憶が戻るまでズルズルと引き延ばされてしまう。
どうした物かと考えていた時の違和感。間違いなく記憶は戻っている。
この2か月で何がトリガーになったかは判らないが、これでフィナーレを迎えられる。
あと数日。天国をサミュエルに与えるオフィーリア。
「ふふっ…伯爵様…天国への階段の手すりを持つのも、他人を地獄に突き落とすのも己の手なのですよ」
小さく呟くとメイの淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
★~★
次回は最終回です。
最終回投降後にコメントを読んで返信を致します。
すみませんが返信お待ちください<(_ _)>
「では、こちらをお願いいたしますわ」
「これだけでよろしいのですか?」
「えぇ。あちらも忙しいでしょうし面倒な事は早めに終わらせたいから」
「承知致しました」
早馬が屋敷から出ていくのを窓から眺めるオフィーリア。
その後ろでメイは先ほどまでの来客に出していた茶器を片付けながらも機嫌がいい。
「エリザベッタ様、お元気そうですね。良かった」
「そうね。ご懐妊で安定期に入られて何よりですわ」
「大旦那様も元気そうでよかったです。旦那様は大変でしょうけど」
「そうね。お兄様は四六時中お父様と一緒だと胃に穴が開くかもしれないわね」
「こちらもあと1カ月と少しですし、南国でヴァカンスもいいですねぇ。聞けば年中ハイビスカスって花が咲くそうですよ。グラマラスなお姉さんたちが砂浜って所でおっぱいボーンって出して日向ぼっこしてるとか聞きますよ。南国の海がある島にしましょうぉ~。帝国は行こうと思えばいつでも行けますし。ねっ?」
メイの気分は既に南国に飛んでいるようである。ワゴンをメイドに預けながら鼻歌を歌っていると執事とぶつかってしまった。
「おっと、大丈夫ですか」
「アイタタタ‥‥あれ?どうされたんです?」
「奥様に話が御座いまして」
伯爵家の執事は執務をしているオフィーリアを伺うような目で許可を求める。
手には沢山の書類を抱えている事から、オフィーリアはソファに座るよう促すとメイに人払いを言いつける。
伯爵家側の人間かと思いきや、オフィーリアが嫁いでくることで見切りをつけて退職しようとしていたのを使用人が一丸となって引き留めた男でもある。
「その書類はどうされたの?」
「全部で43名分。来月末付けで退職を希望する者の退職願になります」
「結構あるわね。通いの者も含めてなのかしら」
「いえ、通いの者は1年更新としていましたので全員来月末の更新はしないそうです」
「あら?それだと残るのは何人かしら…」
書類を1枚1枚抜かりがないか確認をしながら文字を指でなぞる。
「残るのは1人です。私ですけどね」
「腹を決めてくれたのね。良かったわ」
「いえ‥‥ここまで道筋を作ってくださいましたし、お礼を言うのは私の方です」
「元ある場所に戻すだけ。簡単な事よ。礼など要らないわ」
そう言って数枚の紙を執事に手渡す。先程返事を早馬で出した原因となる手紙である。
差出人は王太子。手元に残した紙はエリザベッタからの私書である。
数枚の紙に書かれている文字をじっくりと読み、薄っすらと涙を浮かべる執事。
指の節でそっと目元を押さえると深く頭を下げた。
「噂には聞いておりましたがさすがは深層の破落戸ですね」
「破落戸‥‥どうせなら深窓の令嬢と言って頂きたいわ。でもこの3年でお父様の手の内も読めたし‥手土産くらいにはなったでしょう」
もうすぐ3年となる領地生活。
オフィーリアは使用人の心の中に入り込み笑顔の裏で計画を立てた。
その中で一番の収穫はサミュエルに苦言を呈する執事だった。
よくよく聞いてみればこの領地を治めていた領主の甥だという。
占領された折に領主一家は処刑をされたがそれを群衆の中から眺めていた男。陥落される前の夜、領主だった伯父は【この地を守って欲しい】と甥に思いを託し屋敷から逃がした。
伯父の守ってきた地をきちんと治めてくれるのならと、読み書きや計算の出来た男は執事として採用をされた。しかし務めてみれば堕落した生活で領民を苦しめるだけの領主。
いつか寝首を搔いてやろうと思っていた所にオフィーリアが輿入れしてくる。
領民に手を差し伸べる令嬢。だが噂もあった。この地が占領される前に小耳に挟んだ噂である。
【あの国の侯爵家は当主よりも令嬢に注意をしろ】
まさか10歳くらいの令嬢が狡猾とも言える当主に何かを進言しているなどとは考えもしない。
深窓ではなく深層というのは深い位置、目に見えない所に手を回し気が付いた時にはもう手遅れと言うもの。破落戸と言われるのは、牙を剥いた時に品行などお構いなしに叩き潰しに来ることからであった。
「あと少し。貴方はこの地を治める領主代行となり、この地は隣国に返る。王太子殿下もそれを認めて下さり返事が届き次第隣国に向けて領土返還の手続きが始まりますわ」
「貴女の加護の元、この地を治めるのも吝かではありませんが…」
「ふふっ。その恨み言はあの男に言ってあげて。良き夫であればそうなっていたでしょうけど…わたくし結婚前の遊興は何とも思いませんが子を成してもいないのに夫を共有する趣味はありませんわ。ましてあの…フフっお古なんて願い下げですわ」
「なら、私はどうでしょうか。隣国の領に戻れば私には子爵ですが爵位はあります。生涯貴女だけと誓えます。と、言いますか‥‥私と一緒に歩んでくださいませんか。側で…笑っていて欲しい‥」
「あら?ダメですわ。まだ人妻ですもの。不貞は契約違反よ」
「わ、判っています。今すぐではなく…その…決まった時にもう一度!」
「ふふっ。では、聞かなかった事にしておくわね」
侯爵家は王家に対して【円満な婚約解消】としているがあくまでも表向き。
第二王子を粛清しようがシルヴィアの男爵家を一族郎党処罰しようが些細な事。
侯爵家が望んだのは実権を影で握る事だった。
第二王子とオフィーリアが結婚をする事で第二王子を取り込み、王太子を支えるべく金を出す一方で侯爵家側の人間を要職につけ実質の実権を握る事だった。
しかし第二王子の婚約破棄騒動で計画を中止せざるを得なくなった。
父の計画は頓挫し、怒りの収まらない父に【円満な婚約解消】をさせたのはオフィーリア本人である。
戦友とも言えるエリザベッタをただのお飾り王妃とするには余りにも惜しい。
頓挫した計画にやきもきする父に進言したのはこの領地。
元々この領地はサミュエルが先陣をきって侵攻した事による隣国の領土。
領民も勿論隣国の民だったものが、ある日突然こっちの国の国民ですとされた地。
おまけに領主は無能で馬に乗って剣を振るだけの軍人。
傀儡にし易いかと思ったが年増の女に入れ込んでいたのは予想外だったけれど領の収支を向上させ元は隣国の領土だった事から交易の場として侯爵家に付随させることにしたのだ。
「勝算はあるのか?」
「勿論。多少出費は必要となりましょうが、回収は10年を見込んでいます」
「10年か‥‥長いな」
「10年あれば、わたくしが子を産みその子が治めるにもう数年。隣国との交易を牛耳る事が出来れば次の世は王太子殿下の世となります。熟成した肉の旨味は至極の味にて」
「王家も手が出せぬほどに強固な地位を外から築くか」
「王太子殿下とて前門の虎、後門の狼となる侯爵家に口出しも致しますまいと」
「そちらの方が面白そうだな。伯爵家と話をつけよう」
「穏便に…お願いしますわ」
そうして金に困っていた伯爵家は渡りに船とこの話に飛びついたのだった。
しかし計画とは時にイレギュラーな事が起こりえるもの。
人生の汚点とサミュエルが言ったこの結婚。
貴族の結婚とは個人間のものではなく家同士の結びつきを意味する。
サミュエルには【家】というものが元々は父が1代限りの騎士伯だった事もあり、概念が薄いが伯爵ともなれば【知りませんでした】は通用しない。
結婚した以上、結果として子が成せなくとも養子を取れば問題はない。
共に両家が領を治め、経営をしていかなくてはならない。その為に侯爵家は破格の持参金を伯爵家に結納しているのである。いわばそれが【貴族の契約】でもあるのだ。
初夜で子を成す事もない事を告げられ、オフィーリアは子を断念せざるを得なくなった上、持参金は使い込み。貴族としての矜持のないサミュエルにオフィーリアは【契約違反】として制裁をすべく動き出した。。
【本物の汚点】として3年で全てを奪い取り、頂点から奈落へ突き落す事を決めたのだ。
侯爵である父には隣国の自領とする事で折り合いをつけた。
――契約を守って頂ければ生涯遊んで暮らせましたのに――
オフィーリアは口角をあげた。
先ずは領民をこちら側につける。それは簡単だった。
見事なまでに放置をされていた領民たちは少し手を差し伸べ、少しだけ知恵をつけ、少しだけ金を投入する事で完全にオフィーリアについた。
計画を遂行する上で、雨にぬれたり、泥にまみれる事など造作もない事である。
むしろ綺麗に着飾り、微笑の裏を読みあう貴族同士の腹の探り合いのほうがもっと手ごわく手間もかかり面倒でしかない。貴族の付き合いは体当たり勝負は効果がない。
その点領民や使用人をこちらにつけるのは簡単だった。
サミュエルとキャサリンの仲睦まじい様子など取るに足らぬ事。
むしろもっと派手にしてくれれば完全に裸の王様となるのにと思ったほどである。
順調に進む計画。順調すぎたのかも知れない。
最大のイレギュラーが起こってしまった。サミュエルの記憶喪失である。
負傷して帰還する事は想定していたが、記憶を失っているとなると面倒だった。
離縁をしようにも結婚をした事を本人が自覚しておらず、本人の本当の意思であるかとなれば問題視される。通常の離縁でもそうであるし、白い結婚とするにも記憶を失った期間はおそらくカウントをされない。
記憶が戻るまでズルズルと引き延ばされてしまう。
どうした物かと考えていた時の違和感。間違いなく記憶は戻っている。
この2か月で何がトリガーになったかは判らないが、これでフィナーレを迎えられる。
あと数日。天国をサミュエルに与えるオフィーリア。
「ふふっ…伯爵様…天国への階段の手すりを持つのも、他人を地獄に突き落とすのも己の手なのですよ」
小さく呟くとメイの淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
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次回は最終回です。
最終回投降後にコメントを読んで返信を致します。
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